24-1 いてこませ、博霊隊
旋回する落石カラスを捕獲してお仕置きした。落石カラスは賢いから俺の言葉をちゃんと理解してくれる。
カラス達が飛び立ち、俺の周囲を飛び回って忠誠心を示した。
元々俺のペットやしな。俺がおらん間は命を守る行動を取ってたみたいやが、飼い主が帰ってきたとあれば手のひらを返すもんよ。
さてさて、上空から敵陣営を観察しましょっか!
敵は落石カラスの異常行動に気づいて慌てている。
敵陣の多くを占めるのはレッドスカル。火山エリアのモンスターで割りかし賢く、トロールと落石カラスの中間くらいの頭脳がある。言語を理解するが喋ることはできない赤い骸骨。
敵の野営地に広がるレッドスカルの赤い点々がひとつ、またひとつと崩れていく。
鉱石トカゲの鳴き声が聞こえた。『失敗』の二文字が頭をよぎるが、次の瞬間には鳴きやんでいた。
なかなか隠密行動がうまくいってるんじゃないか。
陽動狙いで落石カラスに石を落とさせる。レッドスカルが上を向いたところでハナマルくんの双剣が牙を剥き、最後のレッドスカルの首が跳ねられた。
どうやらこの野営地にはレッドスカル、鉱石トカゲ、落石カラスしか居なかったようだ。他には捕虜と見られるエルフが牢で見つかった。
透明化した三人は野営地の中心で待機している。次の命令を待っているのだろう。落石カラスを引き連れて彼らの前に着陸。
俺は見えるけど、みんなは透明化で互いの姿が見えないわけやし、チームの連携が乱れると心配したけど杞憂だったぜ。
「透明化はまだ解くな。ようやったな三人とも。見つからずに制圧するなんてやるやん」
「この指輪のおかげですよ。というよりもケーちゃん先生、カラスがすごいことなってますけど大丈夫ですか?」
全部で6羽の落石カラスが俺の触手を止まり木にしている。
「大丈夫大丈夫。いつものことや」
「そのモンスターは狩らなくていいのかい?」
「このカラスは全部俺のペットやからな。見かけても殺しちゃいかんぜ」
「なんで?」
「資料で見てるやろうけど、一応説明すると草原エリアにヤタガラスってのがおる。足が3本のカラスや。見てみ、こいつらの足も3本やんか。こいつらは成長してイタズラするようになったヤタガラスなんや。ヤタガラスは殺しちゃいかんぜ」
「なんで?」
「なんか罰当たりやんか」
ポカーンとしてる三人にヤタガラスを差し向ける。キュートな踊りを見せつけてやれ。
「「「カタカタ! カア! カア!」」」
「「「カタカタ! カア! カア!」」」
三本の足でステップを踏んで、クチバシをカタカタ鳴らせる。
透明化した三人の周りを盆踊りみたいに移動して騒ぐヤタガラス。
全羽違わぬ動きで派手なダンスをしながら歌を披露する。
「カタカタカタ! カアカアカアカア!」
「「「「「「カア!」」」」」
「コングラチュレーションズ! ステージクリア!」
パァン!
クラッカーを炸裂させて任務成功を祝う。
華麗なるヤタガラスダンスに三人はほっこりしていた。
「え! これ毎回やってくれるんですか!?」
「ヤタガラスを解放するごとに増えるぜ。81羽いるヤタガラスを全部集めるとすごいことが起きるから楽しみにしとけ」
サブクエストがあると俄然やる気が湧いてくるやろ。ヤタガラスを全羽揃えたい気持ちになってくるやろ。
「捕虜、どげんする?」
「牢を開けて放置や。もちろん自力で帰らせるぜ」
透明化した三人に牢を開けさせ、亡霊の存在を恐怖と共に捕虜たちに植え付ける。俺は隠れてその様子をそっと見守った。
牢を出たら怯えて帰るだろうぜ。捕虜のエルフからしてみれば、俺らが敵か味方かもわからんからな。泳がせて仲間のところに案内させてるだけかもわからんし、背中からブスリとされるかもわからん。常に後ろを気にしながら帰るがいい。
「移動中も透明化は解除すんな。でも風呂の時は解除してもええぞ」
「解除するわけないだろ。ケーさんほんとにスケベだね」
「エッチ! ヘンタイ!」
「さっきは見せてくれたんやからええじゃんか。拒否するならなんでさっきは見せてくれたんや」
「命令だったろ。透明になれる今、一緒に入れと言われても裸を見せるつもりはないね」
「オレは解除しますよ!」
「ハナマルくんありがとな。そう言ってくれるだけで嬉しいわ」
サキさんはまだしも、ユーキちゃんならハナマルくんと同じ答えが聞けると思ったんやがな。心まで乙女になったんか。
お湯に浸かり、ある程度匂いを消してから移動再開。当然ヤタガラス達も同行する。鳥が大群で飛び回っていたら噂になるだろうけども、これくらいで狼煙は上がらない。
モンスターにも誇りはあるもんな。この程度のことでビクついてたら連合軍に笑われる。仲間の士気もだだ下がりになる。ヤタガラスの群れが不吉の象徴になるまでは大丈夫や。
いっそダンジョンじゅうに噂を広めて、落石カラスを博霊隊のシンボルにしよう。
「いひひひひひ。楽しくなってきたねえ!」
「びっくりした! 急に笑わないでおくれよ。集中してんだからさ。ケーさんは透明化しないのかい?」
「俺は目立たねえからな」
「ばりばり目立ってますよ!」
「え? そ、そう? じゃあ変装しねえとな。でも消えたら俺のこと見えなくなるんじゃねえか」
「見えるから大丈夫だよ」
「輪郭だけですが多分大丈夫だと思います」
「え、見えねえのオラだけ?」
「なら大丈夫やな」
「でぇじょうぶじゃねえぞ。勘で動いとったのはオラだけやったんか!」
「でぇじょうぶだ。気を感じろ」
「気ってなんなん?」
城エリアのモンスターは戦闘になったら当たり前のように見破ってくるからな。ハナマルくんとサキさんのように目が良いだけの可能性もあるけど。
俺も透明化して移動する。ユーキちゃんが透明化を見破れないという話は本当のようで、時々俺らを見失っていた。
ユーキちゃんが先頭を歩けば、俺らがユーキちゃんを見失うことはなくなる。そうユーキちゃんに言い聞かせて先頭を歩かせる。
「二人ともここで止まれ。ユーキちゃんだけ行かせるぜ」
「「了解」」
俺たちは止まり、ユーキちゃんひとりだけ森の奥へとどんどん進む。
途中で俺らが居なくなったことに気付いて、ユーキちゃんが泣き出した。
「わああああん! みんなああああ!」
森の中で俺らを探し、さまようユーキちゃん。それを遠目に見ながら三人で嗤う。
「いひひひひひ、可愛いねえ」
「おい。ユーキをいじめんじゃないよ」
「そう言いながらサキさんもノッたやんか」
「そりゃあ、まあ、あれだね。あれだよ。命令だろうが」
せやな。絶対服従なの忘れとったわ。イタズラ好きなのはメンバーの中で俺だけやもんな。みんな真面目で偉いな。
「いひひひひひ、いかんいかん。キラービーを刺激してもうた。ユーキちゃんがあぶねえ」
数匹の大きな蜂がユーキちゃんの上空を旋回していた。
ヤタガラス衆に命じてキラービーを食べてもらう。刺される前に防げて良かったわ。あれに刺されるとめっちゃ痛いもんな。
「なして居らんくなるとおお! ひどいやんかああ!」
「さーせんさーせん。せっかくやからキラービーの巣を探そうぜ。ユーキちゃんにはハチミツを沢山やるからな。甘いぜぇ〜」
キラービーの巣は地下に作られるため見つけにくい。経験豊富な自衛官ですら、巣に気づかずに近くを通ってキラービーを怒らせたことがある。
キラービーと言っても、ミツを集める点以外は地球のミツバチと全く違う。その姿はオオスズメバチの極悪バージョン。体が大きくて針が長い。
毒性が強く、針に刺された部分は大きく腫れ上がって壊死してしまう。俺らの体には毒が効かないけど、針は刺さるし毒液は注入される。
これがめちゃくちゃ痛い。
キラービーの針攻撃は鉱石トカゲの鱗を貫くほどの威力を持つ。大量のキラービーに襲われたら城エリアモンスターでも死に至るとして、見つけたら逃避行動を優先すべしと恐れられるモンスターだ。
敵陣にたくさんのキラービーを放って、モンスターどもの慌てふためく姿が見たい。
思いついたら即実行。まずはその準備、キラービー捕獲作戦開始や。触手を広範囲に伸ばして索敵するとすぐにキラービーの巣が見つかった。
キラービーは巣を襲う者を率先して攻撃するから、他の三人には離れてもらう。
地面を掘ると大きな巣が出てきた。住処を荒らされたキラービー達が激情している。
取り出す時は刺されてもいいようにスーパー黄色人になって肌を頑強にする。こうすれば針が通らない。
以前は何もしなくても針を通さない体だったけど、それじゃ人生面白くないし生き物っぽくない。そう思うにつれて精神と肉体の反応速度が高まった反面、精神の変化で肉体が変化しやすくなり激しい痛みが増えた。
毒が効かない肉体なのにキラービーに刺された時は、刺された部分が風船みたいに膨れ上がった。壊死しないだけマシだけど、膨らんだ皮膚を割る瞬間はキラービーに刺されるときよりも恐かったし、痛かった。
皮膚を割ると同時に、割った部分からプシューと空気が抜けて全身がペシャンコになったし、空気を入れて全身を膨らませても、穴から空気が漏れて大変だった。
今はキラービー対策がバッチリできている。口に入れても痛くない。
顎を外して大きく口を開く。巣にかじりついて生きたまま飲み込んでやると、キラービー達が出口を求めて腹の中をブンシャカしている。
数が全然足りないから飛びまわるキラービーも捕獲したい。
触手の毒腺を広げて掃除機のように吸い込んでいく。入り口は毒腺、行き先は腹部。消化液は出さないから安心して暮らしてちょうだいね。
「ユーキちゃ……」
ぶぶーん! ぶんぶん!
口の中に残っていたキラービーをごっくんする。もったいないから噛んじゃダメ。
「ユーキちゃんのために蜂の子とハチミツ持ってきたぜ」
「あ、ありがと」
「姿が見えなくてよかったよ。色がついたら完全にホラーだったね」
キラービーの蜜を四人で分け合い、取っておいた鉱石トカゲの肉とあわせて鉄板焼きにしてもらった。
蜜塗りステーキの食感は最高に柔らかく、噛んだ途端にプチプチと肉の繊維が切れて肉汁があふれてくる。味は甘辛。腹の中のキラービー達も喜んでいる。
レッドスカルの骨から取れた出汁と蜂の子を入れたスープをすすり、栄養満点の薬草サラダで口の中の油をすっきりさせた。
「美味しい!」「最高です」「ちょーうめえ」
「えへへ、作ったかいがあるよ」
サキさんいつもピリピリしてるけど、料理を褒められて照れるなんて可愛いところもあるやん。これがギャップ萌えってやつな。
「サキさん料理がうまいねえ。毎朝俺のために味噌汁を作ってくれんか?」
「味噌がないよ」
「それな」
プロポーズの鉄板ネタを華麗に回避された。しまったな、このために味噌を用意しとくべきやった。




