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23-2 完成、スリーマンセル

「エルフに手を貸すのはええんやがな。移動しながらでええから状況を説明してくれや」


 はじまりは森エリアモンスターの襲来だったらしい。傷だらけのアシナガグマがエルフの村周辺をウロついていたという話だ。アシナガグマは無事討伐されたものの、村人たちの不安は取り除かれない。


 普段、アシナガグマはテリトリーから動かない。積極的に生き物を狩る肉食傾向の強いテナガグマと違い、アシナガグマの主な食べ物は高所にある木の実や昆虫であることから、決まった場所を徘徊する。

 ここまで来るということは何者かによって縄張りを追い出された可能性が高い。


 その後、アシナガグマテリトリーの調査へ向かったエルフの斥候が、人数を減らして帰ってきたそうだ。


 報告によるとアシナガグマテリトリーは無数のモンスターに占拠されており、種族を超えた集まりが野営地を築いていたという。

 野営地へ潜入したエルフの斥候が見つかり、残りの斥候たちは尾行を巻くために散らばって逃げた。


 調査報告を受けてエルフ村の長老はエルフの国《エルフェン国》と小人の国《クレイン国》に使者を送る。

 現在、小人のクレイン国は地球人対抗を目的として士気を高めている。総戦力が削られるのを嫌がったが、評議の結果、エルフの村への援軍の派兵を承諾。


 受けなきゃ侵略者と人間の挟み撃ちになるしな。地球人側の総戦力がわからない時点で小人に選択肢はない。


 エルフのエルフェン国は独自の情報網で侵略者の侵攻を知っており、使者が到着する前にはすでに村へ援軍を送っていたそうだ。


 エルフにとって、このエルフ村は火山エリアと渓谷エリアを結ぶ中継地点にある。エルフ村近辺には大きな川が流れており、この川は博多ダンジョンで最も長く大きな川だ。

 森エリアは広大で小川が何筋もあるが、火山エリアと草原エリアを繋げる本川はこの一本しかない。


 水を制するものは国を制す。エルフ村を占領すれば、草原エリアを手に入れたも同じだ。


 ここにエルフ小人連合軍が完成し、エルフ軍の中に俺らも含まれて出兵となったらしい。


 この連合軍が動き始めたのが数週間前のこと。

 戦闘開始して最初の頃は、森エリアのモンスターとの戦闘が多かったらしい。逃げてきたモンスター達はすでに疲弊していて撃退するのは難しくなかったが、問題は火山エリアのモンスターだ。


 統制の取れた動きで火山エリアのモンスターが森に侵攻してきた。次々とエルフの小村を襲撃して、小村を支配下に置きながら勢力を拡大。敵は拠点の建設を早めるため、捕虜のエルフや小人に労働させた。逆らう者はモンスターの餌にしているそうだ。

 敵はラストダンジョンの城エリアからやってきたと予想されるが、実際には主犯格だけでなく隊長格の正体もまだ掴めていない。


「いひひひひひ、寝てる間におもろいことなってんな。まさにファンタジーやんけ」


「笑ってる場合じゃありませんよ。エルフも小人もみんな諦めかけています。このままじゃ草原エリアまで進攻されて、敵に占領されますよ!」


 敵とか味方とか。おめぇらはどっち側やねん。まあいい。それは後で確認するとして、今は博多ダンジョンの管理が優先やな。解決しなきゃなんない問題は他にもある。とりあえず今は話を合わせておくか。


「トロール軍団はどうしたんや?」

「なに。トロールだって?」

「トロール軍団は森エリアのボスや。森エリアと火山エリアの境界線近くにいくつも砦を築いとってな。潰さないと次のエリアには進めんのや」


 研修の時にビデオを観ているはずなのに、どうやら三人ともトロール軍団のことが頭から抜けていたらしい。

 トロール軍団と戦っていないということは、まだ森エリア止まりってことか。


 トロール軍団は敵側の勢力についたか、それとも全滅か。奴らは巨体と腕力だけで、頭は悪いから強いやつが命じれば簡単に従う。おそらく侵略者側についたかな。

 毎日強さを見せつけないと忠誠心を忘れてしまう厄介な奴らだが、俺の姿を見たらこっちにつくだろう。


 それはちょっと面白くない。せっかく戦記ファンタジーっぽくなってるんだから俺は前に出たくない。俺が出しゃばったら物語は終わるからね。


 三人の成長のため、なるべく高みの見物を決め込みたい。


「トロールは広い森エリアの境界線を埋めるくらい人口が多い。敵側がトロールを全部まとめているとしたら、エルフと小人じゃ正面からぶつかり合うことはできねえな。そうなった時点で勝ち目はない。つまりトロールを完全に統制できていないってこと。

 敵が横一列に進んで包囲戦を仕掛けて来てくれるなら、罠で侵攻を遅らせ、戦力の薄いところから一撃離脱で潰していく戦法が取れる。

 そうなっていないのは、敵の参謀は定石がある程度わかってるからや。話によれば、敵は陣地を拡大させながら堅実に侵攻しとる。

 エルフが得意とする戦術を潰すつもりや。どこからともなく現れて、狙撃しては姿を消す奇襲戦術をエルフは得意とする。

 陣地を構えて少しずつ侵攻すれば、エルフの奇襲戦術が通用しない。このまま連合軍側が防衛に徹すれば、彼我の戦力差は開くばかりでいずれ飲み込まれる。奇跡でも起きなきゃ負けだぜ」


「奇跡ありますよね。ね、ケーちゃん先生!」


「敵側がどんな形で陣地を築いているかによるぜ。敵が森エリアを包囲するように陣地を増やしていたら、生活に使う川が遠くなる。水場から離れた敵陣地の食糧庫を優先して撃破すれば、敵は生活用水の調達が困難になり、連合軍側が防衛するだけで敵は兵糧切れを起こす。ここまで追い詰めれば、敵は陣地の存続を諦め、攻めるか撤退かの2択しかなくなる。

 攻めさせて網におびき寄せれば叩くは易し、撤退する奴らの背中を射抜けば敵の力を削ぐのは容易い。

 俺が敵の参謀ならば、そうならないように川が見える位置に陣地を敷く。まずは敵の戦略を知ることが先決や。敵を知らねば奇跡を起こしても立て直されるぜ」


 それっぽいことを言っても全部妄想や。相手がどんな手を使ってくるかなんて実際に見ないとわからん。多種多様な性能を持つモンスターが相手なら尚更やね。


「情報収集となると大規模な団体行動はできない。これより俺たちは連合軍から離れて遊撃隊となる。楽しい楽しいゲリラ戦だぜ!」


「連合軍から離れるって、上に報告しないとダメじゃないですか!?」


 上ってなんや、上って。おめぇらはいつからモンスターどもの下についとんねん。


「俺らはこれから敵陣地を無差別に破壊して撹乱するんや。集めた情報は連合軍にも渡さん。

 奴らが知るのは破壊し尽くされた敵陣地のみ。祟りをもたらす森の亡霊となり、先住民にも侵略者にも絶大の恐怖を植えつけてやるぜ!」


「アタイ恐慌無効あるのに、どうして鳥肌たってんのか不思議だね」

「先生の辞書。謙虚を足したい」


「博多ダンジョンの亡霊部隊。略してチーム名『博霊隊(はくれいたい)』! ここに結成や!」


 四人の手を重ねて決意を新たにする。

 勝ち負けなんてどうでもいい! 絶対楽しくやるってな!



 まずはエルフ陣営を偵察する。エルフ陣営は本川から少し離れた森に巨大な拠点を設けている。尖った丸太の囲いで防御を固めていた。

 エルフは手が器用な種族で木工を得意とする。鋭利な石さえ手元にあれば、木の上に小さな家を作ることも容易くやってのける。


 目を凝らして木の上を見ると、葉に隠れて小屋が見えた。これがエルフの奇襲戦術のカラクリだ。どこからともなく現れるのではなく、どこにでも隠れているのだ。小屋の中にいるのはたったひとり。たったひとりで木の上を飛び回り、何人分にも見せる戦術を取る。笛が鳴れば近くの他の小屋からもエルフが出てくるって寸法だ。


「ケーさん。こっちは味方陣営だろ。何を見てんだ?」

「俺らが敵の陣地を攻撃したとして、それがもし敵にバレたら、残りの勢力で連合軍拠点に攻めてくる可能性がある。どれだけ残党を押し付けていいか、連合軍側の兵力を確認せんといかん」


 侵略者側に遠距離通信手段があるかはわからんけども、攻撃地点からのろしがあげられた場合に敵陣営の行動が読めなくなる。何をするにしても最悪のケースを想定してからや。最悪のケースにわざと誘導してみるのもおもろいかもしれんが。


「よし、じゃあ連合軍陣営から近い敵陣地から撃破していくぜ。見つからないように移動するぞ」


 三人を連れて本川が見える距離を保ちながら走る。その途中で川の水を飲む大きなトカゲを見つけた。本来、森エリアには現れない火山エリアのモンスターだ。


「あれは鉱石トカゲや。耳も目も良くない。その代わり、匂いと振動に敏感だぜ。近くを歩くくらいなら警戒されないから静かに近づけ」


 鉱石トカゲは10匹の群れで行動している。中には川を泳ぐ奴もいた。火山エリアには水場が少ない上に天敵が多いため、ここは奴らにとって快適な空間だろう。

 主食の鉱石は少ないが奴らは雑食だ。森エリアへの移住を考える鉱石トカゲも、敵の中から現れるかもしれないな。


「鉱石トカゲは鳴き声が大きい。鳴く前には動きを止める。もし気づかれたら鳴く前に口を塞いでやったれ」


 こいつらで闇討ちを鍛えよう。おそらく敵陣地にも鉱石トカゲがいる。真っ先に仕留めておくべきモンスターの倒し方は今のうちに学んだほうがいい。


 軽く座学をしてから、狩りの材料集めをした後、二手に分かれる。


 片方はサキさんとユーキちゃん。森エリアに生息する巨大ネズミの肉に、ちょっと細工をしたものを渡した。やってもらうのはトカゲ釣りだ。


 俺とハナマルくんは川の中に潜って近づく。本川は深くて流れもあるが、裸の俺たちなら抵抗をそれほど受けずに進める。

 ハナマルくんは息継ぎが必要らしいけども、今のところ潜水状態を続けられている。


 泳ぐ鉱石トカゲの下についた。トカゲは四肢をバタつかせて水面に浮かんでいる。

 人の命を簡単に奪うモンスターでも、下から見たら可愛いもんだぜ。


 バタつく足に触手を引っかけて水中に引きずり込む。慌てるトカゲの腹にハナマルくんが双剣を突き刺し、ハラワタを引っ張り出したらトカゲから力が抜けた。


 血が水中に漂う。仲間の血の匂いに釣られて他のトカゲが川に飛び込んできた。

 こいつら鉱石トカゲはステータスが高いかわりに知性が足りない。仲間の死骸でも平気で食べる。命令がなければ食欲に従って動く可愛いやつらよ。


 寄ってきた鉱石トカゲを次々と水中に引きずり込んでハナマルくんに捌いてもらう。このやり方で7匹をやった。残り3匹。


 赤い水面から頭だけ出して河原の様子を見る。すでに残り1匹となっていた。鳴き声が聴こえなかったということは、二人に任せた釣り出し戦術が成功したんやな。


 巨大ネズミの肉がトカゲの死体のそばに落ちていた。あれには薬草から作った麻痺毒が混ぜてある。三人がいつでも毒を調達できるように生育環境や調合方法など色々と教えた。

 鉱石トカゲ最後の1匹は日向ぼっこして寝ているようだ。

 のんきな奴の頭にサキさんが刀を突き立てた。


 闇討ち成功。昼だけど。


 鉱石トカゲの肉は焼くと柔らかい。いったん飯にする。

 ここから先は体臭にも気をつけなければいけないということで、お風呂タイムも同時にとった。


 初めての混浴や。女どもの裸が見れてラッキーだぜ。裸を見せても気にしないだなんて心までモンスターになったんやな。俺は心が少年やからムラムラして仕方がないわ。


 遊びでハナマルくんとユーキちゃんに光るちんちんを近づけてやると、サキさんに叩っ斬られた。先っちょが遠くへ飛んで行ったからすげービビった。細く繋がってたから戻せたけど焦るわ。


 ハナマルくんとサキさんは怒ったけど、ユーキちゃんは満更でもない表情やったぞ。元々男の子やしな。下品なこと大好きなはずやし、ワンチャンあるかもしれん。俺の嫁候補やな。



 移動再開。鉱石トカゲがいたということは周辺に敵の野営地があるかもしれない。


「周辺を探る。俺が力を使えば簡単やが、今回は三人に任せるぜ。今後のために索敵能力がどれだけ上がったのか見せてくれや」


 三人は河原に戻って痕跡を探す。鉱石トカゲが群れで移動したとなれば、周辺に何かしら痕跡が残るはずやしな。


 どうやら鉱石トカゲは川沿いを歩いてきたわけではなく、森を抜けてきた先で川を見つけたようだ。敵陣は森の中にあると推測される。


 砂利しかない河原と違って、森であれば足跡が残りやすい。鉱石トカゲは体が大きいため、腹を引きずった跡や木の根元にこすられた傷などもあり、痕跡が見つけやすかった。


 痕跡を逆に辿っていくだけで敵陣が見つけられた。上空には火山エリアのモンスター:落石カラスが2羽旋回している。


「落石カラスは知性が高く、しつけがしやすいモンスターだぜ。おそらくあれは偵察やろうな。止まり木にとまったら動くぜ。こっからも隠密行動で行く。見つかるなよ」


 流石にゲームのようなステルスプレイはできないだろうから隠密道具がいる。リトライできるなら無茶をさせられるけど、こっちは失敗ができないリアルモードだからな。


「おめぇらは目立つ容姿やからな。魔法の道具で姿を隠したほうがええ。ファンタジー名物『透明になる指輪』。悪用しちゃダメだぜ」


「また指輪かい。多くても9個までにしてちょうだいよ」


 左手薬指だけ嵌めないって宣言ですかー。


「その手があったか! 10個渡しゃあ婚姻成立やんか!」

「アホか」


「冗談はさておき、この指輪に魔力を流したら起動すっからな。魔法を解きたいときはもう一度魔力流せ」


 もっと指輪に機能をつけられたらええんやが、手持ちのスキルにない魔法は1つまでしか付けられん。

 ステータスカードに書かれて無いだけで付与できんとかケチなシステムや。


「侵入したら鉱石トカゲを真っ先に消せ。透明化しても見破ってくるぜ」


 透明化しても振動、匂い、空気の乱れ、体温、足跡など、物が動くときに出るエネルギーまでは消せない。おそらく実際に透明になるわけではなく、生物の視覚そのものに作用する魔法なのだろう。


「透明指輪の弱点は知恵でカバーせんといかん」


 敵がもし城エリアのモンスターなら、気づかれた時点で透明化は通用しない。奴らは魔法を使ってこない分、戦闘能力が達人クラスやからな。透明化を使いながら戦ってもアドバンテージにならん。


 同体重階級の格闘戦なら俺でも普通に負ける。なんなら完封負けや。ズルせんと勝てん。


「俺は上空で落石カラスをやる。そのあとは腰抜けを見つけたら狩るわ。1匹たりとも逃がさん。おめぇらはのろしをあげられないよう隠密に敵を消していけ」


 三人は頷き、透明指輪を起動させた。足跡を残して姿が消える。めちゃくちゃ視力が良い俺の目には三人のシルエットが見える。


「博霊隊、出陣じゃ」


 俺は隠密魔法を使わない。上空から恐怖を撒き散らす仕事があるけんな。


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