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19-2 闇、混沌、そして光

 朝、サキ姉と同じベッドで起きる。ウチは朝の稽古があるから早めにサキ姉の部屋を出た。


 昨晩は最高だった。お互いに経験がなさすぎて恋話は咲かなかったけど、代わりにいろんな話ができた。

 お互いに一人っ子で、お互いに負担を強いられる過去を持ち、お互いに情熱がない。まるで大人の自分と傷を舐め合っているようだった。


 親に言えない気持ちを共有できる理解者。生まれて初めて沸いた謎の感情が抑えきれなくて、とにかくサキ姉にくっついた。ふくよかなおっぱいに頭をグリグリした。そしたらお返しにサキ姉もウチの胸に頭をグリグリしてきた。なんだか楽しかった。


 一緒に住んでくれるって話になったし、帰ってきた闇のお母さんも了解してくれた。お爺ちゃんとお父さんも尋ねる前から了解した。今日から全く新しい1日が始まると思うとワクワクする。


 昨晩の事ばかり考えてたら朝の稽古が終わった。道場を出て朝ご飯を食べに向かったら、お母さんと一緒にサキ姉がご飯の準備をしてくれていた。1日目にして馴染んでら。


「ナギちゃんおはようございます」

「サキ姉おはよー。メガネかけなくていいの?」

「あー、かけてもかけなくても視力が一緒みたいでして。きっとレベルアップの恩恵でしょうね」

「メガネ業界が知ったら泣くね」


 そんな他愛のない話をサキ姉としてたら、闇のお母さんが割って入ってきた。


「ナギ、今日はダンジョン研修に行ってきなさい。予約しておいたから。サキちゃん、よかったらナギの薙刀を持っていってくれないかしら」

「はい。いいですよ。ナギちゃんが検定2級取るまではお付き合いします」

「じゃあずっとダンジョン検定受けないどこっかなー。サキ姉に付き合って欲しいし」

「えー、それはー」

「あんた! サキちゃんを困らせないの! サキちゃんごめんなさいね。お姉ちゃんができたみたいで調子に乗ってるのよ」

「私も妹ができたみたいで嬉しいです。そんなに気を使わないでください」


 えへへ。妹だってさ。ウチも嬉しいよ!


「しっかりしてるわあ。うちのと取っ替えたいくらいよ」

「えへへ、そんで闇のお母さんはこれからどうすんの。悪魔んとこに入り浸るの?」

「こら、ケーさんのことを悪く言うんじゃありません。あんたが思ってるよりずっと優しくて、寂しい人なんだから」

「完全にダークサイドの人間ですな、えへへへ」

「あんた以上に光の戦士よ。さっさと飯食べて洗礼を受けてきなさい!」

「へいへい」


 隣に座ってるサキ姉の様子がおかしい。さっきから静かだ。


「……サキ姉? どうしたの? 大丈夫? どこか痛いの?」


 急にサキ姉が震え始めた。顔面が蒼白で、大きく開いた目から涙が流れてる。あまりに突然なことで、いったい何がそうさせたのか心配で胸が締め付けられる。


「ごめんなさい。昨日のこと思い出したら震えが止まらなくて」


 隣からギュッと抱きしめたらサキ姉の震えが止まった。涙が出るくらい昨日の出来事がショックだったみたい。

 ウチも昨日は死んだし、今日も死ぬかもしれないと思うと怖い。でもあの悪魔が付いている限りは死んでも大丈夫だと思うと気が楽になる。




 自衛隊駐屯地の入り口でサキ姉の足は止まった。ここから先は武器の持ち込みが禁止されてるもんね。ウチの薙刀を持ってきてくれたからここまでしか来れない。ずっと外で待たせるのは申し訳ないんだけど……。


「ナギちゃん。研修は生半可な覚悟じゃ残れないから頑張って」


 サキ姉はダンジョンでの実技研修で合流してくれることになった。お母さんが先方にもそう伝えてくれたみたい。

 案内通りのルートを進んで研修室に到着。誘導されるように前の席へ流された。


 人が続々と研修室に入ってくる。夏休みだからか若いグループが多く見えた。ウチと同じ年代も結構いる。あー、緊張するー。


 開始時間きっかりに研修室の扉が閉まった。満席だ。ずいぶんと人気な研修みたい。昨日予約取ってもらっておいてよかったかも。


 教官は手代ロミ。知ってる名前だ。ロロの身内で悪魔の花嫁。


 いよいよ研修が始まる────。



「い゛や゛ああああ! ザキ姉えええええ!」

「怖かったですね。よしよし」


 悪魔。まさしく悪魔。あれが光の戦士なわけがない。研修ビデオもリアルで怖かったけど、それ以上の恐怖で上塗りしてしまったあいつがこわい。

 暗闇と無数の首と糞とゲロ。全ての汚れは消え去ったのに狂気の残滓が頭に響く。


「この後もありますから。しっかり気合い入れましょう」

「やだあああああ! 帰るうううう!」


 もう疲れた。胃の中空っぽだし。もう嫌だ。出たい。実際ここ外だし、出てるし。このまま帰れるし。泣きながら帰ってる人がいっぱいいるし。


「お姉ちゃんパワー注入! こしょこしょこしょ!」

「あっ♡ あっ♡ あっ♡」


 優しい。くすぐったいけど感じちゃう。絶妙なマッサージが全身の緊張をほぐしてくれる。


「いけますね? 大切なのはこの後ですから。昨日みたいな目には絶対に合わせたくありません。頑張ってください」

「こわいけど……いってみる……」


 長い道のりを経て研修室に帰ってくると、後ろで扉が閉められた。ギリギリセーフだったらしい。

 さっきは満席だったのに研修生が半数以下に減ってる。

 ウチがどこに座ろうか見渡してると、一斉に席を立った人たちがこっちを見た。全員が顔を真っ青にして閉じた扉を見ている。なーんか嫌な予感。


 ドドドドドッ!!


 悲鳴と怒号を飛ばす研修生たちがウチごと扉を壊そうと雪崩のように押し寄せてきた。

 人の波に揉まれて正確な数はわからないけど、とにかく本心から残りたい人が一人もいないのはわかった。


「落ち着いてください。落ち着いて御着席ください。実技研修は既に始まっています。皆さんは今、恐怖の向こう側を覗こうとしています。ひたすら自分と向き合ってください。皆さんが再びここを出るとき、恐怖で動けなくなることは無くなります」


 扉とウチを守ってる自衛官が冷静に声をかけた。何度も繰り返し説得してくれるから、みんながだんだん落ち着いてきたみたい。少なくとも扉と人の間に挟まれて死ぬみたいなことにはなってない。


「皆さん落ち着いて、御ちゃちゃちゃちゃちゃ……」


 ブシャーーー!!!!


「「「ぎゃああああああああああ」」」


 なに? 見えない。なにが起きたの。見たくない。見たくないよ。


 冷たくてぬるりとしたものが後頭部に触れる。

 どうしようもない気持ち悪さに駆られ、床だけ見ながらその場から離れた。


 悲鳴がとどまることを知らない。もはや当たり前のようにトイレのにおいが充満してる。


 なんだか、苦しい。喉が、苦しい。おえ。


 ブシャーーー!!!


「ナンカデター! ナンカデタヨー!」

「「「きゃああああああああ」」」


 口から長いの出たー! しかも喋ったー!


 怯える側だったのが一転、脅かす側に。こりゃ楽しい。


「イタイヨー! クルシイヨー!」


 先端のイソギンチャクから赤い液体を飛ばしつつ、みんなを仲間に引き入れるために演技する。怯えて逃げ惑うみんなの姿がたまらない。ゾクゾクする。

 ただちょっとやりすぎちゃった。怖がらせすぎちゃった。


「イタイ! イタイ! ナンデ!?」


 胸から生える大きめの解体ナイフ。脇腹と腹にも刺さってる。

 複数の傷口からドクドクと血が流れた。体から急速に血が失われる感覚がわかる。


「やべ!」


 そんな大声が聞こえたあと、ドアを蹴破って悪魔が入ってきた。


「「「いやああああああああああ!!」」」


 今日一番の悲鳴が各所から上がった。悪魔再臨だ。


 そんなん考えてる場合じゃないつーの。キツい。立つのもツラい。寝転がろう。くっさ。オシッコ? あーもうどうでもいい。

 あーほら。死ぬ。死んじゃう。ま、でも悪魔がいるから大丈夫か。


「やっべ。ダンジョン外だと死者蘇生できねんだわ」


 ウチだけに聞こえるように耳元で悪魔が囁いた。安心が急に絶望に変わる。

 嫌だ。死にたくない。こんなところで死にたくない!


「イヤダーーーー! シニタクナーイ!!」

「いひひひひひひひひひひひひっ!」


 嫌だ。お母さん助けて。サキ姉助けて。死にたくないよ。


 意識が……遠のいて………あっ♡


 あれ。死んだ。普通に死んだ。ウチ今、幽霊じゃん。見下ろしてんじゃんウチの死体!


 ちょっと最悪なんですけど! 口からミミズ生やして死ぬって最悪の死に様なんですけど! ウチはいたいけな女子中学生なんだよ!?


 あー、でも前みたいに真っ暗じゃないだけマシか。幽霊って一番ラッキーな転生先じゃん。地獄よりは絶対マシ。でも見てるだけなのはツラいからポルターガイスト目指そうっと。


 ウチを殺した連中がショックで泡吹いてる。一生憑いていくから覚えてなさい。


 うん? あっちで悪魔が花嫁と話してるな。ここからじゃ聞こえない。もっと近づこう。


「死んじゃったぜえ。ここらが潮時やろ。みんな〖恐怖耐性LV.1〗ついてるし」

「せっかくケーちゃんに作戦付き合ってもらったのに、これで最後になるのは残念でありますな」

「うす。そんじゃこれっきりやな」


 首謀者はあの女か、さすが悪魔の花嫁。完全に尻に敷いてるし。


「そんじゃ、生き返らせますわ」

「できるようになったでありますか!?」

「うんにゃ。できるようになったんはこっちの世界のダンジョン化や。墓守やっててよかったぜ」


 生き返られるのウチ!? やった! 昨日に引き続き2度目だけど!


「ほんじゃあ。おめぇさん。体のほうに戻ってくれるか」


 幽霊にも恐怖ってあるんだ。びっくりした。完全に目があったよ。こいつなんなの。なんで当たり前のように霊能力あんの。めちゃくちゃこわいんですけど。


 ぱんっと手を打つと全てのホラーが消え去った。

 でもウチは起き上がらない。解体ナイフが3本刺さったままだ。


「「「きゃあああああああああああ」」」


 みんな驚いてら。ホラーが終わったと思ったら死体だけ残ってるから。


 悪魔が乱暴にナイフを引き抜く。引き抜くたびに血が辺りを濡らして悲鳴が上がった。

 悪魔がウチの死体に手を当てると一瞬で傷口も服も治った。こいつすごい。人間じゃない。やっぱり本物の悪魔だ。


「さ、体に入ってくれや。粉かけるで」


 パラパラと光の粉をかけてる。

 引き寄せられるように不思議と体に戻っていった。


「ぷはー! 死んだかと思った!」

「死んだぜ。これで二度目やな」


 そうだ。昨日はお母さんが地獄の勢力と契約したから生き返られたんだ。じゃあ今回は何を差し出すの。


「何を要求するの?」

「離婚や。ほぼほぼ別居やし、きっとこれからもや。チューしかしてねーのよ、結婚してからずっと。結婚式もやってねーし」


 花嫁のほうだ! ウチじゃなかったー! ラッキー!

 でも悪魔はアンラッキーみたい。


「泣いてんの?」


 悪魔の目にも涙ってやつ。いいもん見れたわ。


「うんにゃ。泣かへん。怪物やし」

「泣いてんじゃん」

「あれ……久々やな」


 悪魔を泣かせるってすごい女ね。さすが悪魔の花嫁。いや、もう花嫁じゃないから……えーと、悪魔か。


「別れて正解だよ」

「お、慰めてくれるんか。でもええんや。ロミ少佐も老いてきたしな」

「サイテー」

「冗談や。あー。きっつい。こんな冗談言うもんじゃねえな」


 自分で言って自分で傷ついてるし、意外と人間らしいとこあんじゃん。


「そろそろ説明に移りたいであります。そちらの女子も席についてください」


 いつのまにか研修生は2人にまで減ってた。ウチと男の子だけになってら。

 説明会が始まった。本格的なやつだ。知らないことばっかりでノートにメモするのが大変。


「ほら、これ俺の名刺や。ゾロ目は高く売れるぜ」


 説明中というのに悪魔がウチと男の子の後ろをウロチョロしてる。気が散るからやめて欲しい。男の子なんて悲鳴あげてるし。

 アルムから貰ったやつとこれで2枚目だし、売れるなら売ってお小遣いにしようっと。


「かわいいねぇ。名前なんてゆーの」

「ひぃ…き、如月ユーキだしゅ……」

「これ俺の名刺や。ゾロ目は高く売れるぜ」

「ど、どうもあ、あんがとうごじゃいましゅだ」


 説明会が終わってサキ姉と合流できた。

 バスの中でユーキとも自己紹介して、早速診断テストの話題を出してみる。ユーキの学校でも診断テストは流行ってるみたいで、勇者の診断結果が出たからダンジョンの研修に来たらしい。最初は友達と一緒に来たって話だったけど、いつのまにか置いていかれたみたい。

 それでウチと仲良くなれるならラッキーじゃんね。友達も羨ましがるよ。

 ウチもこいつとは仲良くしていきたい。一緒にいるだけで笑えるもん。


「でもこの診断テスト怪しいって話知ってる? あの悪魔の名前入れてみ?」

「悪魔ってケーさんのことにゃ? そがん失礼なこと言っちゃだめさー。入れてはみるばってんがくさ」

「きゃはははは」


 めっちゃなまってんのこいつ。くそウケる。

 若干直そうって意識はあるみたいだけど、家にテレビがないらしくて標準語がわかってないのよ。そのせいでぐちゃぐちゃな方言になっちゃってんの。


「なんが可笑しかつか。ケーさんの診断出たっさ。光の戦士ち。ほわー、当たっとるじゃねーかち。オラも勇者で間違いなかぞ」

「きゃはははははは! いひひ! どこからどうみたら光の戦士になんのよ! 悪魔よ悪魔!」


「ちょっとナギちゃん。あの人こっち見てるから、声落として……」

「ごめんサキ姉。気づかなかった」


 めちゃくちゃなアナウンスでガイドしていた悪魔がジーッとこっちを見ている。


「テステス〜、診断テストでございます〜。お次は手代ロミでございます〜」

「なんの話でありますか?」

「診断テストの話だぜ」


 これはもしかして悪魔も診断テスト知ってるの? ランキング1位だからみんな知ってるか。


 試しに入力してみっかな。『手代ロミ』っと。


「婚約指輪の魔法使い? 変わってる……昨日まで悪魔の花嫁だったのに……」

「ナギちゃん、そのテストの制作者を見せてください」

「それが制作者は匿名だからわからないわけよ」

「リアルタイムで更新してるわけですか。個人ごとに。怪しいのは研修室の中にいた人ですね」

「いんや、絞られるのは2人だけよ。ロミ教官か悪魔のどちらかだって。離婚のこと知ってるのはウチとその2人だけだし」

「え、離婚って。何かあったんですか」

「大したことじゃないよ」

「そうですね」


 まあ、十中八九あの悪魔が制作者よね。ロミ教官にはスマホをいじる時間なんて無かったし。

 悪魔が作った診断テストにウチら若者は踊らされてたってわけか。許せない。


「勇者ユーキ。この診断テストさ。あの人が作ったやつなんだと思うよ。ホントに勇者になれるかなー。他の夢を見つけたほうが良さそー」

「そがんなもんはついでさ。あの研修で気づいたさね。ケーさんばチカラは本物ばい。オラはダンジョンであのチカラば手に入れる。そして、必ず……必ず……」


「そんなに怒ったらかわいい顔が台無しだぜ」

「「「ひぃ!」」」


 いつのまにか悪魔がユーキの隣に座ってた。

 なんだろう。なんでこんなに怖いんだろ。心の底から恐怖してる。二度も命を救われたのに。


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