19-1 闇、混沌、そして光 ※ステータスあり
闇の中。死んだのに意識があるのが何より恐ろしい。
無と生の混濁。この混沌が永遠に続くかもしれない。そう思うと恐くてたまらなくなる。
地獄なら苦痛がある。天国なら娯楽がある。でもここは何もない。
地獄より地獄。天国より天国。痛みも快楽もなく、悩み事はひとつしかない。
暇だ。
「やー、やー、やー……やあ、やーやーやー」
遠くから聞こえてくる声。集中するとよく聞こえる。
「やあ。清水ナギ。おはよう」
誰? どうしてウチの名前を知ってんの?
「明かりが欲しいか」
欲しい!
パッと明るくなった。目の前に広がるのは生活感のある部屋。棚に漫画やアニメがぎっしり詰まってる。他にはガラスケースに入ったプラモデルやソフトビニール人形もある。
オタク部屋だ。
「正解。ここはオタク部屋だ。ただし宇宙の外にある」
いやいや、なんでよ。なんでオタク部屋にいるのよ。ウチは死んだんじゃ。手がない! 足もない!
「ほら、鏡を見てごらん」
扉の向こうから聞こえる声に従って壁側に置かれた姿見鏡を見る。体が写ってない。
鏡に仕掛けがあるのかと思って、ガラスケースの反射を見てみたけど何も写らない。
カーテンをあけて窓を見ようとしたけど手がないから開けられない。通り抜けようとしても何かに阻まれて外に出られない。
ここから出して!
オタク部屋の扉が開いて坊主頭の男が入ってきた。その手にはおぼんがあり、大皿の上に一口サイズのスイカを乗せていた。
まあまあイケメンかな。クラスに一人はいるタイプ。
「この容姿を褒められても嬉しくないがな。さあどうぞ食べて」
あ、どうも。いただきまーす。
って……手がないじゃん!
「ナイスツッコミ。いいね。成長の見込みがある」
あなた何者なの。ウチを誘拐してどうするつもり?
「いいボケを見せてもらったから招待した。ここで死なせるのは惜しいと思ってね」
生き返らせてくれるの!?
「素人の笑いがもっと欲しいのだ。テレビはお年寄り向けになりすぎてつまらん。君が笑いを提供してくれるのなら生き返らせても構わない」
よーし! じゃあ渾身の一発いくよー!
すぅーはぁー。すぅーはぁー。
"アニメに目が無い兄眼鏡!"
「うん。そういうのはいらない。オヤジギャグで笑わせようとするのが一番寒いから普通にしてくれ。本気で笑わせたいならしっかり世界観を作ってからキャラをその中に落とし込んでほしい」
研究不足でごめんなさいね。
え、なんで? 悪いことしてないのになんで謝ってんの?
「そうそうそれそれ。じゃあその調子で天然ボケとツッコミ頑張ってくれ。ケーちゃんよ。私の喜びが聞こえるか? そろそろいいぞ」
だんだんと部屋の明かりが落ちて意識が薄れる。
……やばい、苦しくて死にそう。
呼吸が苦しくてむせる。まぶたを開くと光が戻ってきた。青空が見える。
「オタク部屋は……?」
「ナギ! ナギーーー!」
「お母さん……?」
肩を掴まれてグッと顔を押し付けられる。涙と鼻水で濡れた顔をウチの道着で拭いてるみたいだ。ばっちいの……ばっちいは言い過ぎか。
「ウチ、生きてるの……」
「あんた死んだのよ! 真っ二つにされて!」
「じゃあここは……オタク部屋じゃないの……」
オタク部屋で説教される夢? 生き返って最初に見る夢がそれって、ウチどんだけストレス溜まってんの。
「あんたさっきから何わけのわからないこと言ってるの!? ちゃんと生き返らせたんでしょうね! そういう契約でしょ!」
「ここはオタク部屋じゃないぜ。調子はどうや、記憶はあるみたいやが」
悪魔がいる。禍々しさが神話級の悪魔がいる。
「ここは地獄?」
「せやで。これからおめぇの母親を地獄の軍勢に加えるんや。おめぇもどうや?」
どういうことなの。お母さんが悪魔と契約したってこと?
「ウチは……光の戦士になる女だから」
「そんならしゃあないな。いつかダークサイドに堕ちるまで待つわ。チカラが欲しくなったらいつでもおいでな」
悪魔は地獄のスカジャン軍団を引き連れて酒盛りに行った。
お母さんは四人の仲間と話してる。一緒に小人と戦った仲間。ウチの仲間。
「どうかナギをよろしくお願いします。私は彼らに弓術を教えなければいけませんので。これからの予定を合わせに行ってきます」
「お母さんは本当に闇の勢力に加わるの?」
「ばか! ちゃんと目を覚ましなさい! 本当によろしくお願いします」
それだけ言い残してダークサイドの連中を追いかけて行ったお母さん。いつか敵同士で戦う日が来るかもしれない。
「ナギちゃん。今日のところは一緒に帰りましょう。住所は教えてももらいましたから家まで送ります」
「あ、どうも。えっと、サキさんと他は誰でしたっけ」
ウチ以外の自己紹介がまだだし、戦闘中の呼び名だからうろ覚え。
一緒に戦った仲間とはいってもさ、名前も知らない相手に家まで送られるのは流石に抵抗があるでしょ。
自己紹介しろ、とは口に出さなかったけど態度でわかってくれたみたいで、それぞれ自己紹介をしてもらった。スマホのカメラで録画したから、もし忘れても大丈夫。
性別不明の手代ロロ。モンスターに憧れるイケメン大吉ハナマル。フェンシングの貴公子森アルム。刀剣女子の佐々木サキ。
移動しながら仲を深め合う。年齢が離れた友達はいないからちょっと接し方がわからなかった。だけどみんな優しくて、学校の友達と話す感覚でいいよ、って言ってくれたから普段通りに接した。
みんな今日の研修を受けてステータスカードってやつを出せるようになったらしい。
ウチも全身ポリポリ掻いてみたけどステータスカードが出てこない。
「レベル30を超えないと出てこないよ。検定の勉強してないの?」
「ウチは中学生よ。そんな暇無いし」
「そんな甘ったれた意識でダンジョンに挑んだら死ぬよ。実際死んだし。ちゃんとお母さんの言うことを聞いたほうが身のためだよ」
はあ。何こいつ。急に説教し始めたんですけど。こいつに対してなんか困らせること言った?
言ってねぇよなぁ? 喧嘩売ってるわ完全に。
「うっざ。そんなの言われなくてもわかってるし。そんなことよりステータスカード見せてよ。ウチが出したときに比較するから」
「個人情報だからカードを要求するのはマナー違反だよ」
「アルムー! こいつウザいからアルムのカードちょーだーい!」
「反抗期真っ最中だね」
「ウザい! 入ってくんな! アルムちょーだーい!」
「いいっすよ」
和むわー。アルムみたいにお利口さんな人と結婚しよー。友達はしょっちゅう彼氏と喧嘩してるけどさ、喧嘩するカップルとかマヂありえん。喧嘩するほど仲がいいとか迷信でしょあれ。ウチの家庭じゃありえないし、あったら普通に離婚だわ。ウチはそういう彼氏は絶対やだね。
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【LV.30】
【種族】ヒト
【重さ】 70
【戦闘力】MAX:3070
【タフネス】 2770
【魔力】 14
〈スキル〉
〖恐怖耐性LV.1〗
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ステータスカード見せてもらったけど、体重しかわからない。単位をちゃんと書いといてよね。
「ついでにケーちゃんのもあげるっす。拾い物っすけど」
「ケーちゃん? なーんか聞いたことあるような」
「あの悪魔だよ」
あー。あれかー。なんか聞き覚えがあるんだけど。忘れちゃったわ。
「ふーん、見せて」
「はいっす」
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【LV.444】ケー・スマイル・ダーク@KSmileDM33
【種族】極複製神製ダークマター魔法存在・極娯楽神の使者
【重さ】 50
【戦闘力】MAX:5×10^50
【タフネス】 不滅
【魔力】『極複製神の魔法金属』により無限
【スペック】
『極複製神の魔法金属』『極複製神の魔石』
『極娯楽神の魔石』『極複製神の神鏡』
『極娯楽神の植毛』『極娯楽神のお気に入り』
『愚者の中の愚者』
〈スキル〉
〖神パワー〗〖超・神パワー〗
〖猫の爪〗〖三毒〗
〖黒紫のオーラ〗〖スーパー黄色人〗
〖強い糸〗〖電撃〗
〖墓守〗
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「ダークサイドは手強そう。戦闘力バグってるし」
このスペックとかいう欄はなんなんだろ。アルムのステータスカードには無いけど。それを聞いてみたら誰も答えられなかった。
「魔法かー……ウチも使えるはずじゃんねー。光の戦士ってことは光魔法のはずじゃんね」
「あの、その光の戦士へのこだわりはなんなんですか?」
ふんふーん。よくぞ聞いてくれましたなー。
「そういう診断結果が出たからに決まってるじゃん。友達は火の剣士だし。サキちゃんも診断してみよーよ」
スマホってほんと便利。人生を左右するかもしれない診断テストだって無料で受けられるんだもん。お金に困る中学生に優しい。
「えっとねー! サキちゃんは火の剣士だよ! 刀使いだからバッチリじゃん!」
「な、なるほどー。う、嬉しいなー。私は火属性ですかー」
「オイラも占って欲しいっす!」
「これ占いじゃないから。診断だから。そこ大事。えっとねー。アルムは闇使いの聖騎士だ。敵じゃん」
「そんなー!」
ハナマルは魔物だった。喜んでたけど、いざとなったら討伐するよ。
ついでにロロも診断してやったら双槍使いだった。なんか普通。
「意外と当たってそうなんだけど。それ、名前入れただけだよね」
「そうよ。まさか疑ってんの? ランキング1位の診断テストなんだよ?」
「ランキングが1位だからって正確かどうかとは関係ないけどね」
「うっざ……つまんないこと言うの好きですねー!」
「ロロ、これすげえぞ。ニックネームでも入れられるみたいだ」
やっぱイケメンは違えわ。フォローの仕方が一味違えのよ。こういう味方が欲しがられるわけよ。うんうん。ウチはハナマルみたいな人と結婚すると思うなー。
「結果は?」
「魔物だった」
「嘘でしょ。ちょっと貸して」
どれどれ、ハナマルのアカウント覗いちゃおっと。あ、あの悪魔の顔をアイコンにしてる。地雷じゃんか。アカウント名わかんないな。プロフィールに戻してよ。
手代ロミ? 誰の名前? 他人の名前入れるなんてサイテー! ロロサイテー!
でも気になるわー。見ーちゃおっと。なになに? 悪魔の花嫁か。敵じゃん。
「マジか……そうだ!」
よく人のスマホを軽々と扱えるなあ。ウチのは絶対ロロに触らせないように気をつけよーっと。
ケー・スマイル・ダーク。あー、あの悪魔ね。結果は……ふむふむ、光の戦士か。
「あの悪魔が光の戦士ってのは嘘でしょ」
「一気に信憑性が低くなったな」
「このサイト怪しいですね」
「カードには光なんて一文字も書かれてないっす」
みんなの意識が診断テストから離れてしまった。ウチもだ。信じてたのに。ウチの中で何かが崩れる音がする。
「そんな……ウチの適正が……嘘……?」
もう何を信じたらいいのかわからない。これが絶望。いっそこの身を闇に堕としてお母さんと一緒になるか。
「あ、ナギちゃん、大丈夫?」
「大丈夫じゃない。これを信じて光の戦士になるって決めたのに。これが嘘なら、じゃあ……どうなるわけ?」
「別にこの診断結果がどうであろうがオレが目指すものに変わりはないけどな。ケーちゃんさんが光の戦士ならオレは光の戦士を目指すしな。ナギちゃんにはそういう夢みたいなの無いのか?」
「あるよ。クラスの人気者になる夢があるよ」
「じゃあならないと。光の戦士にさ」
そうだ。この診断テストが本当だろうが嘘だろうが、光の戦士になれば目立てるわけじゃん。ウチが身をもって証明するんだ。諦めなければ診断どおりの結果になるって。
「ハナマルがモンスターになりたいのはわかったけど、他のみんなはなんでダンジョンを目指してんの。ウチらだけ話すのは不公平じゃん。教えてよ」
ちょっと間があったけど、空気を読んでアルムが手を挙げてくれた。よかった。誰かが反応してくれないと白けるとこだったじゃん。
「オイラは自分の腕を磨くためっす。次のオリンピックに向けて強くならないと、エペの金メダル獲得は絶望的っすから」
「アルムって日本代表目指してるんだ。意識たっか! 応援するね!」
「あざっす!」
「サキちゃんは?」
「え、私? 私はー、ダンジョンの中なら自分らしくいられるかなと思って。現実はその……辛いこと、ばかりですから……」
「えー、サキちゃん美人なのにー。悩み事あったりするんだ」
「大人になるといろいろ増えるんです」
あ、そろそろウチの家だ。ロロには聞かなくていいや。興味ないし。
「ウチの家、次のバス停の目の前だから。ここでお別れしてもいいけど、よかったらお茶でも飲んでってよ」
最後までついて来てくれたのはサキちゃんだけでした。アルムはこれからフェンシングの練習で、ロロとハナマルは食事に行くらしい。へぇデートかよ。ウチらも連れてけ、そして奢れ。
でもアルムのことを思うと言い出せなくて、結局二人だけ降りてバスが出た。歩いたら1分もせずに門に到着。
「さ、どうぞ入って」
「ナギちゃんのおうちって本当にここなんですか。バス停の目の前っていうかバス停の名前になってるじゃないですか」
「そうよ。お爺ちゃんがバス停を作らせたんだって。便利っしょ。駅から100円でここまで来れるし」
「羨ましいですよ」
うちの道場。結構貧乏なんだけどね。そういうところの発言権はすごいっぽい。お爺ちゃんはこの前の御前試合でも大活躍だったみたいだし?
そういえば今日お母さんと一緒だったはずなんだけど、あの場にお爺ちゃん居なかったな。
「えへへ。サキちゃんなら住んでもいいよ。部屋いっぱい余ってるし」
「前向きに検討します」
「通ってる男子がエッチな目で見てくるかもだけど」
「ナギちゃんは平気なんですか?」
「一緒の部屋で着替えてるし、全然気にしないよ」
「私が親なら気が気でないでしょうけどね」
うちの道場、男ばっかりで女がお母さんとウチしかいないし、お姉ちゃんが欲しかったんだよね。サキちゃんが住んでくれるなら最高。
サキちゃんは最高だから居間でお茶を出して本格的に話し合った。ウチの家を気に入ってくれてるみたいだし、あとちょっと押したら一緒に住んでくれそう。
「ねえ、サキちゃんなら家賃もいらないしご飯もつけるからさ。一緒に住もうよぉぉ。ウチのお姉ちゃんになってよぉぉ」
「そんな大事なこと、ナギちゃんが勝手に決めちゃっていいんですか。そのせいでトラブルを生んだら居心地良くないですよ」
「大丈夫大丈夫! サキちゃん美人だから! お爺ちゃんもお父さんも拒否しないって!」
「その言い方だと身の危険を感じますけども……」
「じゃあさじゃあさ! 今日一泊入居体験していってよ! 洋服もすぐ洗って乾かせるからさー!」
「そうですね。そこまで言ってくださるならお言葉に甘えて」
「やったー!」
ちょろいなサキちゃん。今日は添い寝までさせてもらおっかな!
ずっと想像してた妹力を見せつけたるでー! えへへへへへ!




