↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/243

14-2 俺、滅びる

 俺の故郷に核ミサイルが落ちた。


 死者は推定6万人。市の建物の約70%が全焼、または全半壊。被害は市外に及び、未だ被害の全貌を把握できていないとある。


 俺の住んでいる朝倉市の人口は年々減っていて今は4.7万人しかいない。要するに全員死んだってことだ。


 使用されたのは北朝鮮の短距離弾道ミサイル。韓国に向けて発射したものが大きく逸れたという内容で報道されたと手紙に書かれていた。しかし、その後の文章には命中精度に誤差はなく狙って朝倉市に落としたという根拠がいくつも書かれていた。


 細かいところは飛ばし飛ばし読んだけど、わかっているのは核ミサイルが北朝鮮製では無い新型の爆弾ということ。基盤、原料、製造、それぞれバラバラの国名が書いてある。これは裏で糸を引いてる国があるな。


 殺す……殺す……


「落ち着け俺、手紙一枚に踊らされるな。実際に見るまでわからんぞ。

 いや、手紙の内容は事実だ。ヤヨイさんは陸将に借りたと言った。ヤヨイさんが嘘を吐いていないならこれは陸将に返す必要がある手紙。

 やめろ、妄想が膨らむ。実際に見るまで怒るな。落ち着け」


 殺す……殺す……


「これまで韓国とは小競り合いだけだった北朝鮮がいきなり核ミサイルを落とすのはおかしい。北朝鮮の動機はなんだ。イランと核で協力関係の北朝鮮が日本を狙う理由は弱い。北朝鮮が外貨を稼ぐ手段としてイランを利用している以上、日本の力を削いでアジ・ダハーカを討伐できなくなればイランの立場がぐらつく。それは北朝鮮にとっても不都合だ。

 部品を使われている中国、ロシア、アメリカ。この3ヶ国が怪しい。米中はすでに経済大国。日本を攻撃して得をするのはロシアだけだが狙いがわからない」


 殺す……殺す……


「万年金欠の北朝鮮に新型を開発する余力はない。今回の新型開発資金はどこから提供されたのかを辿れ。スイスか。いや、スイスは資金受け渡しの仲介役にすぎない。スイス銀行はだめだ。繋げるには情報が足りない。


 そもそもなぜ狙われたかに立ち戻れ。


 直近の大戦、アジ・ダハーカが物事の中心にいる前提で考えろ。どれか一ヵ国と考えるのは早計だ。複数の国家が結託した可能性は大いに考えられる。静かな戦争を有利に進めるために核ミサイルが必要としてもダマバンド山には使えない。

 だからといって朝倉市は田舎で鉱工業指数は高くないし就業人口は年々減り続けている。経済的ダメージを与えるなら不適切な場所。戦況を有利に運べて効果的にダメージを与えられる対象として適切な場所は……」


 はあ………そっか……。


「俺か……俺のいる場所か」


 俺か……。


「でも俺は爆弾投下の直前に日本を離れていた」


 俺のつまらない独り言を盗み聞きしていた彼女に確認する。


「なあ……ヤヨイさん。黒田次長はここまで流れを読んで俺をイランに逃したんかねぇ。いや、違うよなあ。逃したんじゃないわ。俺が原爆程度で死なない事は知ってるもんなあ」


「うわー。こわー。鳥肌立っちゃった。ケーちゃんの妄想って現実とそっくり」


 殺す……殺す……


「死ぬべきは俺か……それとも世界か……

 イランに来なかったら……故郷に残ってたら……

 うん。真っ先に世界中のタックスヘイヴンを滅ぼしに行ってたわ。黒幕を浮き彫りにして国ごと滅ぼしてやった。手紙、返すぜ」


「それはちょっと妄想しすぎー。ケーちゃんの手持ちの能力は派手だから絶対失敗してたよー」

「チッチッチ。ヤヨイさんに見せた力は俺の力の全てじゃないぜ」


 殺す……殺す……


「えー、教えてよー」

「切り札は教えたからいーじゃんか」


 殺す……殺…ガチャリ……


「ケーちゃん殿、これのサイズぴったりすぎて怖いであります。あ……」


「あれあれー? ケーちゃーん? 意外とやるねー。こんな可愛い女の子を部屋に連れ込んじゃうなんてー」


 いやいや、ヤヨイさんとウヅキさんほどじゃないっすよ。もちろん俺にとってはテロロ少尉が世界一ですがね。


「助けに来てくれたでありますか!?」

「えー。えっとー。ケーちゃん?」


 いやいや! 俺は別に拉致したわけじゃないからね! ちゃんと同意の上だと思ってたんだけど!


「殺す……殺す……」


「ケーちゃん殿!? えっとー! えっとー!」

「空洞対策課所属の白田ヤヨイです」


「陸上自衛隊イラン派遣隊アジ・ダハーカ討伐軍団所属の三等陸尉手代ロミであります!」


「ロミちゃんってハーフ?」

「父は日本人、母はロシア人であります!」


 どうりでお人形さんみたいな顔だと思ったぜ。小顔で目がくりくりしてて白いうなじが超エロい。


 あんなことを知ったあとなのに、自然と頬が緩んじゃうわ。


「殺す……」


「あらら。怒られちゃったねー」

「自分のせいでありますか!? すみません! すみません! パンティちょうどよかったです! 全然気持ち悪くなんかないであります!」


 そりゃあ、下着と見比べながら作ったからぴったりに決まってんじゃんか。手芸はこだわる性格なんよ。


「殺す☆」


「だーめだこりゃー。壊れちゃったわね。言動とテンションが一致してない。いつ暴走してもおかしくなさそうね」

「暴走したらどうなるでありますか!?」


「世界中のタックスヘイヴンが滅びるわ」

「ひえぇー!」


 あれ、もしかして俺、喋れてない?


「殺す……殺す……」


「どうしたら! どうしたらいいでありますか!?」

「さあ。精神科医じゃないしわかんないわー。責任感じてるならロミちゃんがどうにかしてくれる?

 ウップ……私もちょっとベストコンディションじゃないから。はい、この手紙。読んでいいから明日陸将に返しておいてね。

 あなたが来てからおかしくなったけど、これも彼が壊れた理由よ。彼の実家の話」


「実家? なにかあったでありますか」


 自分でもビビってるわ。マジで喋れない。うつ病が再発したんか。あのときは2年も喋れなくなったんだが。物音がするたびにイライラしてな。


「殺す……」


「じゃ、あとは頼んだわよー」


 ガチャリ!


「殺す!」

「あ、ヤヨイ殿、待って!

 あー……ケーちゃん殿。これ、読ませていただくであります」


 殺す……

「殺す……」


「────ああっ……そんな……嘘」


 震えるテロロ少尉の手から紙切れが落ちた。


 他人事だろ。オーバーリアクションなんだよクソが。


「殺すぞ……」

「ケーちゃん殿……どうしよ……連絡取れないよぉ……どうしよ……」


 手紙を拾い上げてポロポロ泣き始めた。スマホに耳を当てては通話を切り、電話をかけ直している。

 様子がおかしいな。


「殺すぞ?」

「あぁ……だめだ。繋がらない。

 ケーちゃん殿の実家。自分と同じ市内でありましたか」


 俺のせいか。


「あたし……あたし……何も恩返しできてない……ああ……お母さん……お母さんっ……ごめんなさい……」


 虚空に向けて、泣きながらひとしきり謝ったテロロ少尉。バスローブが乱れている。エッチだ。


「はぁ……あーあ。もう、どうでもいいや……」

「殺すぞ……」


 いや違うだろ。俺のせいじゃねえ。防衛できない政府が悪い。守れる命を金出して守らない政府が悪い。

 だから俺のせいじゃねえ!

 そして何より一番邪悪なのは爆弾投下に関わった北朝鮮と黒幕だ。こいつらは繰り返す。俺が生きている限り。いいや、俺がいなくなっても繰り返す。だって人間だもの。


 許さない。絶対に許さない。俺のせいじゃない。俺の……


「ケーちゃん殿……さようなら……

 やっぱりパンティ気持ち悪いであります。あたし、下着泥棒とは一緒に死にたくないので」


 おいおい。待てや。どこいくねん。まさか死ぬつもりじゃないやろうな。


「殺すぞ」

「離して! 殺されるくらいなら自害を選ぶ! 離せっ!」



 俺のせいで! 俺のせいで!



「死ぬな!」



「離せっ! 化け物っ!」



 パリーン!



 凄まじい力で蹴り飛ばされた。ブレーキをかける暇もなく窓ガラスを突き破って部屋から追い出された。


 落下中に見た一瞬の光景。澄み切った夜空いっぱいに広がる星々と、月光、電灯、多様な光を反射させるガラスの破片が美しい。心を洗われるようだ。


 夢のような夜景に心を奪われていると、叩きつけられた現実の地面に呼び覚まされた。


「あいたぁ!」


 力強えぇ! ダンジョンで鍛えられた蹴りは一味違うぜ。体重落とさなきゃよかったわ。


 まさか外まで蹴り飛ばされるとは。火事場の馬鹿力ってやつか。


 でも今の音を聞いた人たちが俺の部屋に駆けつけてくれるだろ。簡単には死ねないぜ。


 どぉん! パリーン! どぉん! パリーン!


「きゃああああああ」「うわあああああ」


 大使館職員が悲鳴をあげながら落ちてくる。


「うぉい! テロロ少尉!?」


 駆けつけた奴を全員放り出す気か!?

 自衛隊のみんなは!?

 イラン兵のみんなは!?


 もう帰っちゃったのー?


 それより救出だ! 大使まで飛んできた!


「大使さん! 大丈夫っすか!?」

「な、なんとか。助かりました。ありがとうございます」


 俺だから全員救えたけど、これまともに落ちてたら洒落にならないぜ。

 テロロ少尉……めっちゃやべえ奴だよ。マジで死ぬ気か。


「あの女を止めてください! お願いします!」

「うす! やるっす!」


 急がねえと何するかわかんねえ!

 それにちゃんと伝えておきたいことがある! まだ俺は諦めちゃいねえぞ!


 飛んで駆けつけると俺の部屋で女同士の取っ組み合いが起きていた。ヤヨイさんとテロロ少尉だ。

 優勢なのはヤヨイさん。自衛隊員より力あるとか、これ相当ダンジョン潜ってるぜ。


「落ち着きなってロミちゃーん。部屋がめちゃくちゃだよー」


「うるさいっ! うるさい、うるさい!! もう色々ありすぎて、こんなの抑えきれるかっ! 死んでやる! みんないなくなっちゃえばいいんだ!」


「ロミちゃんが先に暴走してどうするのよー。ケーちゃんの気持ちも知らずにさー。最後までしっかり慰めてあげなよ。そういう役目でしょー」


「あなたにっ! あなたに何がわかるってんだあああああああ!!」


 取っ組み合いに侮辱の投げ合いが始まった。


「は、入り込めねぇ……」


 殴り合いの喧嘩ならまだ優しい。これに口喧嘩が加わるともう厳しい。膂力と言葉の暴風域に飛び込めるほどメンタルは強くない。


 どうにか乱入のタイミングを図ってるけど、縄跳びのダブルダッチより入るのが難しい。精神的には縄跳び7本分くらいに見える。


 二人が言葉を交わすたびに壁が壊れた。もう大使館が穴だらけ。職員たちもこの異常事態に気がついて早々に避難している。


 光る触手で確認したら建物内に残っているのは俺を含めた3人だけになっていた。

 一応、貴重品とかは触手で運び出したけど、もう建物が保ちそうにない。コイツらまるでタンパク質でできた小型の解体クレーンだぜ。


 さすがに体力の限界が来たか、先に疲れを見せたのはテロロ少尉だった。ヤヨイさんの体力ハンパないって。どんだけダンジョン潜ってんのよ。


 今がチャンス。発光!


「うわ! なんの光!?」

「ケーちゃんよ。ほんと周りが見えないのね」

「いちいち、いちいち、うっさいんじゃ馬鹿たれが!」


 さらにもう一発! 発光!


「「まぶしっ!」」


 よし。黙った。


「俺は諦めてねえぜお二人さん! ちょっと見てろよぉ!」


 神様。神様。頼むぜ。見てんだろ。


「願いポイントをここで使うぜ! 出でよ! そして願いを叶えたまえ!」


「まさか神龍!?」

「シェンロン? ロミちゃんなにか知ってるの?」

「嘘。日本で神龍を知らない人がいるなんてありえないであります」


『はいはーい。今出ますよー。よっこいしょっと。ずいぶん壊したな。歩きにくいぞ』


「よお! やっぱり見とったな。ストーカーめ!」


 蜜団子を食う以前、ニート時代の俺が現れた。しかも素っ裸だ。相変わらず不細工な猿顔だぜ。


『神だぞ。みんなのストーカーだ。それより願いポイントを使うのだろう』


「二人にも見えてんの?」

『見えていない。二人の目を見ろ。変人を見る目をしているだろう』


「ここに⬜︎⬜︎がいるぜ!」


「「はあ?」」


「なあ、二人にも姿を見せてやってくんねえかな。やっと落ち着いたのにまた怒り出しそうじゃんか」

『安い願いだな』


「ケチくさいこと言うなよお。そこはタダでやってよお」

『わかったわかった。ただしリスクは増えるぞ。覚悟しておけ』

「おっけー」


 神様は扉の向こう側へとすり抜けていった。なんのつもりかわからんけど準備してんのかな。


 扉が開くと怪物になる前の俺が出てきた。蜜団子食べた後のイケメンな俺だ。やっぱり裸だ。ただ、さっきと違って葉っぱを一枚付けて股間を隠している。


『どーもどーも。神龍でーす。呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン。さ、願いを言ってみろ』


「ぎゃ、ギャルのパンティをおくれー!」

「テロロ少尉!? ふざけるなよマジで! 本物やぞ!」


『その願いは聞けない。神としてのプライドに傷が付く。おい、早く願え。外に出過ぎたら使者に気づかれる』


「核ミサイルで死んだ人たちを生き返らせてください。お願いします」


 当然、土下座。俺自身に土下座してるみたいで変な感じだけど。


『ダメだ。その願いは聞き届けられない。他の願いを言え』


「じゃあ時を戻してください。爆発する前日まで時を戻して俺の記憶だけ残してください。お願いします」


『それは不可能だ。他の願いを言え』


 万策尽きた。他になんかあるか。


「複数人がダメなら、自分のお母さんだけでも生き返らせて欲しいであります!」


『お前の願いは叶えられない。この私の力は自然の摂理を無視した反則技だ。真面目な資格者だけに許されたもの。お前は資格者でもなければ真面目でもない』


「ケーちゃん殿が真面目だとでも!?」


『さてどうする。そろそろ帰らないとまずい』

「ほんじゃあ、日本でまた呼び出すからそれまでに考えとく」


『次に姿を現せるのは100年後だ。使者に気づかれた』


「わかった。じゃあ最後の願いを聞いて欲しい」


『言ってみろ』



「俺を……滅ぼしてほしい」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。