Long
あっという間に時は過ぎ去り、とうとう武闘大会の日になった。武闘大会は多くの外来の人が訪れる、大人気の学校行事だ。
基本的には技の美しさが競われる競技ではあるが、格闘、という面で言えば勝敗も重要な勝敗の基準となる。ただ、ただ勝てばいいという訳では無い。例えば、余りに目に余るような行為……人質や脅迫どを交えて勝利したとしても、勝負には負けることのほうが多い。ただ、それがルールで縛られていないあたり、酷く実践的ではあるのだろう。
とはいえ、実際にそんな手を使った人間はそれなりに長い歴史を持つこの大会でも確実に指で数えられる程にしか存在しないのだが。
「いやー、楽しみだねー」
テルフィの隣で友人であるミーナが子供のようにはしゃいで言った。
「そうですね、少なくとも痛々しい競技大会では無いですし、見ていて面白い大会ではありますからね」
テルフィも同意して、会場である体育館へと向かった。体育館は普段はある程度しなりの有る硬い板張りなのだが、今日は一面にマットのようなものが敷かれている。
「あれ?テルフィ、見た事あるの?」
ミーナは、目を丸くしてテルフィに訊ねてきた。
この大会は一般人も参戦でき、且つ観戦できるとは言え、高校生の行事だ。身内が出場するでも無ければ、わざわざ来るような人も少ないだろう。
「うん、昔に一度、私の幼馴染が出た時ですね。行こうと友達に誘われまして」
テルフィとしてはそこまで幼馴染、レオの試合を見たかったわけではなかった。結局は楽しんで観ていたのだが、それでもハマる程ではなかった。
「へぇ〜、幼馴染って?」
「レオですよ」
「え、レオって、レオ君のこと?」
「あれ、言ってませんでした?」
テルフィが平然と返すと、ミーナはへぇー、と頷いたりしていた。
なんだその反応は。
「だからテルフィ、レオ君のこと詳しかったんだ。それにテルって呼ばれていたのも納得」
あの時はこの友人は居なかったはずだが……大方、どっかからの情報網なのだろう。
「それで?」
「……なんです?」
「レオ君って強かったの?」
テルフィはミーナに頷く。
「強かったですよ、何せ中高生の部では敵なしでしたから」
テルフィは特に思い起すこともなく、そう言った。誇張でもなんでもなく、彼は強かった。並みいる生徒たちを一蹴していたのが印象的だった。当時が中学校一年生だったことを考えると、本当に異様だったと思う。
「へぇーーー、そうなんだ」
「まあ、でも最後の優勝者同士の戦いの時はさすがに負けてましたね。さすがに大人も交じってるときつかったららしいですね」
あれほど強かったレオの事だ、今はとんでもないことになってるに違いない。しかも、いつからなのかは分からないが、レオは異能力……”オルト”に目覚めている。ルドにそれを言ってみたが、彼は何か考える素振りを見せこそしたが、結局何も言わなかった。
そして、自分が”オルト”を使うようになって気が付いたことなのだが、オルトが使えるようになってから普段の生活にもその影響と思われるものが現れている。テルフィのマルチタスクもそれだ。
「もし、今レオが大会に出たら、そうそう負けないんじゃないでしょうか」
そういった予想もあって、テルフィはそう言って話を切った。
体育館はきちんと観客席が用意されている。流石に大きな大会のある時は開放されるだけある。階段を上って手頃な観客席に腰をかけ、時間まで取り留めのない話を続けた。
ーーーー
『開会宣言』
『えぇ、只今を持って海底第一武闘大会を開会いたします』
司会役の教師と校長の掛け合いが終わり、大会は始まった。最初の試合は"予選"と呼ばれ、四ブロックに別れて行わる。その後に本試合として八人がトーナメント形式で戦うことになる。最初は中高生の部なので、所々小さな子も見られた。その中にテルフィはレオの姿を見つけ、思わず目を逸らす。何故か、目が合ったような気がしたのだ。
「何で、レオが……?」
「え?レオ君いるの?どこ?」
『試合はじめ!』
アナウンスと共に一斉に試合が始まる。
ルール等ほとんどない、異種混合格闘戦だ。中には喧嘩の様相を呈しているグループまである。しかし、やはり圧巻だったのはレオだった。
「やっぱり、レオ君って強いんだね!」
隣でミーナがはしゃいでいる。
ああ、そうだろうとも。レオは強い。
彼は相手を寄せ付けない。まるで縄張りのように一定の間合いを維持しているが、しかし相手がその間に入ろうものなら一瞬のうちに相手をうち伏せる。まるで野獣のような戦い方だ。
「まだ予選なんですから、ここで勝てなくてどうするんですか」
しかしあえて、テルフィはそういう風に言う。テルフィから見て、レオの対戦相手は決して弱くは無かったことは分かっていた。しかし、それでもそう言わずにはいられなかった。
早々に試合を終えたレオはゆったりとした脚取りで、コートから下がった。
他の試合も似たような結果になり、今度は大人の部が始まる。因みに当然、レオは最後まで勝ち残った。
大人の部も中高生の部と同じように予選から始まる。そこは昔テルフィが見たのと変わらない。しかし、そこにルドが混ざっているのを見た時は流石に驚いた。
ルドが出たら他の有象無象など相手にならないではないか。
これでも武術を多少は嗜んでいたテルフィは、最近ルドに教授を受けるようになって、彼の技術はレオの父親である"達人"をも上回っていることを感じていた。達人とて、国に認定された最強クラスの武道家だ。おそらくこの国には十人といまい。それを超えているのだ。並の人間では触れる事すら出来ないだろう。
テルフィとて、訓練の時にルドがかなり手を抜いていたのは分かっている。それですら達人レベルなのだ。こんな大会で勝てないはずがない。
「あ、先生だ」
ミーナも気がついたようで、隣で呟いた。
「先生が出るなら、この試合決まったも同然ですね……」
テルフィは急に興味を失って、見るのはトーナメントからでいいだろうと思い、少し早いお昼を食べに向かった。
「え?行っちゃうの?確かにそうかもしれないけど、見ていかないの!?」
ミーナは驚いてテルフィを追いかけてきた。
「あれ?『確かに』って事は先生って強い事で有名なんですか?」
「……え?そりゃあ、何個も大会で優勝しているくらいだし」
「そうだったんですか、知りませんでした」
「え?じゃあなんで決まったも同然って……」
「立ち姿見ればわかりますよ」
「テルフィ、なんか武人みたい」
「余計なお世話です」
テルフィはそのまま体育館を抜けた。
「ねぇ、本当に見ないの〜?」
ミーナはまだ諦めきれないのか隣でブーブー言っている。
「トーナメントからでもいいでしょう?お昼も食べておきたいですし、そんなに観たいなら観に行ってもいいんですよ?」
「むむ……」
それっきり、ミーナは文句は言わなかったが、何としても観たいようで、テルフィが弁当を食べるのをしきりに急かした。
ーー
トーナメント戦はまず、中高生の部から始まった。まあ、予選も中高生の部から始まったのだから当然だろう。
そして、レオはやはり圧巻の強さだった。トーナメントに残ったのは八人だったが、その中でも一際強かったと言っていい。
「やっぱり、"オルト"が関係しているのでしょうか」
誰に訊くでもなく、テルフィは疑問を独りごちた。しかし、その声は隣のミーナには聞こえたようで「え?なーに?」とか言ってきた。それには「何でもないですよ」とだけ返し、テルフィは再度試合に目を向けた。
仮にも決勝戦なのに、余りにも一方的な展開である。相手は剣を模した模造剣を所有していたが、その射程の有利すら彼の前には関係が無いようであった。
「やあぁぁっ!」
裂帛と共にレオの相手方は武器を振り下ろした。しかし、レオは平然とそれを避ける。反応速度もさる事ながら、その移動速度も普通ではない。まるで瞬間移動でもしているかとでも錯覚してしまう。
「この……っ!」
破れかぶれなのか、雑に横に剣を振った彼のそれはしかし、レオには届かなかった。
「はっ!」「ばっ……げほっ」
彼はレオから掌底を当てられ、咳き込みながら後ずさった。
レオはそこに追撃は掛けず、ただ足を軽く開いた自然な姿勢でその場で立っている。
「ぬぁぁぁぁっ!」
彼はレオに突進を敢行するが、レオはくるりと身を翻し…………
「凄かったね、レオ君」
ミーナは興奮が冷めぬ様子でテルフィの肩を叩いている。本当にこの友人は常にテンションが高い。一度何を考えているのか見てみたいものだ。
――――凄いのは否定しないけど。
しかしやはり、一番気になるのは大人の部だった。何せ、ルドが出る。どんな戦いを繰り広げるのか、気にならないものはいないだろう。
「ちょっと、隣いい?」
もう時期大人の部が始まるという所で、聞き覚えのある声が聞こえ、顔を向ける。
「アリサ先生…………」「あ、アリっちじゃん」
同じ人を読んでいるのにこうも呼び名が違うのは二人の性格に起因するものなのだが、流石に『アリっち』はどうかと思うテルフィである。
「良いよー?テルフィもいいよね」
さっさと話を進める友人に、内心ため息をつきつつも別に断る理由もないので、テルフィも頷いた。
「ええ、構いませんよ」
「ありがとう」
アリサが腰掛けたのを見届けて、テルフィは正面に視線を戻す。
テルフィは彼女の事が苦手である。嫌いと言ってもいい。ルドに親しいというのが一番の理由なのだが、他にも自分と少し似ている部分がある事も、テルフィにとっては苦手な部分だった。
「せんせーも誰かを見に来たの?」
ミーナはそんなテルフィの気持ちを知ってか知らずか、アリサに明るく語りかけている。
「んー、そんな所かなー?大方、結果は見えてるんだろうけど、私が原因に絡んでいる手前、観ないわけにはいかないというか…………いや、あれは自業自得とも言えるか」
結果は見えている。という言葉でテルフィは、アリサが同じように考えていた事が分かった。
それにしても、彼が出場した理由を知っていて、しかも、それに関与したかのような口振りである。
「へぇー、先生ってこの大会に出るような友達いたんだー、あんまり友達いないイメージあったんだけど」
「うぐっ、まあ、確かにいませんけど……ミーナさん」
「……後できつく言っておきます。」「えー、何でよ」
流石に、アリサに同情し、テルフィはテルフィにしては珍しくアリサに助け舟を出した。
「……え?あぁ、ううん。ありがとう」
アリサも少なからずテルフィの気持ちを知ってたのだろう、一瞬意外そうな表情をして、それから頷いた。
それに会釈するように頷き、直ぐに顔を前に向けた。
テルフィは彼女が嫌いだ。しかし、同時に"憧れ"のようなものも持っているのも確かだった。彼女のような明るく、かと言ってミーナのように子供っぽい訳ではない、アリサはテルフィには眩しく映る。
『大人の部、本戦、始まります!』
彼女達が見守る中、遂に試合が始まった。




