Comon-2
レオに呼び出されたテルフィは、放課後にレオと共に校門まで出てきていた。不都合なことがないでもないが、ここで行かないと言えばなおさら怪しすまれるので今は彼に従って、あとで言いくるめたほうがいいと判断したのである。
外は相変わらずの曇り空で、疑似天候の発する光は無機質で冷たい。それがテルフィにはいやに不気味に感じ、何となく逃げ出したい気持ちになった。
校門の前で立ち止まったレオは、学校の登下校に使うバスを指でさした。
「ここで話すのは都合がよくない、ここから離れてからにするぞ」
レオがさしたバスは、この国にしては珍しく、地上を走る自動車である。勿論動力は”オルト”を用いてはいるだろうが、地上を走るという事には違いがない。単純に、地上付近を走行していないとバスとしての機能を果たせないのである。
「別に構いませんが」
テルフィは、この時彼の言い方に少し引っかかった。何が引っ掛かったのかは分からなかったが、確かに違和感を覚えたのである。しかし、今はそれを置いておき、さっさとバスに乗り込んでしまったレオの後を追ってテルフィはバスに乗り込んだ。さすがに下校の時間なだけあって、中は生徒で溢れていたが、バスは異様なほど広いので座れないほどではなかった。
角の方の席にレオが陣取って座っているのが見え、テルフィはその隣に腰を下ろす。バスが走り出してしばらく待ってみても何も言わないレオにしびれを切らし、テルフィが先に口火を切った。
「それで、話というのは」
テルフィが訊くと、レオが自分の顔を一瞥してから首を回す様に周りの席の生徒を顎で示した。多分、他の人間に聞かれることを避けたかったのだろう。その顔はまるでふざけてなどいなかった。本格的にテルフィは子の幼馴染が何を言い始めるのか不安になり始めていた。このレオという男は決してバカではない。むしろ勉強なんかもできる方だ。学年で主席などと言われるテルフィでもさすがに人の思考までは読めない、ただ、普段、少しくらいなら推測はできる。しかし今、この賢い男は何を考えているのか全く分からなかった。故に、テルフィは言いくるめる方法を掴みかねていた。
結局、ろくな会話もなく、バスは自宅近くのバス停にまでついてしまった。そこでやっとレオは口を開いた。
「行くぞ」
言下に立ち上がっていた彼は、テルフィを振り返ることもせずにバスを降りてしまう。テルフィもそれについてバスを降り、彼が歩く後ろを付いていく。意外なことに、彼の歩みはテルフィに合わせるかのようにゆっくりで、今までの彼の態度とは合っていないように思えた。
「ここまでくればいいだろう。誰も周りにはいないようだしな」
レオはテルフィの家の前に着くと足を止め、やっとテルフィに向き直った。
「早く話してください、さっき言いかけたこと」
そのレオを睨み付けるようにして、テルフィは彼に問い掛けた。それを平然と見下ろしたレオは、手をテルフィに差出した。
「何のまねですか」
「……お前は根拠を求めていただろ。
これがその根拠だ。」
すると、レオの腕の周りに黒い霞が漂い始め……
レオはしばらくの間、驚き顔のテルフィを見詰めていたが、やがて「分かった」と呟き立ち去ろうとした。それを、テルフィは慌てて食い止める。
「待って、待ってください。
それの何が根拠になるんですか。あなたは気になる事が分かったみたいですけど、私には何故あなたがそれを気にしているのか分かりません。これでは公平じゃないです」
レオは立ち止まって、しかし、テルフィを振り返ることなく一言だけ、呟いた。
「"勘"だ」
それ以上の言葉はなく、レオは自宅へと戻って行った。その立ち姿に迷いはなく、はったりではなく何かを得たもののそれであった。
「……レオも、オルトが使えたってことですか」
テルフィは暫く呆然と立ち尽くす他、する事は無かった。
曇り空はますますと暗くなり始めた。もうじき雨が降り始めるだろう。予報通りに、予定通りに。




