Double-2
「初めまして、テルフィさん。私はマフニ、マフニ・エルタゴと申します。」
まず、部屋に通されたとき、テルフィにかけられた声がこれだった。声の主は白髪の混じった髪の初老の男である。このマフニと名乗った男は少し疲れたような顔をして、何やら書類に目を通していた。
「……初めまして。テルフィ・ルミエです」
テルフィも名乗り返すと、マフニは少し微笑んでソファに座りなおした。
「ルド君から話は聞いていますよ。自力で異能力の存在に気が付き、使いこなすばかりか、それを隠そうと考えるくらい賢い子であると」
いったい彼は私のことをどれだけ知っているのだろう。というか、それを伝えたのはルドだろうか。だとしたらなかなか恥ずかしい評価だ。
「いえ……そんな……」
思わず恐縮して、両手を振る。
「いやまあ、そこら辺の話はいいんですよ、マフニさん」
ルドは、そんなテルフィの様子を見てか、マフニと呼ばれた男を戒めるような一言を発した。
「あ、いや、すみませんね。年甲斐もなく少々興奮していたようです」
「ぇ……?」
それはいったいどうゆう事だ?まさかそういう趣味なわけじゃないよね?
「さすがに今の発言はどうかと思いますよ、マフニさん……」
ルドの呆れ口調からして、危ない趣味があるわけではないようだ。
「おっと、誤解を招く言い方でしたね。まあ、いいでしょう」
まあいいのか……
「今回ここにお呼びたてしたのは他でもありません」
「君が持っている能力についての話だ、予想はしてただろうが」
「ルド君、わざわざ私の言葉を盗らなくても良いではありませんか」
「知りませんよそんなの……」
ルドとマフニはコントじみた掛け合いをした後、二人は揃って真面目な顔に変わった。
「確かに予想はしていました。でも、それとこの場所に呼ばれた関連性はよく分かりません」
テルフィも二人につられて真面目な顔になって、その話を待った。
「今回、あなたを呼んだのはですね、我々の研究に力を貸して欲しいからなんですよ」
マフニは、いかにも研究者然とした雰囲気を放ちつつ話を続ける。
「我々の機関は、あなたのような”異”能力者の研究を行う機関です。ですが問題がありましてね……、異能力者というのは珍しいもので、この国中を探しても、今のところ量の指で数えられるほどしか発見できていないのです。つまり、異能力の目覚めるメカニズムさえ、研究が難しい状況なんです。その上、数人には協力を断られてしまっていますからね……あーー、つまりですね、少しでも異能力者の協力者が必要なのですよ」
マフニの話は、テルフィにも簡単に分かるくらい単純な話であった。しかし、同時に浮かぶのは疑問である。
「その研究への協力っていうのは人体実験……という事ですよね?」
「まあ、確かにそうなりますね。ただ、ルド君たち曰く、人体解剖なんかみたいな物理的な観測方法はまるで役に立たないらしいですから、基本的には脳波を図ったりだとか、思考の仕方について調べる……所謂、精神分析のようなものを中心に据えるつもりですよ」
そうは言っても人体実験は人体実験である。モラル的なものは大丈夫なのだろうか。
マフニが説明を終え、テルフィがそんな風に考えていると、ルドは苦笑交じりに語り掛けてきた。
「とまあ、ここまで説明した訳だがな、別に君は協力してくれなくてもいい。話を聞かれたからと言って絶対に俺たちに従わなければならないという訳じゃあない」
テルフィは少なからず、その言葉に意外感を覚えずにはいられなかった。
「……てっきり、話を聞かれたからにはただでは返してくれないものかと」
思ったことをそのまま口にすると、ルドはニヤリと笑った。
「それはそうだ。ただな、君一人が何の証拠もなく世間に訴えかけたところで、この場所が明るみに出るわけじゃない。それに、なんでそうしたのかは知らんが、自分の力を自分の意志で隠してきた君のことだ、わざわざ自分の正体を悟られかねない行為はしないだろう?」
ルドの言葉は尤もだった。しかし、そもそもテルフィにはこの場所を暴露する気もない。むしろその逆の方向に決意が固まりつつあった。
「さて、どうする?君は知ってしまった、この場所についてね。君の生はこれを機にいやでも変わってしまった訳だ。この話を蹴るもよし。利益があると見て協力してくれるでもよし、だ」
しかしテルフィが決断するにはやはり、まだ材料が足りなかった。そして、彼女の一度に二つを考えることができる脳みそは、珍しく一つのことを考えていた。
「先生」
「どうした?」
「先生はどういった形でここに関わっているくるのですか?」
「…………俺は、ただの雇われ能力者だよ」
テルフィの考えはそれで纏まった。それが正しかったのかどうかはまだ判からない。しかし、少なくともルドの言うように、テルフィの人生はここを機に大きな転換を図ることになるのだろう。自分の力を誰かのために使ってみたい、なんて高尚な目的があったわけではない。ただ、自分の力を存分に振るえる場所が欲しかっただけかもしれないし、ルドに認めてもらいたかっただけかもしれない。あるいは誰かに……
「わかりました、やります。協力させていただきます」
ルドの言葉を借りるならば、この話はテルフィにとって、利益のある話、であった。それが正しい判断かどうかはさて置き、今の彼女は、少しだけ不安で、同時に少しワクワクしていた。




