Act-1
また吹っ飛んだ、目の前でだ
〜〜とある新米軍人の日記書き殴られた3ページ目〜〜
「結局奴らは何なんですかね」
探偵であるソミエは、ろくに自分で考えることもせず、ルドへと質問を投げかけてきた。ここはソミエの探偵事務所、人気のない、閑散とした地域にあるだけあって、この場所はいつも静かだ。
「お前…自分で考えてもわかるだろ。ちょっとは考えたらどうだ」
木造の椅子に深く座っているルドは、脚を組みかえてそう返す。
「面倒なことはしたくないだけですよ。それに俺が分かるのは基本的には位置情報だけであって、記号的な情報とかではないんですが」
そう言いながらソミエは手元でまとめた資料を投げて寄こした。ルドはそれを受け取って苦笑する。
本当に、こういう仕事は早いのだが……
「奴らは、地上の回し者だよ。まあ、断定してしまうのもよくないが、そう仮定したほうがいいだろうな」
「やっぱりそれで確定なんですか。この国を陥れようとしている、組織の犯行ということで?」
「こっちの国家の情報を欲しているわけではなく、明らかに能力者を狙った犯行。バレるのも厭わないかのような大胆な行動の裏は、こちらが国家権力を行使できないということを見越していて、一番効率がいい方法だからだ。そして何より、現れるタイミングが怪しすぎる。」
ルドは言い切ってため息をつく。
「会議が開かれると決まった途端の話ですからね。でもまあ、スパイが一年前というのはちょぉっとばかり時間が足りない気もしますがね」
「そういう事がある事実は、もっと前から掴んでたんだろ。そうでなきゃ、国際会議にそれを持ってくる事は流石に無理だ。多分、今いる能力者集団の前任は常人スパイだったんじゃないか」
「なるほど、確かにそう考えると辻褄は会いますな。想像以上に貴方がたのセキュリティが固かった、と」
「それにしたって、お前のような情報系能力者がいなければ、なんの意味も無い話だ。ま、裏を返せば、奴らが来たってことは、奴らの中にはそういうのがいるという事だろうがな」
ルドとしてはそこら辺を正確に知りたいのだが、彼が言ったように、彼の力は"視て、聞く"ものであるからして、そこまでは期待すべきではない。
話しながらもルドは資料に目を通し、その情報を頭に叩き込んだ。
「もう実行してくるか、やっぱりあっち側としてもバレてしまっては余裕が無いのか」
「偶然"聞けた"だけなんで、デマの可能性も低いと思いますよ」
ルドが呟くと、ソミエはその情報の確実性を主張した。
「元々、アイツには監視役をやらせるつもりだったが、日時が分かるとぐっと楽になるな。他になにか考える必要も無い」
「貴方も結局、考えるのは面倒なんじゃねぇですか」
「面倒なのと全くしないのとは違うぞ」
「過程は違っても結果は同じですよ」
「はっ、相変わらず口だけは達者なもんだ。その調子でとっとと戦闘技術も身につけろ」
「適所適材ですよ」
その答えに苦笑して、ルドは席を立つ。
「おや、もう行きなさるのですか」
「あぁ、すこし、準備してくるさ」
それだけ言い残して、ルドは部屋を出た。
ーーーー
ルドとしては、準備だけはしておきたかった。自分には対能力者としての戦闘力がほとんどない。それ故、必然的にジェーンに任せることになるのだが、それだけでは罪悪感…では断じてないが、何となく嫌だったからだ。
こう言ってはなんだが、ルドは自分が対人に関しては右に出る者がいないであろう事を自負、或いは自覚している。あくまで、『単なる人間』ではあるが、それでも自分を倒せる能力者となると、そう数が多いとは思えない。
しかし、今回の敵にはルドは適わない。トリと二人がかりでやっと、撃退できた程の敵だ。彼ひとりで太刀打ちできるはずもない。
今回ばかりは力を抜いた方が得だな
そう思ってしまうのも仕様がない。そうは言っても何もしない訳では無い、あくまでもちょっと力を抜くだけだ。
ちょっと力を抜く、これだけ聞くと仕事が簡単になったように感じるが、実際はそうでもない。むしろ、本来の自分の仕事を他人に引き継ぐ訳だから仕事量はある意味で増える。彼が力を抜くのは仕事に対してでは無かった。言ってみればそれは、文字通りの意味である。
取り敢えずは、明日仕事を休む旨を好調に伝える必要がある。そろそろ時間的にも不味くなってきた。ルドは夜にしっかりと睡眠を取りたい性分なのである。
校長はそうでもないだろうが、早めに連絡した方がいい事には違いがない。ああ見てて、校長は実はこちら側の人間である。"異能持ち"では無いとはいえ、話のわかる上司が職場にいるというのは便利なものである。
『明日仕事で休みます』
帰りのバスに乗りながら、端的にこれだけ端末に記し、校長の元へと送信する。彼に対するメールなら、これだけで十分意味を成す。彼もこちらの事情を知っているのだから、当然だ。その上、この内容なら例え傍受されていたとしても、何ら意味をなさない内容しか書かれていない。
バスは当然ながら、一般車両よりも目的地につくまで時間がかかる。ただ地上を走っていた時代よりは、早く目的地には着くが、少々不便には違いない。ただ、無料で乗れるものに文句を言うのは野暮というものだろう。
この国では空中車両が発達しているが、人の乗り降りが必要なバスは決められた道を地上付近で飛んでいる。バスではあるが、その性質は地上でいう電車に近い乗り物で、一定の場所を走る。その為、AI(人工知能)がバスを操縦する。つまり人権費がかからないのでバスが無料になるのである。その分、整備などにお金がかかるのだが、それは国民の税金の"ほんの"一部で補っている。お金がかかると言っても、そこまで頻繁に必要なわけでもないからだ。
人の手から仕事が奪われて久しい世ではあるが、少なくともこの国ではある程度、社会はうまく機能していた。
車窓から外を眺めると、やはり整然と並べられた緑の景色。整然とした美ではあるが、ルドとしてはやはり少し物寂しさを感じるのであった。
久しぶりに外に出たいものだ
バスは揺れない。ただ、静然と進むだけだ。人が歩く場所では高度をあげて、バス停付近では高度を下げる。その際に少しだけ圧を感じるくらいだ。それすらも微々たるものだが。
家に着くと、空は暗く、葉のざわめきのみが聞こえる、静かな夜が外には広がっていた。
ーー
「あー、ちょっと待ってね」
メメヤは珍しく、真面目に何かを作っていた。作ると言っても、その下準備である情報を掻き集めるだけ掻き集めているだけのようだが。
端末に向き合いながら、目に来る負担を減らす眼鏡をかけた彼女は、ルドを一瞥するとそう言った。
「何を作ってんだ?」
「……んー、そうだなぁ、言うなれば"幽霊みたいなのぶっ殺装置"かなぁ?」
茶化すように彼女は言うが、それが大真面目だということをルドは長い付き合いから把握していた。
「……つまり、実体のない相手への対抗手段か?」
「ま、そんな所かな〜」
ルドの質問に、メメヤはのんびりと答えた。
「よしっと。んで、何か用があるんでしょ?」
作業をし終えたのか眼鏡を外したメメヤは、そこでやっとルドへと顔を向ける。後ろで一つに纏めた赤髪が跳ねる。
いつものように少女のような笑みを浮かべている彼女は、本当に何も知らなければ、ただの美少女としてしか目に映らなかっただろう。
「ああ、仕事でな」
「……程々にしたらどうなの?」
メメヤはいつも、仕事の話をすると少し機嫌が悪くなる。それを分かっていて、そう切り出したのは、機嫌が悪くてもメメヤがこちらの要望を無下に断ったりはしないと知っているからだ。
「そうもいかない。少なくともこの国は俺達の隠れ家兼、活動拠点なんだ。それに、暇潰しばかりはそうそう見つかるもんじゃない」
だから、ルドは苦笑して見せ、そのまま話を続けた。
「今日はアイツ用に武器を造って貰いたくて来たんだ。」
「アイツって、ジェーンだよね?」
「ああ、今回ばかりは俺の力じゃどうしようもないからな」
肩を竦めてみせると、メメヤはため息をついて同じように肩を竦めた。
「いい加減あんたも、対策したら?」
皮肉めいた言い方ではあるが、少なくとも馬鹿にしたような口調ではない。こちらの事情を知っているからこそのこの言葉である。
「要らんだろ。アイツやお前がいれば」
「否定はしないけどさ〜」
文句はいいながらも、メメヤは端末に向かって何やら作業を始めている。おそらく、造る武器の構想を練っているのだろう。
「どんなのがいいかな?」
「"異能"がよく通る武器がいいんじゃないか?」
「形を訊いてるんだけどなぁ」




