Successor-3
「はあぁっ!」
鋭いアルトの声がその場に響く。同時に聞こえるのは硬い壁が粉砕する音。ガラガラと崩れる壁をん尻目に、彼はその手元の武器を再度観察する。
一見すると、ただの棒に見えるそれだが、先の方が膨らんでおり、そのデコボコとした装飾はそれがそういう目的で作られたものであるということを如実に表している。
そう、彼女が先程から振り回しているのは今の時代ではほとんどお目にかかることはないであろう太古の武器『メイス』だ。
黒髪を短く刈り込んだ黒みを帯びた肌を持つサングラスを掛けた彼女は、一見すると男のようにも見えるが、よく見ると着込んだ服の上からでもメリハリのある、柔らかな曲線を持った女性らしい体格をしているのが分かった。
「全く…解り辛い」
ルドは今置かれている状況とは全く関係の無いことを考えつつ、必殺の勢いで振り下ろされるメイスをスイスイと躱わしていく。
ルドが躱す度に壁が、床が…様々なところが崩れていく。
「うらぁっ!」
凡そその隠した顔に似合わ無いであろう、野太い声で振り下ろされた鈍器が振り下ろされた時、ルドは空中にいるトリに怒鳴った。
「トリ!」
「エォ・ラルュ」
間髪入れずに返ってくる応答。同時にルドの身体は高速で宙に投げ出され、そのままその場所から遠くへと離れる。
瞬間、乾いた銃声とそれが硬い床に着弾した音が鳴り響く。それだけでは終わらず、半秒後にはその場所が破片と轟音をまき散らして破裂する。
天井スレスレを高速ですっ飛ばされつつ、ルドは空中で身体をしならせる。
「フッ!」
トリの能力により加速を受けた蹴り脚が旋回してオールバックの男目掛けて振り降ろされる。
「………!!!?」
危機を察知したのか、男はしゃがみ込むようにして頭を下げ、その蹴りを躱した。
空を切った脚はしかし、空回りすることは無く、急速な減速の後、ルドは一回転して地面に降り立つ。
「……まさか、私の"爆発"を躱すとは」
「………」
男は忌々しげに呻く。ルドはと言うと、平然とつっ立ったまま頭を掻いていたが、彼は彼で蹴りを避けられたことに内心、舌を巻いていた。
あれ避けるのか…
一撃で片を付けるつもりだったルドにとって、それは予想外で、また、相手の実力に感嘆せざるを得なかった。
ルドと爆発男が双方動けず睨み合っていると、横にトリが降り立つ。同じように男の隣にも棍女が走り寄った。その動きはまるでボディーガードのようである。
「よく仕上げてあるな」
ルドはトリへと囁く。
「彼達の能力は何でしょうか…」
「本人が爆発と言っていたのだから恐らく、爆発系なんじゃないか?」
だが、正直、問題は爆発男ではなく、あの短髪の女だ。あの女についてはよく分からない。
何故なら、彼女は爆発に巻き込まれたはずなのに、目立った外傷を負っているようには見えない上に、服はところどころ傷んでいるのが見えるため、当たっていないなんて事は無いのが分かるのだ。
「女は……超回復か、硬化か……置換なんてのもあるかもしれない」
「私達の能力って結局、"なんでもあり"ですからね」
そう、トリの言う通り継承者の力と言うのは、まるで自分勝手な……言うなればインチキだ。しかし同時にそんな勝手なものにも関わらず、それらの能力には、ある一定の制約があったりするのだ。
「……君達、何者なんだね?能力者だと言うのは把握していたんだが……君達のそれは昨日今日目覚めた能力者にしては動きに淀みがなさすぎる」
爆発男は突然、そう言って口を開いた。
コチラからすれば、その言葉はそのまま返してやりたいところだが、そのままでは些か芸がない。
「随分と会話ができる奴だな、それも拳銃なんて高度な技術を持っているときた、女の方は蛮族らしい武器を持っているが、それにしても侵略者にしちゃ些か文明的だ。こりゃ、どこかの大国の差金と見ていいのだろうか」
「どこかの」を敢えて強調したわざとらしいルドの言い方に、トリは顔を背け(笑っているのだろう)、男はムッとした顔をした。
それもそのはずだ、この場でルドの発した『侵略者』の意味は、一言で言えば『条約違反』二言でいえば『他国の不法武力介入』を意味する。
この国には如何なる国も侵攻は許されていない。
そしてそれを理解しないものはいなかった。
「『侵略者』……ねぇ……」
男は物言いたげに呻くも、結局は口を閉ざした。
ここで余計な事を言っても自分の首を絞める、それがちゃんと分かっているのだろう。
「あんた達は"私達を殺しに来た"という認識であっているかい?」
(笑いから)持ち直したトリは、真面目な声音で男達に問いかけた。
「さぁて?そういう貴女方は彼らをどうするつもりなのでしょう?」
双方が決定打を持たないと分かっているからこその口喧嘩。お互いがお互いの腹の内を探ろうという意図を隠そうともしない、軽い口調で牽制をかけあう。
「埒が明かないよ…」
トリは思わずという感じで忌々しげに呟いた。
「お互いがお互いを警戒しているんだ、当然さ。でもまあ、少なくともお互いこの状況を警戒しなくてはいけない立場に居ることは分かってしまうんだけど」
「それはそうですけど……」
まだ何か言いたげなトリを目で制して、ルドが男に訊いた。
「…正直、さっきの爆発を躱せたのは偶然だったんだが、そのお陰でアンタのその能力について知る事が出来たよ」
口を閉ざしたままの男を無視して、ルドは話し続ける。
「多方、その銃弾に細工してあるんだろ?まあでも、まさか爆発するとは思わなかったから驚いたよ」
「何を言ってるんですか、能力?そんな非科学的な………」
「今更君たちが科学を語るのかい?」
男の言葉を遮るように、ルドは問うた。
「ああ、済まない。その、なんだ"視えた"俺達の力は誤魔化すなんて結局は出来ないんだよ。流石に内容までは判断出来ないが、少なくとも兆候は見られる…ちゃんと黒く霞んでいたよ。」
「……ふはぁ、それが私の爆発を躱せた理由だと、そういう事かね……?」
観念したかのように、大きなため息をついた男は、今までだらりと下げていた手に持った小柄の拳銃をそのまま構えた。おそらく反動が少ないタイプ。貫通力は少ないだろうが、扱い易い代物に違いない。
「……私は、こう…ただ爆発させられればいい訳では無いのだよ…爆発とは…芸術なのだよ」
そして大袈裟な身振りで首を振って残念がって見せた。
「だが残念な事に君達にはそんな事も言っていられないらしい」
「……それでは?」
「爆発は諦めるしかあるまい!」
連続で放たれた銃弾、ルドはそうなると分かっていて尚、ただその場に立っていた。
そして結局、それらは全て着弾コースだったのにも関わらず、それらがルドに銃創を残す事は無かったのである。
「……なに!?」
驚きの声をあげる男。それもその筈である。ルドの目から見ても、動いてもいない相手を外すほど下手な銃の扱いでは無いのだから。
それに、前述したように全て直撃コースだったのだ。
「流石トリと言ったところか」
「お褒めに預かり光栄です」
そう、銃弾は全て彼女の力によって軌道を逸らされどこか手近な壁へと突き刺さったのである。突き刺さったそれらは全てが爆発した訳ではなく、一部が壁や遠く離れたところの床に着弾して、その地点で破裂したのみだ。
「厄介な……!」
男は悔しげな声を上げ、隣の女を見やる。女は首を横に振り、それを見て苛立たしげに男は叫んだ。
「ジャぁぁックっ!!!」
それと殆ど同時に、部屋の一点に黒いモヤがかかり、次の瞬間にはそこに仮面をつけた一人の男が立っていた。
黒いスーツを着て、真っ黒く塗りつぶされて顔のない仮面を付け、黒い靴を履いたその男(ジャックと呼ばれていた)は面倒くさそうに言った。
「そんなに大声出さないでくれますか、耳が痛くなります」
「五月蝿い!撤退だ!」
「ジャックさん、話は後で私から…」
「……はぁ、了解しました」
こちらの事など完全に忘れたかのようなやり取りをした後、ジャックはこちらを向いて優雅な一礼をした。そしてその周りに再度霞が立ち込め、それが勢いよく舞い上がった途端、彼らの姿は掻き消えていた。




