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神の継承者  作者: 夢世操
Introduction
12/45

Successor-2

 

「継承者をやっております」


 ルドはあの時自分へと向けて拳銃を撃ってくれた男の前に立っていた。

 あの時と変わらず、あの男は気が進まなそうではあるが少なくとも今、"迷い"は無いようである。その双眸(そうぼう)には強い光が宿っていた。


「……っ…継…承者だと?」


 自分の心に押し潰されそうな(・・・・・・・・・・)彼ではあるが、他の部下に比べ意思の力が違うようで、まだ話すことはできるようだ。

 これはいい、少しは暇潰(ひまつぶ)しができる


「ええ、継承者です」


 この男が考えている事は手に取るように分かる。継承者と言うのは言わば伝説上の存在。おとぎ話の類だ。

 継承する者、伝承者、免罪者…いくつもの呼び名があるが、その中でも最も一般的な呼び方が『継承者』。

 彼らは物語で良く英雄的な存在として、(ある)いは主人公の手助けをする賢人として現れる。その知識と不思議な力で、様々な出来事を解決に導くのである。

 そして、それを名乗る男が目の前にたっているのだ、聞き返したくもなるだろう。


 そしてそれを聞く彼にとっては残念なことに、それは事実である。とは言え、継承者とは伝説上の存在。実際のそれとルドとは異なる。最も当てはまる言葉がそれなだけである。


「………」


 絶句する彼には申し訳ないが、今回は別に話をしに来たわけでもない。


「そうですねぇ、拳銃を向けられた意趣返しってわけじゃないですけど、そろそろ眠ってもらわないと……本命も来そうですし」


「……何を…くそっ……ここで失敗する訳…にはっ」


 案の定、彼は抵抗の意思を見せた。或いは、妄執(もうしゅう)に近い何か(・・)か、何にせよこの男には、何かが覆いかぶさっていた。

 たっているだけでも辛いだろうに、その手に持った拳銃を持ち上げた。


「……何でアンタが……生きてるのかは知らんがっ!!!」


 男は何かを跳ね除けるかのように息を吸いこみ、歯を食いしばって、拳銃を正眼に構えた。

 同時に、黒い(かすみ)がその足元から吹き上がるように溢れ出した。


「…なるほど」


 ルドが思わず漏らした声は男には聞こえない。ただ彼は鬼気迫る表情でその場に立っている。

 少々面倒なことになりそうだ。早く打ち切った方が良いかもしれない


「……アンタが生きていたのは、正直に言うと安心したよ。部下(・・)は確かににあんたの頭をぶち抜いていた(・・・・・・・・・)。……それでも生きているって事は、私に撃たれたくらいでは死にはしないという事だ!」



「確かに死んではいない」



 ルドは親しい友人に教えてあげるかのように穏やかな口調で、男に語りかけた。


「俺は死んではいない(・・・・・)。確かにそこに違いはないですとも、ですが……」


 そこで()えて一呼吸置き、反応を見る。変わらぬ鬼の形相は、憎しみと何ら変わりない。


「『俺は貴方がたに殺された』のは確かだ」


「……何が言いたい」


「社長さん、あなた、最後まで拳銃の引鉄(ひきがね)引けませんでしたよね。結果的に、俺は恐慌に囚われたあなたの部下に撃たれましたが。貴方に殺意(・・)があったことに、違いはないんです」


「……」


「仮に俺が撃たれた部屋に倒れたままで、そのまま()てられたとしましょう。そして、俺は実は生きていて、貴方がたに気づかれることなく、普通の生活に戻ったとします。その場合、貴方がたは人殺しになると思いますか?」


 問答の形をとった、答えを求めない問い。

 後ろの階段からは、上階のバタバタとした慌ただしい音が響いてくる。


「答えは『はい』ですよ、社長さん。そこに対象の命の有る無しは関係ない……人が信じる真実っていうのはそれほど曖昧なものだ」


 慌ただしい音は数多(あまた)の銃声へと変わった。

 それを聞き流しながら、ルドは目の前の男との会話に戻る。会話と言うには些か、一方的すぎるが。


「事実である必要はありません。ですから、例えどんなに貴方に大義名分があろうと、貴方は|人殺しである事は変わりません」


 それは、心を折りーー


「貴方は、この仕事が終われば誰も殺さずに済むと、自分のやってきたことが許されるとでも思って…信じていらっしゃるようですが」


 彼の力(・・・)が最大限に働く(・・・・・・・)ようにする為(・・・・・・)のーー


「貴方がそういう性格のうちは、許されなんてしませんよ」


 ーーー言葉(・・)


「貴方はただの人殺し(・・・)なんですよ。」


 貴方がたの定理で言えばね


 最後に言葉を放った時、男が纏っていた霞が吹き消されたかのように霧散する。

 同時に男は倒れ込むように膝をつき、そして糸が切れたかのように地面に倒れ伏した。

 ルドはそれを一瞥し、背後の階段の方へと向き直る。


「トリか」


「……気づいていらしたのですか?」


 応えたのは美しいと形容するのが相応しい見た目の女性。音もなく背後に立っていた彼女は、ルドがよく知る人物である。


「影がね」


 答えると、トリは年相応の仕草で、それでいて少し悪戯(いたずら)っぽく笑う。


「あら、失念していました。もう少し注意するべきでしたね」


 まあ確かに、ちゃんとそこら辺も注意していれば気がつくのにもう少し時間がかかっただろうが、彼女はおそらく、そんな事は既にわかっていたはずである。そもそも、イタズラみたいなものだ、大して気にしちゃいないのだろう。

 それに、ルドはそうされても気がつく自信があった。


「そうだね、次は気をつけるといい」


 それでも、ルドはそう答えた。こんな所で時間を割くのも勿体ない。


「相変わらず、容赦がないのですね」


 トリは床に転がる男達を見てから、ルドへと目を向けた。


「容赦ないってのはどういう事だ?」


「貴方様の()なんて使ってしまっては彼らが可哀想ですよ?」


「そりゃ買いかぶりってものだよ、俺のもの(・・)なんてお前達のそれ(・・)に比べたら、スプーンに(すく)った水みたいなものさ」


「それは……はい、お褒めに(あずか)り光栄です」


 一瞬、何かを言おうとした彼女だったが、結局礼を言うだけで済ませたようだ。彼女は深く頭を下げた。そこまで(かしこ)まらんでも良いのにとは思うが、ジェーンの分がこっちに来てると思えば、嫌に納得出来てしまう。


「それに、彼らだって別に死んだ訳じゃない。ただしばらく自分に(・・・)抑え込まれてるだけだ」


 彼がそうしたのには理由があったのだが、それは今、彼女には関係のない話だ。

 後々関係ある話になるかも知れないが、少なくとも今は関係ない。住む世界が違うのにわざわざ巻き込む必要も無い。


「…上の奴らはどうしたんだ?」


「一応、全部生かしてとっといてありますよ」


 気づけばさっきまで響いていた銃声は聞こえなくなっていた。彼女の能力ならそれくらいは容易(たやす)いだろう。


「……全部一箇所にまとめるか」


「分かりました、今すぐ持ってまいります」


「うん、頼んだ」


 彼女はしばらく目を(つむ)って立っていたが、しばらくすると、階段の方から人が一挙に飛んできた。

 黒い霞が風に乗って流れるかの(ごと)く彼らの周りに漂っていた。


 結局、彼女は一歩も動くことなく、8人の男達をこの場所に集めた。

 これは彼女の能力、世間一般で言えば『念動力(サイコキネシス)』と呼ばれるものだ。


「…さて、来るだろうか?来るだろうなぁ」


「……来るんですかね」


「来るさ、多分奴らの狙いはコレ(・・)だ、俺達…いや、正確にはジェーンとお前…かな?」


「何でそう(・・なるのですか」


「なに、同じ能力者だから警戒してるんだろう。少なくともジェーンが奴ら(・・)の1人とは接触しているのが分かってる」


「瞬間移動の能力者でしたね」


 トリの答えに頷いて肯定する。


「ジェーンの領域下でも何のラグもなく能力を行使していたらしいから、それだけでもかなりの奴だと分かるな」


 ルドは言いつつ、ぐるりと周囲を見渡す。今のところ、何の異常も見受けられない。


奴ら(・・)の狙いが私達だとしたら、なぜ彼らをここに集めたのですか?」


「何故、と聞かれたら少し困るな。逃げられないよう…これくらいの意味しかない……もしかしたら奴らはコイツらを回収しに来るかもしれないから。貴重な情報源だ、居なくなられちゃ困る」


「また、随分と面倒なことに巻き込まれたんですね」


 トリはさも自分が巻き込まれたかのような重々しいため息をついた。


「面倒に違いは無いが、俺にとっては貴重な暇潰し(・・・)なんだよ」


「本当に相変わらずなようですね、確か私達(・・)の時もそうでしたよね」


 言われてルドも何となく思い出す。言われてみれば確かに、こいつ達と会った時もそんな感じだったかもしれない。責められてるわけでもないが、()えて苦笑してそれを流す。

 この話題は会う度にしている気がするが、ルドは何となく、それを肯定する気が起きなかった。それは全くの事実で否定する要素もないと言うのに。

 或いはそれは、自分の事をまるですべて見透かされているような気がして嫌なのかもしれない。ほとんどプライドなど無いルドにとってもそういう感情は未だにあるらしい。


 我が事ながら少し意外に思いつつも、そんな事はお首にも出さず、それた話題を元に戻しにかかった。


「そんな事より、俺の力じゃその瞬間移動君は(おさ)えられないと思うんだが…お前、抑えられるか?」


「直接会ってないんでなんとも言えませんけど、難しいと思います。ジェーンさんが出来なかったことを私ができるとは思えませんし…」


「そうだよな」


「ただまあ、貴方のお力添えがあれば何とかなるかも知れません」


 トリの提案はルドが訊こうとしたことと同じで、考えが一致したことを示していた。

 何とかならなかったらその時はその時である。


「そっちの路線で行くか」


「はい」


 考えを(まと)め、話が終わった頃を見計らったかのように、部屋…と言うよりもホールに轟音が響く。

 それは扉が吹き飛んだ音、何か(・・)が起こった破壊音だ。


「お出ましか」


 金属が叩きつけられる耳に響く不快な音が止み、扉のあったところの前に立っている男がいるのを見て、ルドは何となしに呟いた。


「わざわざ派手な登場をしましたね…瞬間移動出来るならそのまま私達を後ろから刺すことだって出来たでしょうに」


「……いないのかも知れんな、(ある)いは別の目的があるか」


 どちらでも都合が悪い奴達(やつら)が来たということには変わりないが、前者の方が幾分か気が楽だ。


「どちらにせよ、今はアイツ()をどうにかしよう」


「分かっていますよ」




「さてーー、多分、初めましてだ、愚民ども!」

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