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六英雄キ -未来編-  作者: 上野 鄭


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2話 失くしたもの

本日2話目です。

 混乱収まらぬ俺は、キエラに言われるがまま二人の練習を見学することになった。


「えっ、でも……」

「ゼインは貴女たちのこと、笑ったりしないわよ」


 言い淀むニネ……シアナに、キエラは頭を撫でる。


「どういうことだ?」

「それは追々。今は時間がもったいないから、移動しましょ」


 そのまま四人で移動した先は、誰も居ない練習場だった。


「二人はいつものように。私はゼインに説明しながら、適宜アドバイスしていくから」

「はーい」

「……わかりました」


 まだ戸惑いを(にじ)ませながらも、二人はそれぞれ動き出した。


 視た目は普通の魔法練習の風景。

 魔力循環から始まり、個々の魔法を発動していく。

 何が変なのかと首を傾げる俺に、キエラが前を向いたまま話しかけてきた。


「不思議に思うのも無理ないわ。貴方にとっては普通の練習風景なのだから」

「ということは、今の主流から外れてるのか……」


 先の言葉を思い出し、そんな結論に至る。

 キエラから否定は飛んでこず、肩を竦めるだけだった。


「今は魔技装(デバイス)と呼ばれる魔法補助装置を使うのが当たり前になっているのよ。そっちは術式(コマンド)を口にするだけで必要な魔力を吸い取って勝手に発動させられるから、本人の技量が必要とされないの」


 一度でも魔法を使えさえすればその術式とかいうのに登録できるらしく、技量を磨く努力は馬鹿だという風潮なのだとか。

 その術式も、劣化であれば複製が容易だということで、一部の腕の立つ”天才”から買うのが一般的だという。

 後はその術式を掛け合わせたり、いかに戦術的に組み立てたりするかが物を言うそうだ。


「それでも世間一般で強者と言われる人たちは、魔技装以外もちゃんとしてる人が多いわよ。でもそれは、元から才能ある前提。あの娘たちみたいに平凡な――最初から()()()()()()()()を持っていない場合は、嘲笑の的にされがちなのよね」

「ふーん……」


 キエラの説明を聞きながら、俺は二人に“目”を向ける。

 今の魔力量は年の割りには多いほうだ。

 魔法適正も、どちらも回復は使えそうだし、アル……リネットに関しては四属性全てを扱えるだろう。

 後はどれだけ魔力操作の腕があるか次第だが、ざっと視た範囲では将来有望そうではある。


「ゼインからしたら馬鹿げた話でしょうけれど、今はそういう時代なのよ」

「時代で魔法技術は変わるとはいえ、それって退化したんじゃないか?」


 思わず皮肉を零すと、キエラも苦笑交じりに同意する。


「それでも全体を見れば、魔法水準は上がっているのよ? 戦闘だけじゃなくて、生活面のほうもね」

「だとしても、一々口に出す過程が無駄だろ。他の奴もその術式とやらを知ってれば、対策も容易だろうし」

「そこは欠点として周知されてるわ。それでも今までの長々とした詠唱と比べれば、雲泥の差なのは明白でしょう」


 言いたいことは理解できなくもないが、それなら無詠唱を主流にすべきだったな。

 たぶん、それができない理由があったんだろうが。

 喉元まで出かけた言葉を呑み込む。

 俺の表情から察したのか、キエラはもう一度だけ苦笑を浮かべ、次には一転して明るく笑い掛けてきた。


「それにしても意外だったわ。貴方があの二人と見間違うだなんて」

「……別に、間違った訳じゃない」


 咄嗟(とっさ)に否定したものの、流石に無理があったのか、キエラが心配そうに眉をひそめる。


「確かにアルシアやニネットと瓜二つだけれど、髪色から違うのだからひと目で見分けがつくはずよ。背丈も入れ替えっこしたみたいに逆でしょうに」

「いや、まぁそうなんだが……」


 そう言われると強く反論できない。

 どうしたものかと悩んでいると、キエラの目がますます細く強くなる。

 言い逃れを考えていた俺だったが、事ここに至っては隠し立てできない。


 仕方なし……か。


 浅くため息をついて腹を括る。

 今のこいつになら、話しても問題ないだろう。

 変に騒ぎ立てられることもなければ、余計な口出しをされることもないだろう、と。

 そう自分に言い聞かせ、納得させる。

 そして、疑念の籠った眼差しを向けるキエラへ振り向くと、俺はおもむろに白状する。


「……あの二人の容姿を、()()()()把握できなかった」

「どういうことかしら?」

「そのままの意味だ。姿形は判別できるが、色までは認識できてない。……要するに、()()()()()()ってことだ」


 真実を打ち明けると、キエラは目を見開いて言葉を失う。

 時が止まったように固まるが、遠くの二人はそんなことお構いなしに鍛錬を続けていた。

 そもそも、こっちの異変に気付いた様子もない。

 大声を上げられなくてよかったと、密かに胸を撫でおろす。

 流石に声があれば気付かれただろうからな。


「……貴方、いったいいつから見えていなかったのよ?」


 絞り出した声が隣から発せられる。

 まだ依然として呑み込めた様子はないが、それでも不意に口を衝いた疑問のようだった。


「完全に見えなくなったのは“独楽”の戦いの後だな。視界の異変に気付いたのはもっと前、お前と“ドッペルゲンガー”を倒した後だ」

「なら、もっと早く教えてくれてもよかったじゃない。――というか貴方、見えない状態で『厄災の芽』と戦ったっていうの!?」


 次第に咀嚼(そしゃく)できてきたキエラが、徐々に語気を強めていく。


「見えないと言ってもそれは肉眼だけの話だ。魔力視があれば大抵の状況は把握できたから、不便と感じたことがない。戦闘に関しても、然して影響はなかったしな」

「でも貴方、その()()は……」


 視線を布でぐるぐる巻きにされている右腕へ向けながら言い淀むキエラ。

 そこにはあるはずの肉体はなく、あるのは魔法で形作った仮初めの器だけ――。

 言いたいことは、それだけで察した。


「別に見えなかったから“馬”の攻撃を喰らった訳じゃない。……まぁ、状況把握が遅れたってのは否めないが」

「じゃあしっかり悪影響を受けているじゃないの! どうしてもっと早くに相談してくれなかったのかしら? 知ってれば、別の対応も取れたかもしれないのに」

「いや、結果論だが右腕は無くなって正解だった。じゃなきゃ被害は目も当てられんぐらい増えただろうし、俺も準備が間に合わなかった。アルシアには悪いが、怪我の功名だと思ってる」


 俺の言葉にキエラはなんとも言い難い(しか)め面を浮かべる。

 その表情は怒りたいのに怒れないといった風。

 いや、文句を垂れたいが、それが何かに阻まれているんだろうか。

 そういう心の揺らぎが感じ取れた。


「……そんな大事なこと、どうして黙ったままにしちゃったのよ。知らずに往生したアルシアたちが報われないわ」

「悪かったって。だが、伝えたところであいつら気に病むだけだろ。どうにか前を向いたところへわざわざ蒸し返すのも気が引けたんだ。ならいっそのこと、知らずにいたままが一番かと思っただけだ」

「まぁ、そうかもしれないけれど……」


 煮え切らない返事をするも、結局のところ、今の俺たちにはどうすることもできない。

 既に終わったことを思い悩んだところで仕方がない。

 ちらりと聞いてみたところによれば、アルシアもニネットも、失意の中で没した訳じゃないらしく、そのことに安堵する。

 子供や孫たちに看取られ幸せそうだったと、それだけ聞ければ俺は十分だった。


「話を戻すけれど、ゼインはどうして――」


 キエラが更なる真実を尋ねようとして、その先の言葉を途切れさせる。

 なぜとは聞くまでもなく、話し込んでいた俺たちの元へ、魔法の練習をしていた二人が近づいて来たからだ。


「あら、二人とも。まだ練習メニューは終わってないと思うのだけれど」


 優しくキエラが問い掛けると、姉の後ろに隠れていたニネ……シアナが、ひょこりと顔を(のぞ)かせながら威勢よく口を開く。


「キエラ先生! 先生はどうしてそこのケダモノに気を許しているんですか? ()()()()()()寄せ付けない、大人な先生が!」

「シーちゃん、その言い方はさすがにどうかと思うよ。()()()()、ご先祖さまなんだから」


 妹の言い方もあれだったが、アル……リネットの注意もあんまりなものだった。


「ケダモノって――まぁ、事情を知らなければ、姉に急に抱き付いてきた悪い虫に見えなくもないわね。私が伝えたところで証拠もないでしょうし」


 少なくとも、容姿や適性の一つも受け継がれなかったようだから、妹の言い分は分からなくもない。

 どこぞの馬の骨が、慕っている相手と親しげに話していれば気にもなるだろうと。


「なら、どうすれば信じてもらえる? 俺は別に、ある程度の情報さえ確認できれば、それでいいんだが」


 元からこの国、この時代には、俺という存在は異物であろう。

 二人のことは気掛かりだが、表立って助けずともいい。

 むしろ、裏で暗躍するほうが望ましいだろう。

 二人が目障りだというのなら、素直に退場するのも辞さないつもりだった。


 そんな俺の心情を察したのか、キエラは眉をひそめて腕を組む。

 何かしら考えているようだったが、それより早く、妹がにんまりと悪い笑みを浮かべていた。


「じゃあじゃあ! 先生と戦ってみてよ。『当代最強の魔女』ってうたわれてる、キエラ先生とさ!!」

「さすがにそれは、難しいんじゃないですか?」


 声高々に言い放つ妹と、さも勝利を疑わない姉。

 そんな二人に対して、当人は引き()った笑いで固まっていた。


 ……()()、ねぇ。


「ね、ねぇ二人とも、その辺で――」

「いいじゃん、先生! あの男を、ぎゃふんと言わせてよ!!」

「頑張ってください、キエラ先生」


 キラキラと輝く二対の視線に晒されて、完全に退路を断たれてしまっていた。

 目を細め表情を強張らせるキエラだったが、ややあって「……はぁ、しょうがないわね」と白旗を挙げていた。


「どれほど()()()()()()分からないけれど、少しは歯ごたえがあると嬉しいわ」

「あぁ、楽しみにしてる」


 俺たちの会話は、二人にとっては真逆に聞こえたらしい。

 変わらぬ声援に苦笑するキエラが、なんとも印象的だった。


次は15時半頃を予定しています。

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