1話 英雄の目覚め
拙作をお手に取っていただき、真にありがとうございます。
本作は「六英雄キ -異世界編-」と繋がりのある物語となっております。
未読でもお楽しみいただけるかと思いますが、「-異世界編-」のネタバレが一部含まれます。
気にされる方は、先に「-異世界編-」からお読みいただくことをおすすめします。
本日は後3話分更新予定です。
翌日からは隔日更新となりますので、ご留意のほどお願いいたします。
次話は12時頃の予定です。
意識がゆっくりと浮上する。
薄暗い脳が次第に色を取り戻す。
寝そべる体は僅かに重く、ゆっくりと上体を起こしながらぼんやりと呟いた。
「……あいつに一杯食わされたか。然して意味のない魔法薬かと思ったが、どうやら目を曇らせてたようだな」
そっちには影響がないと高を括っていたのが仇となった。
あの時は気付けなかったが、よく視れば若干鈍ってるのは明らかだ。
今も残っているのがその証左だった。
俺は軽く手を開閉しながら、己の状況を確認していた。
「ん?」
そんな矢先、ふと、気掛かりなことが目に付いた。
「……ここ、どこだ?」
俺がいるのは見覚えのある客間でもどこかの部屋でもなく、だだっ広い空間にぽつんと”箱”が置かれた場所だった。
壁には幾何学模様が刻まれ、数少ない置物は天井から吊るされた灯りと魔石だけ。
見た目はどちらかといえば、霊安室か霊廟と言われたほうがしっくりとくる。
この部屋がある場所自体どこかの地下のようだから、余計にそう感じるのかもしれん。
「……誰かとっ捕まえて聞けばいいか」
ここでひとり考えたところで結論が出そうにない。
そう思い至った俺は、邪魔な装飾のある服をずるずる引きずりながら、暗室を後にした。
◆◆◆
地上付近まで上がると、通路の赴きはガラリと変わる。
それまではどこか厳重で物々しい雰囲気を醸していた内装が、あるところを境に、明るくも厳粛な様相を呈していた。
とはいえ、境界を認識できる奴がどれほどいるだろうか。
幻惑に認識阻害、更には錯乱の魔法までが組み込まれ、普通の奴では見破るのは至難の業だ。
そのうえ、人払いの結界まで敷かれる厳重っぷりに、さしもの俺もドン引きだった。
「そこまでして、俺を隔離したかったのか?」
誰の仕業かすぐ解ったものの、心当たりがなさすぎて首を捻る。
そんな怒らせるようなことしただろうか……?
ぼんやりと記憶を手繰りながら歩みを進めていった。
道中、誰かと出くわすこともなく、人けは皆無だった。
ざっと探った範囲では、どうやら地上に城が建っていたようで、俺はその一画から顔を出したらしい。
場所も割と端のほうだったらしく、道理で人の気配が薄いわけだった。
ようやく誰かしら人の息吹を見つけ、そちらへ舵を切る。
「ひとまず話が聞ければいいしな」
お目当ての人物を知っていれば僥倖。
知らずとも、ざっくりと城の構造を聞ければいい。
そんな軽い気持ちで、第一発見者へ会いに向かった。
……この時の俺は、まさかあんなことになるだなんて思いもせずに。
そいつへ近づくと、懐かしい気配に思わず足が前を向く。
ここまでずっと肩に垂れ下がっていた布切れが、尾を引くように靡く。
曲がり角を超え、その姿を捉える。
勢いそのままに、俺は後ろからそいつを抱きしめた。
「――アルシア! よかった、元気そうで……」
「えっ!? えっと……」
小さな肩を震わせ、狼狽えたような声を出すアルシア。
力が強すぎたかと腕を緩めようとして、俺の耳に軽快な足音が届けられる。
それは次第に強くなり、間隔も短くなる。
最後の一歩、駆け出す勢いを乗せて地を蹴った人物は、大声と共に蹴りを繰り出してきた。
「――お姉から離れろ! このケダモノが!!」
「離れろって……何言ってるんだ、ニネット?」
「……あのぅ、そろそろ離してはいただけませんか?」
空中で受け止め、足癖の悪さを嘆いていたところへ、前から文句を言われる。
「さっきからどうしたんだ二人とも。そんな敵愾心剥き出しで」
「うるさい!! いいからその汚い手を離せ!」
ニネットがこれだけ動けるようになったのには驚いたが、それ以上に、さっきから悪感情しか伝わってこない。
言動の分かりやすいニネットと違って、アルシアはちくちくと刺すような視線で黙っていたが。
荒れる二人に困惑していたところへ、新たな人影が割って入る。
「さっきから騒いでどうしたのかしら? 練習前に消耗されちゃ困るのだけれど」
聞き覚えのあるその声は、高いヒールの音を響かせながら姿を現す。
「キエラ、この二人なんだが――」
「――キエラ先生! この人がお姉を襲ってるの!! 早く助けなと汚されちゃう!」
「助けてください、キエラ先生!」
俺の声は、二人の声に掻き消されてしまう。
というか、キエラ……先生? それにお姉って……。
ニネットは、いつからアルシアのことを”姉”と呼ぶようになったんだ?
そういえばさっきも、飛びつき様にそう呼んでいた気がする。
聞き流してしまったが、今思えば、最初から様子がおかしかった。
考え込んでいる隙にアルシアは俺から離れ、ニネットもキエラの背中に隠れる。
二人して嫌悪を浮かべる様子に、ここへ来てようやく違和感に気付いた。
そんな俺を尻目に、キエラが二人を宥めすかしていた。
「ふふふ、二人とも、そんな邪険にしないの。突然のことでびっくりしちゃったのは仕方ないけれど、そう彼を責めないであげて」
「でも――!!」
「貴女の言いたいことは分かるわ、シアナ。でもね、彼の名前を聞けば、少しは納得してくれると思うのよ」
……やっぱり、そうか……。
キエラの口から告げられた”名前”に、俺の疑念は確信へと変わった。
「お名前って……私たちが知っている人なんですか?」
「そうとも言えるし、違うとも言えるわね」
「ね~え~、もったいぶらないで、早く教えてよ~」
我慢の効かない子供のように体を揺するニネット。
……いや、ニネットのそっくりさんと言ったほうが正しいのか。
すべて理解しているだろうキエラは、ひとり可笑しそうに微笑みながら謝る。
「ごめんなさいね。ちょっとだけ、可愛い反応を見ていたくて」
そこで言葉を切ったキエラが、二人へ言い聞かせるよう腰を折って告げた。
「彼の名前はゼイン。――貴女たちのご先祖様にあたる人物よ」
「え?」
「えぇ!?」
二人はそれぞれ異なった反応を見せる。
ニネット……のそっくりさんはぽかんと大口を開けてこちらを見つめ、アルシア……のそっくりさんは目をまん丸にしてキエラと交互に視線を向ける。
対する俺はといえば、渋面を浮かべて形容し難い感情と格闘していた。
「ふふっ、ゼインはもう気付いたようだけれど、貴方にしては珍しい間違いをしたわね」
「……ほっといてくれ」
鼻を鳴らしてそっぽを向いたが、その反応がお気に召したのか、キエラはよりいっそう笑みを深めるばかり。
それがますます皺を深くする。
ひとしきり笑ったキエラだったが、今度は俺に対して言葉を掛けた。
「紹介するわね。こっちのアルシア似の娘が姉のリネット。そして、ニネット似の娘が妹のシアナ。それぞれがあの二人の子孫よ」
勿論、貴方のもね、と付け加えたキエラに、改めて二人を振り返る。
リネットと呼ばれた少女は、澄んだ新緑の瞳に長い桜色の髪を腰まで伸ばし、反対に、シアナと呼ばれた少女は淡い青色の瞳と肩口までの銀糸を携えていた。
背丈も一五〇そこらのリネットと、一四〇に届かないシアナ。
それらは記憶にあるあの二人と酷似し、それでも互いに交換したかのような容姿は別人だと理解させられる。
「貴方は寝ていて知らないでしょうけれど、ここはあれから数百年が経過した未来。人も時代も、何もかもが進んだ世界なのよ」
キエラから告げられた真実に、否が応でも自覚せざるを得ない。
ここにはもう、俺の居場所はないのだと。
……どんな顔で接せばいいのやら。
「う、んん……」
口をへの字に曲げながら、俺はただ、喉からつっかえた声を漏らすだけだった。
~一言メモ~
「-異世界編-」に登場したキャラで、
アルシアは長い銀髪に緑瞳、身長151cm
ニネットは桃色のボブカットに淡い青瞳、身長139cmです。
シアナがアルシア、リネットがニネットの子孫ですが、容姿や年齢は逆になっています。




