第3話 2
しばらくして、私は今、学校の図書館にいた。図書委員としての仕事をこなしながら。今日は来ている生徒が少なくて、たぶん朝からいくつかの行事が続いているせいで、各クラスがそれぞれ忙しいのだと思う。
さっきからずっと頭の中でぐるぐると考え続けながら、ひとつひとつ本を棚に並べていた。ハードカバーが規則正しく並んでいく音だけが、静かに響いていた。
本を棚に入れていたそのとき、ドアがきしむ音がして、ふたりの生徒が入ってきた。耳に届いてきた言葉は、聞こうとしたわけじゃなかった。
「ねえ知ってる? さっきグラウンドで生徒が揉めてたんだって」
「え、マジで?」
「うん、隣のクラスの子らしいよ。幼なじみとのロマンス絡みで、どうやら彼女が告白して断られたらしくて、先週あたりからずっとそういう話が出てたみたい」
「はは、面白いな。あの子って可愛い子じゃなかったっけ」
「まあそうなんだけど、その子、なんか本の虫みたいな女子と仲良くしてるんだよね。もし俺だったら絶対あの子のほう受け入れてたのに……」
「そういえば今日どの本読もうかな……」
また、知らないうちに自分が誰かの話題になっていた。学校のどこかで、自分に関係する言葉が飛び交っている。でもその言葉に反応するつもりはなかった。ただ、本を並べる手がいつもより少し速くなっていただけ。視線を向けることも、別の方向を見ることもなく。
どうしてそうなったのかわからないけれど、気づいたら仕事が終わっていた。各棚にきちんとラベルが貼られて、今日の仕事を締めくくるように、一冊の本をわざと少しだけ手前に出しておいた。
その日の授業がようやく終わると、教室には少しずつ椅子を引く音が重なっていった。荷物をまとめながら、あの人の目と合った。手を大きく振りながら、そのまま教室を出ていった。
他のクラスメートたちの視線が私に向いてきた。ひそひそ声も聞こえた。あの日の偶然のできごとのせいで、いつの間にか私たちふたりの話が広まっていたらしい。できることといえば、無視することだけだった。考えるより先に鞄を肩にかけて、その場を離れた。
廊下を歩きながら、少しだけ足を緩めた。出口へと向かう人の波の中に紛れながら。
靴を履き替えてから、学校の駐車場の裏へと急いだ。頭の中では何度も自分と言い争いをしていた。たぶん、他のクラスメートが私をどう見ているかという不安のせいで。そうしてやっとそこに辿り着くと、あの人が手を振りながら声を上げてこちらを呼んでいた。
ゆっくりとこちらに近づいてくる。かなり古い自転車を押しながら。チェーンのところが錆びすぎていて、もうすぐ切れそうに見えた。
「……食べる?」
手に持っていただんごをこちらに差し出してきた。いきなりすぎる。私はまだ何も言っていないのに。このクラスメートは少し何かがおかしいんじゃないかと思った。もしかして、今日の午後の風のせいだろうか。
「……いい。さっき食べたから」
「それは知ってるよ、一緒にいたじゃない」
「うん、だから?」
「真似してる」
「何を?」
「僕がやってることを、たぶん。好きだけど好きじゃないってやつ。まあ考えてみたら、涼しい天気のときは何食べればいいんだろうね」
このクラスメート、一緒にいる時間が長くなるほど、どんどんよくわからなくなっていく。「真似してる」って何のことだろう。数日前の食べ物のカテゴリの話を、まだ引きずっているんだろうか。そのとき、そんなことを思った。
「さっき言ったじゃない」
「じゃあ決まりだね。さあ乗って、この自転車は飛行機より速いよ」
少し急ぎながら彼は自転車にまたがって、後ろの荷台のほうへ顎をしゃくった。言いたいことはわかった。でも今は彼の頭の中が何を考えているのか、少し理解しようとしていた。
いたずらっぽい顔をしている。それにこんなぼろぼろの自転車に乗るのは少しリスクがある。飛行機と比べるなんて、私の足のほうがよっぽど速いんじゃないかと思った。
私が一生懸命考えている顔をしていると、彼は少し念押しするような口調で言ってきた。
「ねえ、歩いて帰る気? 他のクラスメートにふたりの仲の良さを見せつけたいの? まあいいけど」
「それにさ、隣の家のおばさんから苦労して借りてきたんだよ、この自転車」
そう言いながら自転車を降りて、駐車しようとした。少し迷ってから、私は一歩前に出て後ろの荷台をつかんだ。その動きがぴたりと止まった。
少し間があった。周りの生徒たちの声だけが聞こえていた。
一緒に歩くほうが絶対に悪い選択だと思う。たくさんの目に見られるのは間違いない。でもこのクラスメートがこの自転車を借りるのに本当に苦労したのだと思うと、少しだけその努力が報われてほしいと思った。だから流れに身を任せることにした。
「なんで……気が変わった? 何か考えてる? そうでもないか」
返事をしないまま、そのまま後ろの荷台に乗り込んだ。自転車のバネがきしむ音がした。最近体重が増えたんだろうか。少し頭を下げながら。
「……」
「じゃあ行こう、今日の夕方はきっといい景色が見えるよ」
また彼はハンドルを握り直して、両手を空高く上げて、小さな反乱者みたいな声で叫んだ。どこへ向かうのか、目的地が何なのか、私にはわからなかった。でもその姿を見て、少しだけ慣れてきた自分がいた。口から出そうな言葉はふたつだけだった。
「……ひとつ、遅くなりすぎる前に帰りたい。ふたつ、飛ばしすぎないで」
「了解です、四つ目キャプテンくん、小さなミッション開始です」
こうして私たちの旅が始まった。彼がゆっくりと足でペダルを漕ぎ始めるとともに。このクラスメートは本当にさっきの言葉を聞いていたらしいと思った。だからこそ少しだけ体の力を抜いて、通り過ぎていく道と、道沿いに並ぶ木々をぼんやりと眺めながら。
旅が続く中、ときどき彼のくすくす笑いと言葉が聞こえてきた。「楽しいな、君を乗せてるって、僕にとってとても幸せな活動だよ」。私はただ「どういたしまして」と返した。
たぶん彼なりの感謝だと思ったから。ずっと笑い続ける彼の背中を眺めながら、そうとだけ受け取った。
「ねえクラスメートくん、もし将来作家さんになったとき、どんな話を書きたいの? 気になるな」
「……何を書くかはまだわからない」
「えっ……そうなの? うーん、たとえば眼鏡をかけた女の子とかっこいい男の子が出会う話とかどう?」
彼はまたくすくすと笑いながら、周りの景色をときどき眺めていた。私はしばらく彼の横顔を見つめた。これはまた新しい口説き文句の試みなんだろうか、と思いながら。
でも彼の提案は悪くないかもしれない。そんな気持ちで、ただ一言返した。
「考慮するには十分かな」
「僕のアドバイス、役に立ったでしょ! どういたしまして」
「今、気分はどう?」
「毎秒私の気持ちを確認してるの?」
「わあ、僕も楽しんでるよ……今日の夕方の風、涼しいね。まるで空の上を歩いてるみたいだよ」
私の質問を彼はそのままスルーした。この人に何かを言っても無駄な気がした。それに、平気で人の感情を評価するなんて、あまりにも礼儀がなさすぎる。正直に言えば、今感じているこのもどかしさを伝えないのは少し嘘をついているみたいで、ちゃんと言うことにした。
「なんで会うたびに私の気持ちのことを聞くの?」
「ああそれ? 自分の感じてることと照らし合わせてるんだよ。たぶん、人によって感じ方は違うんだなって思って」
「だから、君が何を感じてるか毎回わからなくて、だから聞き続けてるんだ。君の答えを聞くのが、なんとなく嬉しいから」
彼は小さくくすくすと笑いながら、ときどき口笛を吹いた。消化するには少し重い言葉だった。でも彼の答えが、私たちそれぞれにとって同じことをしていても感じ方が違うということを、少しだけ教えてくれた気がした。
彼がさりげなく人の気持ちを読もうとするやり方はかなり上手いと認めざるを得ない。そして私がその言葉の意図についていけないことも、また事実だ。
「あっそうそう、もっと大事なことがあって、実は明日の宿題、やってないんだよね」
その告白を聞いて、以前言っていたことを思い出した。あんなに成績が低い理由のひとつは、もしかしたら宿題をやらないからかもしれない。私はただ少し首を横に振って、ずり落ちかけた眼鏡の位置を直した。
「それはやったほうがいいんじゃない、成績が下がるよ」
「そうかな? まあそうだよね。でも君の課題を見せてもらえたらどう?」
「それは良くないこと」
「マジで?」
「良くない」
「わかったわかった、でも許可さえもらえればいいってことだよね」
「私の言ってることわかってる?」
「うん、許可をもらうところはちゃんとわかったよ」
こんなふうに彼は、私の頭の中にある想定を次々とひっくり返し続ける。言葉と思考がどこかで食い違っていて、私にはよくわからなかった。
しかしなぜだかわからないけれど、少し色褪せたように見える空の下で、私はふと考えながら、静かに流れる用水路をちらりと眺めた。
このクラスメートとこうして一緒にいると、何かを決める前にいつも抱えてしまう不安が、少しずつ薄れていくような気がした。決断というものはその結果として答えが出るものだと思っていた。でもこの人は、そういうものを何も見せてこない。
「ねえ、今この自転車で死んだりしないよね? 今はそうなりそうだけど」
チェーンが軋んで噛み合う音の合間に、急に彼がとても奇妙で恐ろしいことを言った。今まさに隣に並んでいる私の立場で聞くと、少し居心地が悪くなった。彼の脳の神経がまた叫び始めたのだろうか、と考え始めた。
静かに、その言葉をやり過ごして、引っ張られそうになった議論をすり抜けた。
「……変なこと言わないで。それは君が決めることじゃない」
「でもそれは僕の意見だしさ、そうだね、それは僕が決めることじゃないとも思う」
「代わる?」
「どういう意味?」
「少し疲れてきた、クラスメートくん。もしかしたら自転車漕いでみたい? というか、君に乗せてもらいたいんだけど」
交代することを何度も考えた。本当は断りたかったけれど、たぶん自分の安全のことが気になって、それにこの人が疲れているのも確かで、さっきの答えを頭の中で何度かぐるぐると考えた。
そしてゆっくりと、小さく言った。風がその瞬間少し強く吹いていたから、ほとんど囁きみたいだった。
「……おっと、……安全のためだから、今回だけ」
「え!! 聞こえなかった」
「賛成してくれるの? でも後でね、今は女の子を乗せてる感じを楽しみたいんだよ、ははっ」
彼は元気よくそう言いながら後ろをちらりと振り返って、とても嬉しそうな顔をしていた。私はただ少しの間ぼんやりとして、それから座っているシートの支えをもう少しだけ強く握り直した。
その後は道の長さを埋めるように、タイヤと砂利がこすれる音だけが続いていた。ときどき彼は日常のことをぽつりぽつりと話しかけてきた。笑ったり、ふと黙ったり。何を感じているのか、私には全くわからなかった。
でもそんな頭の中の言葉の殻の裏で、このクラスメートが、自分のやることに対してかなり真剣な人だと気づいた。今まで見てきた行動や振る舞いから、それは伝わってきた。私みたいなクラスメートと比べても、全く違和感がない。むしろ彼が周りの人に分け与えている気力とは正反対かもしれない。
自転車のタイヤがゆっくりと速度を落として、近くのスーパーに少し立ち寄ることにした。彼の提案通りに、お菓子と飲み物をいくつか買うだけ。
「当ててみて。僕がこれを飲み切るのにどのくらいかかると思う?」
息を弾ませながら彼はそう言った。どうやら今かなり無理をしているようで、もし急に死んだりしたら、偶然巻き込まれた私が最初の容疑者になるんじゃないかとふと頭をよぎりながら、今、ふたりで自転車を止めた場所に向かって歩いているところだった。
今にも開けようとしているペットボトルに視線が向いた。頭の中で少し迷いながら、まるでこの手の謎解き計算が得意分野であるかのように落ち着いて答えた。
「一分」
「賭ける? ……10秒でいけるよ!」
何なんだろう、まるで自分で作った勝負にもう勝ったかのような口調で。私はただ飲み物をすすり続けて、彼のほうを見なかった。チョコレートの溶けるような爽やかな味が口に広がった。
さすがにそれは無理だと思う。絶対何度かむせると、心の中で賭けていた。しばらく考えている間も彼は歩きながらぴょんぴょんと小さく跳ねていた。
少し首を横に振りながら、思ったままの言葉を返した。
「……まあいいけど、賭けるものが何もない」
「えっ、それはないよ。僕が持ってないものだってあるじゃない。もし僕が勝ったら……」
突然彼は私の周りをくるくると回りながら一人でにやにやして、そのまま私のほうへ体を傾けてきた。これはきっと意図的な行動だと思った。
「……たとえば、君の時間をもらう」
そう言いながら私の額をつんつんと指でつつこうとした。
このクラスメートの突飛な行動に、思わずほんの少しむせそうになった。時間を盗むなんて意味のわからないことを言って、それは高校生にはとても不可能なことだと思う。堂々と時間を盗むと主張するなんて、明らかに物理の法則に反している。このクラスメートはもしかして職業を泥棒に変えたいのだろうか、私のその見立ては少し大げさかもしれないけれど。
深く考えるわけでもなく、気乗りしないながらも、少し強めのトーンで答えた。
「それだけ自信があるの?」
「それはもちろん」
「そう」
「応援してくれるよね?」
そう言うやいなや、淡々とした声で「うん」と答えると、そのまま彼はくすくす笑いながらゆっくりとキャップを開けた。
私は後ろ手を組んで、指でゆっくりと数え始めた。ひとつ、ふたつ、みっつ、と続けて、彼は勢いよく飲んでいて、こんなに急いで大丈夫なのかというくらい汗がどんどん滲んでいた。十本目の指を離しそうになったちょうどそのとき。
少し苦しそうで、ほとんどむせかけていた。やめるよう声をかけようとしたけれど、突然彼はそのまま両手を高く上げて、大声で叫んだ。
「ああああ!!……最高に気持ちいい!!」
「ほら、思ってたより簡単だったでしょ」
「まあ、そうみたいだね」
「えへん、クラスメートくん、今の僕の成功は君の勝利でもある。でも忘れてないよね、何を受け取るか」
何が言いたいんだろう。勝ったのは彼だけなのに。それにこんな些細なことでそんなに幸せそうにして、まるで自分が抱えているものが、頭の中の幻想に過ぎないかのように。
さっきのことについて、彼が本当にやろうとしているのか少し心配になって、ただ確認のつもりで聞いた。
「本当にやるつもりなの?」
「やるよ、だってそれは価値がある、いや、とっても、とっても価値がある。だから君からもらうんだ。もう勝ったんだから、逃げようとしないでよ」
「こういうことを言われたら逃げるのが普通じゃないの、私みたいな人間は」
「まあそうだね、だから、もう逃がさないよ」
その言葉に少しはっとした。些細なことへの執着もそうだけど、逃がさない、「また」? 「また」という言葉の追加がどうしても気になった。
それがずっと頭に引っかかって、手の中の飲み物をぼんやりと眺めながら、彼の死がいつか来るその日まで一緒にいたらどうなるのかを考えようとした。この偶然が本当に彼によって仕組まれたものなのかどうか、本当にわからなかった。
「さあ、君の時間を使いに行こう」
あの賭けから生まれた言葉にしては随分と変だと思った。彼は明るい声でそう言った。これから先の自分の時間や日々が、隣にいるこの人と本当に繋がっていくんじゃないかという気がして、考えが追いつかなかった。
口から言葉を出そうとしたそのとき、突然彼が私の手を引っ張った。彼の手の温もり。なぜかその手を離せなかった。もっと正確に言えば、嬉しそうに笑いながら私を引っ張る彼の顔を見たら、離す気になれなかった。
速い足取りで彼は私をあちこちに連れ回した。今は彼の背中だけが見えていた。まさかこんなに本気だとは思っていなかった。その握りしめる力が、まるで流れに引き込まれていくような感覚をつくっていた。
道端のアクセサリー屋をいくつか回って、ゴムブレスレットをいくつか買っているのを見ていた。アクセサリーの選び方がなかなか上手いと思った。初めて会ったときからすでに何色かのゴムブレスレットをつけていたことに、あまり気にしていなかったからか今になってやっと気がついた。
ときどき彼は「これ似合う?」と聞いてきた。私は人を評価するのが得意じゃないから、思ったまま正直に「似合わないと思う」と答えた。彼はそれを聞いて笑った。このクラスメートのどこがそれを笑いどころだと思ったのか、私にはさっぱりわからなかった。
必要なものをひととおり買い終えてから、なぜかふと鍵をかけていない自転車のことが頭をよぎった。原因と結果の巡り合わせで、仕方なく口を開いた。
「自転車、盗まれないの?」
「うーん、まあそうだね。でも、自転車は買えるよ。今はそうじゃないものがあるから、あまり気にしないで」
「……他の人のものをそんなふうに扱っていいの?」
「気にしてないよ。それに、あの自転車のこと嘘ついてたから、今正直に言うね。あれ、僕のだから」
「……君……」
さっき起きたばかりの嘘と、それをあっさり認める彼の態度に、言葉が出てこなかった。この人は本当に自分の言葉に対してどこかおかしいんじゃないかと思った。でもそれでも、たとえいつも最後になってからでも、彼が正直に言ってくれることは素直に評価したいと思った。
「嘘を聞いてくれてありがとう……でも僕はそういう人間だから、たぶんそのうち慣れると思うよ」
「それに、僕には嘘をつくたびにちゃんと理由があるし、人間ってそういうものじゃないかな……まあ、引用符つきで、善意のために、とでも言っておこうか」
「君……さっきしたことに善意はないと思う」
「そうかな?」
「……正直に言わないことは良くないと思う。それを受け取る側の気持ちを、君は考えていないんじゃないかな」
「えっほん、そのことについては今回は同意するよ……でも今話してるのって自転車の話だよね? そうでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「あ、そうそう、忘れてた、まだそこに行ってなかったね……世界が君が思ってるより広いってことを見せてあげたくて」
「そこってどこのこと?」
「小さく見えるものが、上から見ると綺麗に見える場所」
「そう」
相変わらずだと思った。彼の説明はいつも同じで、答えるたびに疑問が増えるだけだ。でも何となく気づいていることがある。彼と一緒に踏み出すその一歩一歩が、もしかしたらいつか答えになる何かなのかもしれない。
そういうことで、私たちは自転車を止めた場所へと戻ることにした。彼はときどき冗談を言いながら歩いていた。できれば無視したかったけれど、できなかった。笑えないわけじゃなくて、ただその冗談がいつも彼の病気と死のことに繋がっているから。
だから早くその話題を終わりにしてほしいと思った。そして気づけば、今日の夕方の空がだんだん暗くなっていた。どう考えても今日はいつもより少し遅く帰ることになりそうだった。
ふたりの足が歩いてきた道を進み続けながら、たそがれの向こうに店々がひとつひとつ閉まっていくのが見えた。
まるでサイコロを振るようなものだと思った。そして今日のサイコロは、もしかしたらちょうどいい目で止まるかもしれない。




