第2話
すべては四月の初め、桜がまだ枝先にそのつぼみを隠していた頃に始まった。
日本の学校教育は今、急速な進歩を遂げている。教育情報によれば、学生たちの学力が大幅に低下しているとのことで、そのためいくつかの学校では、私の学校も含めて、カリキュラムの見直しを行った。その結果、高校生の学力向上を目的とした補講も増やされた。もっとも、それは私には関係のないことだったけれど。
少なくとも言えることは、今の教育学は私を含む若者たちに、公共の場での社会活動という形で日常生活の学びを与えてくれている。そうすることで人は、自分たちの行動が今この青春の時期にそれぞれの未来に影響を与えるということを、大切にする力を身につけていくのだと思う。
私は今、どうすれば十という数字が二になるかという計算問題に取り組んでいた。頭の中にあるすべての数のパターンを考えながら、このクラスの騒がしさはもうフィルターにかけられなくなっていて、少しだけ集中力を削いでいた。
彼らの話題といえば、どれも取るに足らないことばかりだ。彼氏彼女の話をしているクラスメートがいれば、学校間のサッカー大会について話しているものもいて、最近の美容トレンドについて語っているものもいる。
私にできることといえば、少し眼鏡を直して、目の前の問題の中に再び沈み込むことだけだった。余計なことを考えていたところで、チャイムが鳴り、学校の講堂でひとつのお知らせが告げられた。
校外で行われる社会活動の実施について。要するに、私は他のクラスメートと同じグループに入ることになり、市内の図書館で本の整理と清掃を手伝うことになったのだ。
短いお知らせが終わった後、少なくとも今日提出する学校の課題はすでに終わらせていて、それが少しだけ気持ちを楽にしてくれた。私たちは他のクラスと一緒に講堂へと集められた。
私はそこに立ちながら、換気口の隙間から差し込む光を眺めていた。小さな本を手に握りながら。出発前の短い挨拶はもう聞いていなかった。どうせ出発前の掛け声に過ぎないと思っていたから。だから無視した。
グループの中には同じクラスメートがいた。三人で構成するには少し騒がしすぎると思う。ひとりはよくわからないことをしゃべり続ける男子で、もうひとりは女子。たぶん幼なじみだと思う、聞こえてくる会話からしてかなり仲が良さそうだった。ふたりの話し声を聞きながら、私はただ額に手を当てるしかなかった。うるさい。
「また同じグループだね、小さい子」
「何を言ってるの、頭の小さい人」
「そんな呼び方やめてよ」
「君が先に始めたんでしょ、まったく!」
「だってそれが本当のことじゃない。ほら見てよ、体も小さいし、口だけ大きい、はははっ」
「君のほうがひどいわよ」
「……どういう意味?」
「体の大きさが考え方に追いついてないってこと。こんな人の幼なじみになりたい人なんていないわよ」
「なんでそっちの話に持っていくの、議論で負けそうになると女子ってそうなるよね」
「被害者ぶろうとしないでよ、先に始めたのは君でしょ。冗談はやめて、ちゃんと周りを見てよ!」
部屋にしばらくとても静かな沈黙が訪れた。
「……えーっ、みんなごめんね、声が大きかったね。もう一度ごめんね、隣の小さい子がちょっとうるさくて」
私はふたりの会話をただ聞きながら、今読んでいる本のページをめくり続けた。今、首のあたりに針で刺されているような視線を感じて、少し汗が出た。
ふたりの小さなドラマが終わった後、先生が私たちを引率して、後で図書館でこなすべき作業のリストが書かれた一枚の手紙を手渡してきた。それが私の手に渡された。
最初、私はその手紙を断ろうとした。私ひとりでは抱えきれない責任だと思ったから。それに今のグループはすでに十分混乱していて、これはかなり難しい仕事になりそうだった。学校の課題を十個同時に渡されたほうがまだましだと思った。
私たちは今、市の中心部にある図書館の前に立っていた。外観からして手入れがされていない様子で、周りには背の高い雑草が生い茂り、その間にいくつかの緑の木が点在していた。
今回の活動は、長い間眠っていたこの図書館を再び活性化させることが目的なのだと推測できた。また、今の学校教育のシステムが定めつつある新しいカリキュラムとも関係しているのかもしれない。
「四つ目のグループリーダーくん、向こうにあるだんごを先に買ってから始めるのはどうかな?」
その言葉が出たとき、私は彼を見ようとは思わなかった。ただ小さく息をついて、眼鏡を少し直して、図書館のドアへと歩き出した。
「……君が何をしようと勝手にすれば。後で報告するだけだから」
「おごるよ、どう?」
「いいえ、結構」
「だんごふたつだったら、いい提案じゃない?」
「いいえ」
「じゃあだんご四つとイチゴミルク、すごくいい提案だよ?」
「……ね、いいえって言ったでしょ」
「じゃあ五つなら——」
その言葉は最後まで続かなかった。私が思い切り図書館のドアを開けたから。ドアが後ろの壁に当たって、かなり大きな音がした。
埃と木の粉の匂いが鼻の奥を刺すように漂ってきた。そして目の前に広がっていたのは、普通の図書館ではなかった。埃と部屋の隅に広がる蜘蛛の巣、床に散乱した本で満たされた古い迷路だった。私は長く息をついて、それぞれの作業分担を書きとめた紙きれを取り出した。
それをふたりに手渡した。彼らの表情が少しずつ口角を上げていくのを見てちょっと驚いた。男子がくすくすと笑って、そのとき私は彼のことを元気なクラスメートくんと呼ぶことにした。
正直、この部屋の惨状は言葉では表せないほどで、ただただ疲れる仕事だった。それなのにふたりは嬉しそうに笑っていて、彼らの頭の中がどうなっているのか、本当に神経がちゃんと機能しているのか少し疑問に思った。
「ひどいけど、楽しそうだね。あれこれやれそうで最高だし、エアコンは動いてるかな?」
「じゃあ今日から毎週ここを掃除するってこと?」
「……まあ、そういうことになるね」
「ちょっと待って、聞いてもいい、クラスメートくん」
私は彼のほうを向いた。髪が少し光っていた。たぶんヘアオイルをつけているからだと思う。ネクタイの締め方がずれていて、制服の着こなしもかなりだらしなかった。
「何?」
「実は最近気づいたんだけど、学校にいるときと全然違うね。ちゃんと責任も任せられるんだなって」
「……それは感想であって質問じゃないよ」
「そうだね、でも少なくとも君と話すのは少し楽しいし、話せてよかったと思ってるよ」
「ストーカーなの?」
「えっ……違う違う、もしストーカーなら堂々とやるよ。それは僕のやり方じゃないから」
「質問がないなら今すぐ作業を始められるよ。他に何かある?」
彼は少し近づいてきた。いたずらっぽい小さな笑みを浮かべながら。
「……友達になってくれる?!」
「いいえ」
私はすぐに答えて、何も考えずに中へと歩き出し、足元の本を拾いながら進んだ。
正直、誰かに友達になろうと誘われたのは初めてだった。それが質問じゃなかったとしても。近くの窓を開けた。一筋の光が差し込んで、埃が舞い上がるのが見えた。
毎日、そして過ぎていく日々の中で、私たちはよくここで時間を過ごした。床の掃除、埃をかぶった本の整理、少しずつ整えていった棚へのラベル貼り、そしてふたりの間でたびたび起きる小さな言い争い。その原因はわからないし、今の私が考えるべきことでもなかった。
四回目の日曜日。この状況に巻き込まれて。たぶん今日が最後の作業日になりそうだった。なんとなく急に天気が崩れてきた。雲が暗くなって、風が強くなるのを感じた。
少し髪を結んで、眼鏡を外して、今いるテーブルに置いた。数日前にこの図書館で見つけた本を開いた。
本のちょうど真ん中のページをめくっていたとき、部屋中に大きな音が響いた。開いていた図書館の窓が強風に押されてバタンと閉まり、屋根から雨粒の音がゆっくり聞こえてきた。
「今日は天気がひどそうだね」
「……少し曇ってるだけ」
「今日はふたりだけだね。小さい子、今日は来ないって連絡があって。おばあちゃんが亡くなったから葬儀があるって」
「親友なんだから一緒にいてあげなくていいの?」
「申し出たんだけど、なぜか断られたんだよね。たぶん悲しんでるから、今はひとりでいたいんじゃないかな」
「じゃあ、もしクラスメートの誰かが死んだとき、君も同じようにするの。四つ目のクラスメートくん?」
「それを言いたいってこと?」
「……違う、本当に会いに来てくれるかどうかってこと」
「それは誘い?」
「誘いだよ。でも大事なのは誰かじゃなくて、次にそのクラスメートのために何をするかだからね」
「……」
なぜこのクラスメートが死について話し始めたのか、私にはわからなかった。最初は小さい子が今日の作業に来られない理由を説明しただけだったのに。それに友情とか死とか、そういうことは、たまたまそこにいただけの普通のクラスメートである私には、関係のないことのはずだった。
「へえ、そう」
彼は大笑いして、ぼろぼろの木の机を強く叩いた。追加の作業が増えてしまったら困ると思って、「その机を叩くのをやめて」と言おうとしていた。彼はすぐに止まって、こちらに微笑んだ。
「楽しんでる? 大人になったとき、きっとこんな日々のことをよく覚えてると思うよ」
今の状況に合った答えだけを返そうと、なるべくシンプルにしようと決めた。
「悪くない」
「先週から今日まで、一緒にやってきたこと、楽しくなかった?」
「……悪くはなかった」
「本当に楽しんでたんだね、よかった。僕だけじゃなかったんだ」
「眼鏡なしの君って、やっぱり綺麗だね。なんでこのクラスメートに隠してたの?」
その言葉を聞いて、私は急いでテーブルの上の眼鏡に手を伸ばした。でも不注意で手が当たってしまって、眼鏡が床に落ちた。片側が割れていた。拾おうとしたとき、別の手が先に近づいてきて眼鏡を取ろうとした。そのとき小さなノートが手前から落ちて開いて、最初のページの冒頭の一文が目に入って、少し驚いた。
「どこにでもいそうな普通の高校生の私のノートだけど、大人になってからはもう会えないかもしれない。色々な事情があって、たぶん私の時間は二度目の秋に終わると思う。少なくとも私はそう数えている。このノートには私の毎日の活動の記録が書いてある。長い人生を持つ人が、よくつまらないと思うような小さなことばかりだけれど……」
私の手が反応して、そのノートを取り上げてもっと近くで読もうとした。昔からひどい近眼のせいで、何度もそこに書いてある文字を読み返した。
- 「二度目の秋?」*
「……えっと」
私は顔を上げて、目の前の声に反応した。感情を隠した。彼がこれ以上話しかけてきて、偶然手に取ってしまったあのノートのことに繋がるような理由はないと思いたかった。私みたいな人間が、あんなに明るいクラスメートの死という事実を否定できるはずもない。彼が持っている時間が、時間によって削られているという事実を。
「……四つ目のクラスメートくん、字、綺麗でしょ?」
私はすぐにノートを閉じた。表情を変えないまま、彼に渡した。
二度目の秋——とても美しい言葉に聞こえるのに、あのページで読んだとき、なぜこんなにも胸が重くなるのだろう。彼が数えている時間がまるでひとつの美しさのようで、だからこそ、私は何にも関わらないでいたいと思った。
「そういえば、眼鏡が割れちゃったね。新しいの、一緒に買いに行こうか」
「……いいえ、大丈夫」
私は彼の手から眼鏡を受け取って、もう一度かけた。割れた部分のせいで、視界が少し歪んだ。立ち上がって、余計なことは考えず、ラベル貼りの作業を再開した。
「あのさ、学校の他の子には内緒にしといてくれる?」
私は図書館の棚に本を並べていた。彼の声は聞こえていたけれど、振り向こうとは思わなかった。
「……うん、もちろん内緒にするよ」
「それを知った今、どう思う?」
「何を知ったの?」
少し間があった。わざとらしいくらいに。
「なんでもない。なんか飲みたくなってきた、喉が少し乾いてて。何か買ってこようか?」
「チョコレートミルク、冷たいやつ」
「了解、グループリーダー・四つ目くん。ちょっと行ってくるから、僕の分もやっといてね、くくく」
足音が遠ざかっていくのを聞きながら、私は手を止めた。しばらく彼の背中がドアのほうへ歩いていくのを見つめた。この図書館の静けさの中で、自分の心臓の音がいつもより鮮明に聞こえた。
頭の中に言葉が浮かんでは積み重なって、ひとつの問いになっていった。「季節でしか数えられない残りの時間を、彼はどうやって過ごしているのだろう」。そのことを考えながら作業を続けた。そして今日がここでの最終日になりそうだということも、頭の片隅にあった。
それでも私は、できる限り何も知らないふりをしようと決めた。彼にとっても私にとっても、それがこれからの時間にとって一番いい選択だと思ったから。
天気が回復して、作業がようやく終わった。図書館のドアを閉めて、周りの木々の間にある木のベンチに座った。汗だくの体を少し冷やすために。
この活動全体を振り返ると、なかなか面白かったと思う。この活動からいくつかのことを学んだ。清潔さについてのいくつかの側面を。この図書館も最初は誰も来ないだろうと思っていたけれど、数週間かけて綺麗にした今、ここへの関心が少し高まったかもしれない。
彼がいくつかのビニール袋を持って戻ってきた。頼んでいた飲み物を手に持っていた。受け取って、チョコレートミルクをすすった。甘さと冷たさが舌の上で溶け合った。おいしくて、さっぱりした!
「今日はどうだった?」
「今日が最後の作業日で、たぶんもうここには来ないね」
「そういうことじゃなくて、今日の気持ちはどう?楽しかった?」
「悪くなかった」
「そう聞けてよかった。この古い図書館が何か教えてくれたんじゃないかな」
そう言いながら彼は私のすぐ隣の椅子に腰を下ろした。ときどき小さく笑いながら、続けて小さく咳をした。
「気になった? 読んだんでしょ、『病友小活動日記』びょうゆうしょうかつどうにっき。僕の日常の活動はどうだった?退屈だった?それとも真似したくなった?」
なんか的外れな感じがした。この人は、まるで学校の課題でも話すように話している。だから私はむしろ、これは何か物議を醸すようなことで、たまたまその状況にいただけの普通のクラスメートに過ぎない自分は、本来関係のないことなのだと思った。ただの偶然として。
「何の話をしてるの?」
「何の話? それは僕の『病友小活動日記』だよ。持ったことない? もうすぐ死ぬってわかってから書いてる、小さな活動ノートみたいなもの」
「もしかして聞いたことがないのか——死ぬ人はよく自分の活動を書き残すんだよ。それとも知らないふりをしてる?」
「……まだ正気?」
彼は大笑いして、今座っている椅子が少し揺れた。
「正気じゃないと思う? 自分の死を記録してるだけだよ。それで?それの何がいけないの。それに、こんなこと誰にも言わないよ」
「……へえ、それだけ? で、どうすればいいの?」
「えっ、それだけ? 何もしないの。花を持ってきてくれるとか、さよならを言ってくれるとか?」
声が少し震えているように聞こえた、驚いたからかもしれない。私はわざと横を向かないようにした。
「……別に。でも、そのことを知ったからって、何をすればいいの? それにさよならって——まだ生きてるじゃない」
「……それも否定できないな。もし僕が君の立場だったら、頭がおかしい人だと思って逃げてたかも」
「………」
彼はまたくすくすと笑った。何がそんなに面白いのか、私にはわからなかった。
隣の木から鳥の声だけが聞こえる、とても静かな間があった。
「ねえ、あの子なんだけど。彼女が気持ちを告白してきてさ、一番おかしかったのは、断った理由が情けなくて」
「その理由、わかる? 恋愛の仕方がわからないから——最悪な理由でしょ。それに泣いてる彼女を見るのは、見られないよりはましだと思う。でも——僕、間違ってたと思う?」
私は彼の言葉を聞いて少しむせた。死の話からいつの間にか告白の話に変わっていた。このことについて何かを感じさせたくなかった。無視しようとしながら、時々スマホの通知を確認するふりをした。
「答えなくていいよ。これは僕の告白みたいなものだから」
彼の告白はともかく、私はしばらく考えるのをやめて、ただ自分が正しいと思うことを答えた。
「……やり方は良かったと思う。でも伝え方がひどかった」
そう言いながら、気づいたら自然と彼のほうを向いていた。その言葉を聞いた瞬間、彼の目がほんの一瞬だけ遠くなった。それを見て、私は少し距離を取った。
「そう言ってもらえて嬉しいよ。それに罪を告白するのも悪くないよね。もうすぐ死ぬんだから」
「近くにいる人たちには知らせてない。悲しんでほしくないから。それに残りの時間は、昔よくやってたことをまたやりたいんだ。だから内緒にしておいてね、クラスメートくん」
「わかった」
「君を誘おうと思ってたんだ。君は僕の死のことをあまり深く考えなさそうだから」
「本当に死ぬの?」
「うん、死ぬよ。それだけ」
死を冗談のように語るその言葉に、少し戸惑った。「死ぬよ」とあっさり言う。聞いていて少し戸惑った。こんな言葉、普段の日常の中で聞いたことがなかった。
そしてあの日以来、いくつかの出来事が毎日のように続いた。廊下で笑顔で挨拶してきたり、図書館で私が仕事をしているときも声をかけてきたり、ある特定の出来事によって学校の体育倉庫でも一緒になったり、教室でも脈絡のないおしゃべりをしてきたり。私は学校では彼の存在を無視することにしていた。私の一線を越えすぎていると思ったから。
それに私にとって、自分の短い命について正直に話してくれた人は初めてだった。それでも彼が死を前にして残りの時間をどう使うかといえば、私からすると全く意味のないことばかりだと思っていた。
あの日から私たちはお互いに連絡先を交換した。その日も彼がまだ生きているか確認しながら。
彼の死に向かって、ふたりでこなしていく小さなことたちを満たすために。




