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第7話 魔術と魔術のぶつかり合い

 合同授業が終わった後、フレデリカは何となく学園内をうろついていた。

 色々と気持ちが落ち込んでいたので、それをリフレッシュするための散歩である。


「しかしこの学園は広いな。いっそこの学園を乗っ取り、俺の城とするのも悪くはないわな」

「悪いよ。そんなことしようとしているなら、いよいよ本当にハズレ幽霊を消す手段を探しに行くんだから」

「ハッ。お前に出来るとは思わんがな。……おい、そこの広場に行け」

「え? 何で」

「理由を聞くな。さっさと行け」

「普通なら無視するところだよ、その言い方は」


 フレデリカはしぶしぶ広場に立ち寄った。

 するとライクは近くにあった石ころまで漂っていく。


「小娘、これをぶっ壊してみろ」

「壊す? 私、流石にそこまでの力はないんだけど」

「決まってるだろうが、物体操作の魔術だ」

「嫌に決まってるんだけど。魔術を使うくらいなら剣を振っていたいよ」

「これでしょぼかったら、俺は二度と魔術の道に行けとは言わん」

「……それで黙らすことが出来るなら、やる」

「ただし手は抜くなよ。俺はそういうのはちゃんと分かる。もしも手を抜いたら永遠に言い続けるぞ」


 フレデリカの心の内を見透かしたような発言。

 適当にやるつもりだったが、真面目にやらざるを得なくなった。フレデリカは自分が何故こんなことをしているのか、理解に苦しんだ。


「……ちなみに物体操作の魔術でどうやって壊すの?」


 根が真面目なフレデリカはライクに質問した。やるのならしっかりやりたい性格が出ていた。


「周りの空気を凝縮し、破裂させてみろ。ちゃんとやれば、ちゃんと壊れる。……と言っても、お前には分からないだろうから、最初は手本を見せてやろう」


 そう言うなり、ライクは違う小石へ手のひらを向けた。小石の周りに魔力が生まれた。そのままそれは急速に集まり、やがて――小石が破裂した。


「すごい……」

「その通りだ。俺はすごい。この程度の魔術なら、寝ながらでも出来るだろうな。さぁ、やってみろ」

「もー分かったよ。ハズレ幽霊に付き合ってあげる」


 フレデリカも小石へ手を向けた。物体操作の魔術は簡単な呪文で構成されているので、少し練習すれば誰でも使えるようになる魔術だ。

 フレデリカは念じ、小石へ魔力が集まるよう操作する。魔力はどんどん膨れ上がり、爆ぜる瞬間を今か今かと待っている。


(今かな?)

「今だ小娘」


 フレデリカの思考と、ライクの声かけは同時だった。

 フレデリカが手で握りつぶすような仕草をした瞬間、見事に小石が爆ぜた。


「これを私が……?」

「ほう、一度で成功するとはやるじゃないか」

「でも、これで分かったんじゃないの? 大したことないって」

「本気で言っているなら、大したものだな。物体操作の魔術はシンプルで簡単、しかしそれ故に術者の腕前がダイレクトに出る魔術だ」


 ライクは鼻を鳴らす。


「その上で言おう。俺の求めるレベルを超えていた。やはりお前には魔術の才能があるよ」

「何それ……私、剣でそんなに褒められたことなんて、ない」

「そもそも剣の才能より魔術の才能が秀でているのに、何故褒められると思っているんだ。いい加減現実を見ろ」

「私は! それでも魔術よりも剣を使う方が良いの! 変なことを言わないで!」


 フレデリカの中に一つの気持ちが渦巻いていた。

 褒められて、気分が良かった。それが剣じゃなくて、魔術だったとしても、褒められて気分が良かったのだ。

 魔術の道を歩いたら、きっともっと褒められるのかもしれない。そう思えば、フレデリカの心が少しだけ揺らいでしまった。


 『あぁ、そっちも良いな』と何となく思えてしまうのだ。


「私に魔術の才能があるとかどうでも良いよ。それよりも私は最強の剣士が良いの。余計なことを言わないで!」

「ったく……強情な小娘だ」


 フレデリカとライクの会話が徐々にヒートアップしていこうとする。

 そんな時に、彼女が現れた。


「あれ? フレデリカちゃんじゃん。なんか声がしたと思ったら……。どうしたの?」

「ろ、ロクリスさん……!?」

「おおう。びっくりされちゃった。急に大きな声がしたから、むしろわたしの方がびびってたんだけど」


 生徒会長ロクリスは相変わらず人懐っこい笑みを浮かべていた。

 フレデリカの顔をじっと見つめるロクリス。その後、ロクリスはフレデリカの腕を掴んだ。


「とりあえずゆっくり話せるところに行かないかい?」

「え、ええ! ちょっとロクリスさん!?」


 学園にはいくつか広場がある。ロクリスが連れてきたのは、その中でも人が滅多に通らない場所だった。


「ささ、何があったのかこのロクリスさんに話してごらん?」

「大したことは、何も……」

「嘘だねー。そういう返事をする人は、だいたい何か悩んでいるんだよ」


 全てを見透かしたかのようなロクリス。そんな彼女を相手に、フレデリカはいつまでも誤魔化せるわけがなかった。


「――なるほどねぇ」


 話してしまった。

 自分が剣士相手よりも魔術士相手の方が勝てること。魔術を試しに使ってみたら、想像以上に上手く使えてしまったこと。それによって生じた悩みも。ライク以外のことは、大体ロクリスに打ち明けたのだった。


「うーん。贅沢な悩みだねぇ」

「そうですよね……」

「これは少し自分と向き合う時間が必要じゃないかい?」


 そう言って、ロクリスは立ち上がった。


「簡易創造の魔術」


 ロクリスの両手にはそれぞれ一本の剣が生み出された。そのうちの一本をフレデリカへ渡す。


「はい、これ」

「ありがとうございます。っていうか、何故剣なんですか?」

「大丈夫大丈夫。これは刃のない剣だから。おまけに刃先も丸いから目に刺さることもないよ」


 安全性を見せるかのようにロクリスは刀身をベタベタと触り始める。確かにあそこまで触って怪我をする方が難しいだろう。

 いや、そういうことではない。フレデリカは別に、剣の安全性が気になったのではない。


「悩んだら身体を動かすのが一番だよ」

「た、戦うってことですか?」

「そうそう。あ、もしかしてそういうのめんどくさいタイプ?」

「いえいえ、私は常に戦いたいのでそれは願ってもない話でした」

「思った以上に戦いを求めていた系の人間ね」


 フレデリカが剣を構えると、ライクは少し後ろを漂う。


「この小娘の腕前には興味がある。秒殺だけはされるなよ」

「ムカッ。完璧に実力を引き出してみせるから、のんびり見ていて」


 ロクリスが剣を構える。やや上段気味、剣は地面と平行にして構えている。あまり見ない構えだった。


(最初は牽制気味に剣を振って――はい? 私が消極的?)


 冷静にいくべきか。フレデリカは一瞬でもそんなことを思った自分を恥じた。


(ロクリスさんを相手にそんな悠長なことが許されるの? しかもあのロクリスさんと戦えるまたとない機会だよ? あり得ないね)


 フレデリカは大きく息を吐いた後、一直線にロクリスへ駆け出した。


「ロクリスさん、お願いします!」

「お願いされた!」


 剣と剣がぶつかる。フレデリカは反撃の隙を与えないよう、何度も剣を振り続ける。対するロクリス、最小限の足捌きと僅かな剣の傾きだけで、雨のような攻撃をやり過ごしていく。

 ルミネとはまた違った堅さがあった。ルミネはまだ頑張れば希望が見えるが、ロクリスは全くの別格。要塞を相手にしているような気分だった。


「わたしはね、フレデリカちゃん」


 フレデリカの剣を的確に打ち払いながら、ロクリスは語る。


「わたしは魔術も剣も、どっちも自信があるんだ。だからこういうこともやるの」

「え?」


 ロクリスは空いた手をフレデリカへ向ける。

 その瞬間、フレデリカは後方に吹き飛ばされた。尻もちをついた程度の痛み。しかし、ロクリスとの距離は一気に離されてしまった。


「物体操作の魔術……」


 フレデリカはこの現象の正体を言い当てることが出来た。さっきまで使っていたので、何となく感覚が分かったのだ。


「そう。出来ることがあるのなら、こういう戦い方も出来るんだよ」

「でも、それは……剣士の戦い方じゃない」

「ううん。これはちゃんとした剣士の戦い方の一つだよ。そうだなぁ……例えば伝説の剣士マルシア、豪剣士ガルドハイン、不可視の剣士ミスティス――」


 ロクリスの口から出てくる名前はフレデリカも良く知っていた。彼女が目標としている剣士たちである。尊敬しているが故に、ふいに彼らの名前が出ると、つい背筋が伸びてしまう。

 しかし、この状況と彼らの共通点が分からないフレデリカであった。


「彼らも剣と魔術を両立していた、と言えば考え方が変わるかな?」

「! そんな……嘘です! みんな、純粋な技術だけで伝説になったんじゃ……!」

「その説はもう古いよ。最新の説では、みんな魔術を取り入れた独自の剣術を編み出していたようだし」

「でも! それじゃあ剣士だなんて……!」

「少し荒くいくね」


 ロクリスが再度空いた手を向けると、フレデリカはまた弾き飛ばされてしまった。立ち上がろうとすると、再度吹き飛ばされる。何度も何度も同じことをやられた。


「おい小娘、何をやっている。物体操作の魔術で相殺しろ」


 思わずライクは口を出してしまった。これは哀れみではない。切り抜ける手段があるというのに、それを使わないことへの怒りだ。


(う、うるさい……! 私はそんなもの使わなくても切り抜けて見せる……!)

「出来るわけがないだろう。現実を見ろ。あいつは恐らくずっと物体操作の魔術でお前を転がし続けるぞ」


 ライクの言葉通りだった。

 そこからロクリスは物体操作の魔術を使って、フレデリカを突き飛ばしたり、転がし続けていた。

 何とかして立ち上がろうとするも、フレデリカの努力はこの状況を打破できる鍵とはならなかった。


「フレデリカちゃん、わたしはずっとこうしているよ。何にも出来ないなら、そう言ってくれればいいからね」


 そう言って、また転がされる始末。

 段々と考える力が奪われていったフレデリカは少しヤケになっていた。


(みんな、みんな……! 何なの! 魔術魔術魔術って……! そんなに魔術を使わせたいなら……!)


 ロクリスの物体操作の魔術が再び襲い掛かる。

 それに対し、フレデリカは両手を突き出した。


「使わせたいのならぁ!」


 同じ魔術がぶつかり合った場合、どうなるのか。それは実にシンプルな結果となる。

 より強い魔術が、弱い魔術をかき消すのだ。


「フレデリカちゃん、これはこれは……」


 そしてこの場合、負けた方が地面を転がっていることになる。それは一体誰だったのか。


「はぁ……! はぁ……!」



 ロクリスが地面に膝をつけていた。

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