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第6話 いざ実戦

 魔術士同士の戦いが終わり、次は剣士同士の模擬戦闘となった。

 フレデリカとルミネが自然と組んでいた。戦う機会があれば戦う。二人の思考は一致していた。


「ルミネ、今回は勝つよ」

「ごめんフレデリカ。今回もボクが勝つ」


 二人はほぼ同時に駆け出していた。打っては防ぎ、避けては打ち返す。

 互いの癖を知っている者同士の戦い。時には長引き、また時にはあっさりと決着がつくものだ。


(ここ、だ!)


 フレデリカの猛攻に一瞬だけ後ずさるルミネ。ここが勝機と判断したフレデリカは更に一歩前に踏み出した。

 その瞬間、ルミネの目が光ったような気がした。


「かかった」


 そう言ったのと同時、ルミネの姿勢が低くなる。

 カウンター。ルミネは初めからフレデリカに攻めさせ、不用意に踏み込んできたら、一撃を食らわせる腹積もりだった。


 それに気づいたフレデリカは止まろうとする。しかし、もう足を動かしてしまった。着地するまで一秒前後。

 だが、その一秒前後は、ルミネが剣を振り上げるのには十分すぎる時間だった。


 ルミネの木剣がフレデリカの顎を捉える。


「うぅ……また、負けた」

「ブイ」

「もールミネ、相変わらず戦いが上手だね。あれは狙ってたの?」

「今日のフレデリカはいつも以上に攻めっ気が強かった。だから引っかかるかな、って」

「うひゃ~……そりゃ完敗だ」


 ルミネの強みは観察力と合理性だった。フレデリカ自身が気づかないメンタル状況を即座に把握し、それを織り込んだ戦い方をする。

 フレデリカは改めてその壁の高さを痛感した。


(ん? 終わったのか。どうせやられると思っていたら、案の定だったな)

(うるさい。暇ならさっさと浄化されるか、帰ってよ)

(それが出来ているなら、最初からそうしている。何度言ったら分かるのだ、この猪小娘が)

(い、猪!? 段々悪口がグレードアップしてきたなこのヤロー!)


 猪などと言われたことがなかったフレデリカ。ライクのデリカシーのなさにボルテージが上がっていく。

 そんなフレデリカの抗議を聞き流していたライクは一言だけ感想を述べた。


(お前、たぶん一生あの青い小娘に勝てんぞ)


 今のフレデリカにとって、それは一番言われたくな言葉だった。フレデリカは反射的に返した。


(一生じゃない。努力を続ければいつか追いつくんだ)

(はぁ……この言っても言っても理解しようとしないのが、本当に馬鹿な小娘という感じがするな。いや、理解したくないと言った方が正しいのかな?)

(……うるさい)


 それ以上、反論の言葉を持ち合わせていなかったフレデリカは歯を食いしばった。


「それでは次は剣士科と魔術士科の混合戦闘になります。それぞれ組を作ってください」


 いよいよメインイベントが訪れた。

 フレデリカは誰が相手でも良かったので、その辺にいた魔術士科の男子生徒に声を掛けた。


「あの、良かったら組まない?」

「喜んで! 負けないよ」


 組が出来上がったのを確認した教師は模擬戦闘の開始を宣言する。


「それでは皆さん、怪我に気を付けて戦ってください!」


 模擬戦闘が始まった。

 男子生徒が呪文を唱え始めたので、ひとまず観察することにする。


(魔術士との戦いは魔術に対し、どれだけ適切に対応できるかが大事)


 男子生徒の手から火球が放たれた。これは初歩的な火球の魔術だ。

 一発目を難なく避けたフレデリカは距離を縮めようとする。

 しかし、男子生徒は次の魔術の準備が整っていた。


土壁(どへき)の魔術!」


 僅かに鈍い音がした後、フレデリカの左右と背後に土の壁がせり上がった。高さと幅が十分にある土の壁。フレデリカに残された進行方向は前進あるのみだ。


(逃げられない……!)


 男子生徒が次の魔術を使うため、呪文を唱えていた。このままでは不可避の攻撃をもらってしまう。

 絶体絶命の状況。だが、フレデリカの口元には笑みがあった。


(決めるか、覚悟)


 同時に、男子生徒が次の魔術を発動した。


雷矢(らいや)の魔術!」


 男子生徒の背後か魔法陣が出現。そこから矢の形をした雷がいくつも射出された。

 左右後方は壁によって逃げられない。普通なら、ここで魔術を避けきれず、ゲームセットとなる。


(終わりだな、小娘)

(そう思う? ならハズレ幽霊はまだまだだね)


 ――そう、普通なら。

 覚悟を決めたフレデリカはむしろ雷矢へ駆け出した。


「一つ!」

「な、なんだって!?」


 木剣で雷矢を叩き落とす。二本目、三本目、四本……とフレデリカは正確に木剣を振るう。

 この時、フレデリカはこう思っていた。


(やっぱり……何となく分かる(・・・)


 実は魔術に対し、こういった防御方法を選択したのはこれが初めてではない。むしろ魔術士相手の戦いでは、魔術を避けるというよりは立ち向かうといった行動を多く取っている。

 フレデリカは何故、こうも正確に雷の矢へ木剣を振るえているのか。


(前から上手く説明できないこの感覚。流れというか、こういう風に私へ向かってくるんだろうなってのが分かるんだよな。勘が冴えるという表現が正しいのかな……)


 ぬるい風に当てられたような感覚。ざらっとしたモノが肌に纏わりつく感じ。その流れへ木剣を振ったり、避けたりすると、必ずそこには相手の魔術があった。

 自分に害を与える雷矢だけを打ち落とし、フレデリカはいよいよ相手との距離を詰める。


(小娘、やはりお前は……)


 今の攻防を見ていたライクは、フレデリカが何故そのような防御が出来るのか、完全に見抜いていた。


(くくく。これを教えてやったら、奴はまた発狂するだろうな)


 その理由を知った時、フレデリカが猛反発してくるであろうことは容易に想像がついた。

 ライクが心の中で笑っている内に、勝負は終盤を迎えていた。


「まだだ! 土壁の魔術!」

「それは、もう!」


 男子生徒はフレデリカを近づかせないよう、土壁での阻害を試みる。

 対するフレデリカ、何となく土壁が出てきそうなポイントを予測。左右に跳びながら、最短最速でどんどん男子生徒へ近づいていく。


「これで私の勝ち、ですね」

「く……! 僕の負けだ」


 木剣を男子生徒の胸元へ突きつけ、フレデリカは勝利を宣言した。

 戦いを終えたフレデリカは男子生徒へ戦ってくれた礼を告げた後、集団から少し離れた場所で座り込む。


(何で……! どうしていつもこうなの?)


 フレデリカは自信の戦績を振り返る。


 魔術士相手の勝率は良い。

 剣士相手の勝率は悪い。


 これがフレデリカの勝敗の傾向だった。

 自分なりに分析した結果、剣士相手――正確にはルミネが相手の場合――は技術不足やここぞといったところで敗北し、魔術士相手は先ほどのように勘が冴えてほぼ完封に近い勝利を得られる。

 この事実が、フレデリカを更に苦しめていた。


(ルミネには勝てなくて、魔術士相手には勝てる。何で? 何で私は思うように勝てないの?)


 フレデリカは悩みに悩んでいた。剣士と魔術士とでは戦いやすさが段違いなのが、更に彼女を苦しめていた。


「小娘、お前は何に悩んでいる?」

「ハズレ幽霊には関係ないでしょ」


 集団から離れていたので、フレデリカは普通にライクと会話をすることにした。

 ライクの質問には答えないフレデリカ。当然、この流れは予想済みだったので、ライクは効き方を変えることにした。


「もしやお前、いま何故勝てたのか、理由を知らないのか?」

「! 知っているの!?」


 フレデリカはライクへ顔を向けた。


「お前、相手が魔術を使った時、予兆のようなものを感じなかったか? 『なんとなくここに来るだろう』『ここは危ないだろう』、といった感覚だ」

「……感じた」


 ドキリとした。

 それは今まさに自分が抱えていた悩みなのだから。

 フレデリカは無意識に姿勢を正していた。


「それは魔力の流れという奴だ。相手が魔術を行使した際、多少の差はあれど滲み出てくる波と捉えて良い」

「魔力の、流れ……」

「そうだ。ずっと言っているが、お前には元々魔術の才能がある。それすなわち、魔力を深く、そして正確に認識出来ていることと同義だ。だからお前は無意識に魔力の流れを掴み、回避行動に役立てていたということだ」


 魔力の流れを掴む力が強かったおかげで、魔術士相手に優位に立てていた。

 フレデリカがずっと悩んでいた勝利の理由は、実にシンプルな内容だった。


「嘘……。私は魔術の才能で、魔術士相手に勝てていたの……?」

「そういうことだな。お前は、お前の嫌いな魔術の才能があったから、魔術師相手に勝てるんだ」


 その事実は受け入れたくなかった。

 努力でも何でもなく、単に才能があったからそれを振り回して勝利していた。そんな乱暴な話があるだろうか。

 フレデリカは思わず聞いていた。


「ほ、他のみんなはどうなの? みんなだってきっと同じくらいに読めるんじゃない?」

「……それは今の光景をちゃんと見ている上での発言か?」


 ライクの言葉のギロチンは、フレデリカの首を一撃で()ねた。


「……」


 剣士科の生徒達はみんな苦戦していた。

 未知なる攻撃に対応が分からず防戦を強いられる者、一方的にやられている者、もちろん善戦している者もいるが……。


 ルミネでさえ戦いにくそうにしていた。

 最終的には勝利しているが、もしも自分が戦っていたら、もう少し早く倒せる自信があった。


「何度でも言おう。お前は魔術の道を進め。特別に俺が手ほどきしてやったって良い。いつまで剣に拘るつもりだ」


 ライクは熱くなっていることを自覚していた。


「その才能はお前を明日に繋げることが出来る。だからそっちを選べ」


 ライクは才能を重要視していた。才能があったからこそ、ライクは生きることが出来たのだから。

 だからこそ、その才能を腐らせるような真似をしているフレデリカに苛立ちを覚えていた。


「それでも私は……最強の剣士になりたいの。かっこよくて、強い剣士。私はそれが夢なの。だからハズレ幽霊の話は聞けない」

「……ちっ。勝手にしろ。だが、俺の言ったことは事実だ。お前はお前自身で苦しんでいるだけだ。いい加減解放される路線でも考えるんだな」


 苛立ちを隠しきれないライクは、最後にそう言い捨て、口を閉ざした。

 フレデリカはその言葉に対し、口を返すことはしなかった。

 今の彼女に、返せるような言葉はなかったのだから。

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