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第23話 突きつけられた事実

 フレデリカはその後のことをよく覚えていなかった。

 目が覚めたのは保健室のベッドの上。先生たちから何があったかを聞かれ、ライク以外のことをあるがまま答えた。

 そこからは非常に慌ただしいものだった。

 一時的な学園閉鎖。生徒達は家に戻され、寮生活の者は寮から出ることを許されない。


 そんな光景を目の当たりにしても、フレデリカの気持ちはどこか冷めていた。

 彼女は寮を抜け出し、閉鎖中の学園へと入った。


「……」


 目を閉じてみる。いくら精神を研ぎ澄ませても、彼の声は聞こえない。

 そんな彼女を追う者が一人いた。


「フレデリカ」


 ルミネだった。フレデリカが学園に忍び込むのを目撃したので、後を追いかけたのだ。


「……何?」


 フレデリカは自分の声がここまで低くなるのかと驚いた。だが、今はそんなことに構っている心の余裕はない。


「何かあったはず。ボクが話を聞く」

「……何でもないよ」

「何でもない、ということはあり得ない。それを言うなら、ライクのことを聞かざるを得ない」


 ライク。

 彼の名前に、フレデリカは顔をしかめ、ルミネから一歩後退した。


「……何でもないったら。それと、ライクの名前は二度と出さないでほしい」

「疑問が沢山浮かぶ。いつもフレデリカと一緒だったライクが今はいない。フレデリカが襲われた時、何かがあったはず」


 ルミネの言葉に、フレデリカは思わず怒りが込み上がってしまった。


「フレデリカ。ボクは――」

「ルミネには関係ないでしょ!!!」

「っ……!」


 廊下いっぱいに響く声。フレデリカは腹の底から叫んでしまった。


「ルミネには関係ない! これは私とライクの問題なんだ! ルミネの出る幕はない!!」

「……ボクはフレデリカの親友。親友が困っているなら、ボクは勝手に出る幕を作る」

「出る幕? ルミネには絶対分からないよ! 魔術も使えないのに! ――あ」


 言った。

 とうとう、フレデリカは言ってしまった。

 ルミネに対して、言ってはならないことを。


「……確かに、そう。ボクは魔術が使えない。ただの剣士」

「ルミネ、その……ごめ……」

「フレデリカにとって、ボクは今回の件には必要のない存在。それなら、仕方ない」


 ルミネは顔を伏せたまま、背を向け、そのまま歩き去ってしまった。

 去ろうとする彼女の背中に、フレデリカは声をかけられなかった。

 否。あそこまで言っておいて、どの面下げて引き留められるのだろうか。


「……最低だ、私」


 フレデリカは己の浅はかさにますます嫌悪感がわいた。


「ルミネは私のことを心配してくれたのに……。何で私、あんなことを……」


 今さら後悔しても遅かった。時は巻き戻せない。

 すぐに謝りに行こうとしたが、足が動かない。

 今すぐにでも駆け出したいのに。


「私、本当に馬鹿な奴だ」


 罪悪感が足枷となり、フレデリカに前進を許さない。

 しばらくその場に立ち尽くした後、フレデリカはどこへともなく歩き出す。


「……あれ、ここどこだろ」


 無心で歩き続けた結果、道に迷ってしまった。

 なにせ広い学園だ。こういうこともある。


「何やってんだろ、私」


 胸の中がただただモヤモヤする。自分は一体何をやっているのだろうか。

 もしもライクがいれば、叱り飛ばしてくれたはずだ。

 だが、そんな彼はもういない。


「何で……私なんかを」


 もう返ってこない答え。この問いを一体どれほど永く抱えることになるのだろうか。

 今のフレデリカには分からなかった。


「フレデリカさん」


 後ろから声がした。

 振り返ると、そこにはマリアンがいた。


「マリアン? どうして、ここに?」

「フレデリカさんを探していたんです。もしかしたら、学園にいるんじゃないかなって思って」

「そっか……きっと心配させちゃったんだね」


 フレデリカは一言一言に神経を集中させる。もうルミネのような失敗はしない。


「ありがとうマリアン。でもごめんね。私、少し一人になりたくて……」

「そう、ですか。分かりました。でも、少しだけ時間をください。こうやって話せるのも、最後かもしれないので」

「そ、それって……どういうこと?」


 最後。その単語にフレデリカは酷く心を揺さぶられる。

 マリアンは一体どういう理由で最後と言っているのだろうか。ぐるぐると頭のなかで思考が渦巻く。頭の中で止めろと命令しているのに、全く止まらない。

 自然と呼吸が浅くなっていく。薄くなる酸素で頭が痛くなってくる。


「ごめんなさい。フレデリカさんが襲われたのは、うちのせいなんです」

「マリアンのせいって……どういうこと?」

「全部、うちのせいなんです……。ごめんなさい。本当に……ごめんなさい」


 マリアンの足元に水滴が落ちる。


「意味が分からない。意味が分からないよ……。どうしてマリアンが謝るの?」


 心臓の音が跳ね上がる。まったく意味が分からないはずなのに。

 しかし、心のどこかで、マリアンが何を言いたいのかを理解していた。


「最近魔術を使えない人たちを襲う集団……。あれは、あフレデリカはその後のことをよく覚えていなかった。

 目が覚めたのは保健室のベッドの上。先生たちから何があったかを聞かれ、ライク以外のことをあるがまま答えた。

 そこからは非常に慌ただしいものだった。

 一時的な学園閉鎖。生徒達は家に戻され、寮生活の者は寮から出ることを許されない。


 そんな光景を目の当たりにしても、フレデリカの気持ちはどこか冷めていた。

 彼女は寮を抜け出し、閉鎖中の学園へと入った。


「……」


 目を閉じてみる。いくら精神を研ぎ澄ませても、彼の声は聞こえない。

 そんな彼女を追う者が一人いた。


「フレデリカ」


 ルミネだった。フレデリカが学園に忍び込むのを目撃したので、後を追いかけたのだ。


「……何?」


 フレデリカは自分の声がここまで低くなるのかと驚いた。だが、今はそんなことに構っている心の余裕はない。


「何かあったはず。ボクが話を聞く」

「……何でもないよ」

「何でもない、ということはあり得ない。それを言うなら、ライクのことを聞かざるを得ない」


 ライク。

 彼の名前に、フレデリカは顔をしかめ、ルミネから一歩後退した。


「……何でもないったら。それと、ライクの名前は二度と出さないでほしい」

「疑問が沢山浮かぶ。いつもフレデリカと一緒だったライクが今はいない。フレデリカが襲われた時、何かがあったはず」


 ルミネの言葉に、フレデリカは思わず怒りが込み上がってしまった。


「フレデリカ。ボクは――」

「ルミネには関係ないでしょ!!!」

「っ……!」


 廊下いっぱいに響く声。フレデリカは腹の底から叫んでしまった。


「ルミネには関係ない! これは私とライクの問題なんだ! ルミネの出る幕はない!!」

「……ボクはフレデリカの親友。親友が困っているなら、ボクは勝手に出る幕を作る」

「出る幕? ルミネには絶対分からないよ! 魔術も使えないのに! ――あ」


 言った。

 とうとう、フレデリカは言ってしまった。

 ルミネに対して、言ってはならないことを。


「……確かに、そう。ボクは魔術が使えない。ただの剣士」

「ルミネ、その……ごめ……」

「フレデリカにとって、ボクは今回の件には必要のない存在。それなら、仕方ない」


 ルミネは顔を伏せたまま、背を向け、そのまま歩き去ってしまった。

 去ろうとする彼女の背中に、フレデリカは声をかけられなかった。

 否。あそこまで言っておいて、どの面下げて引き留められるのだろうか。


「……最低だ、私」


 フレデリカは己の浅はかさにますます嫌悪感がわいた。


「ルミネは私のことを心配してくれたのに……。何で私、あんなことを……」


 今さら後悔しても遅かった。時は巻き戻せない。

 すぐに謝りに行こうとしたが、足が動かない。

 今すぐにでも駆け出したいのに。


「私、本当に馬鹿な奴だ」


 罪悪感が足枷となり、フレデリカに前進を許さない。

 しばらくその場に立ち尽くした後、フレデリカはどこへともなく歩き出す。


「……あれ、ここどこだろ」


 無心で歩き続けた結果、道に迷ってしまった。

 なにせ広い学園だ。こういうこともある。


「何やってんだろ、私」


 胸の中がただただモヤモヤする。自分は一体何をやっているのだろうか。

 もしもライクがいれば、叱り飛ばしてくれたはずだ。

 だが、そんな彼はもういない。


「何で……私なんかを」


 もう返ってこない答え。この問いを一体どれほど永く抱えることになるのだろうか。

 今のフレデリカには分からなかった。


「フレデリカさん」


 後ろから声がした。

 振り返ると、そこにはマリアンがいた。


「マリアン? どうして、ここに?」

「フレデリカさんを探していたんです。もしかしたら、学園にいるんじゃないかなって思って」

「そっか……きっと心配させちゃったんだね」


 フレデリカは一言一言に神経を集中させる。もうルミネのような失敗はしない。


「ありがとうマリアン。でもごめんね。私、少し一人になりたくて……」

「そう、ですか。分かりました。でも、少しだけ時間をください。こうやって話せるのも、最後かもしれないので」

「そ、それって……どういうこと?」


 最後。その単語にフレデリカは酷く心を揺さぶられる。

 マリアンは一体どういう理由で最後と言っているのだろうか。ぐるぐると頭のなかで思考が渦巻く。頭の中で止めろと命令しているのに、全く止まらない。

 自然と呼吸が浅くなっていく。薄くなる酸素で頭が痛くなってくる。


「ごめんなさい。フレデリカさんが襲われたのは、うちのせいなんです」

「マリアンのせいって……どういうこと?」

「全部、うちのせいなんです……。ごめんなさい。本当に……ごめんなさい」


 マリアンの足元に水滴が落ちる。


「意味が分からない。意味が分からないよ……。どうしてマリアンが謝るの?」


 心臓の音が跳ね上がる。まったく意味が分からないはずなのに。

 しかし、心のどこかで、マリアンが何を言いたいのかを理解していた。


「最近魔術を使えない人たちを襲う組織。あの組織のリーダーは……うちの父親なんです」

「な――」

「うちが父にライクさんのことを話しました……。そうしたら父はすぐにフレデリカさんを狙いに行ったんです……。だから、うちのせいなんです。全部、うちのせいなんです……」

「どうして……そんなことを」


 フレデリカはもはや無だった。何も考えたくない。全てを手放したくなるような気持ちの中で、ほぼ無意識に言葉を紡いでいた。

 今の彼女にはそれが精いっぱいだった。

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