第18話 参加決定
フレデリカはロクリスと別れた足で、そのままルミネとマリアンを探しに歩いた。
こういうのは早い方が良いだろう、という直感である。
「ん、フレデリカ。どうしたの? 何か顔、怖い」
親友故だろうか、ルミネはすぐに見つかった。何となく彼女がいそうなところを歩いていたら、即発見出来た。
「ルミネとマリアンに話したいことがあるんだ」
「……なるほど。改まって言うレベル。なら、ボクもそれなりの姿勢で聞かざるを得ない」
「信じてもらえるか分からないけどね」
「? ボクはフレデリカの話を疑ったことはない」
ルミネを引き連れ、フレデリカは魔術士科のエリアへやってきた。
「フレデリカ、マリアンはいずこへ?」
「うーん、たぶん魔術の練習をしていると思うんだけど」
フレデリカの予想は当たっていた。マリアンは今日も今日とて木の的に魔術を撃ち込んでいた。
マリアンとも合流できたフレデリカは、二人を引き連れ、個室へ向かう。
「ごめんね二人とも、急に」
――話がある。
そう聞いていたルミネとマリアンのリアクションは極端なものだった。
ルミネはリラックスしきっており、今にも寝そうだった。対するマリアンはどんな話か分からず、ひたすら緊張した様子である。
「二人に聞いて欲しいんだ。私が魔術を始めたキッカケを」
フレデリカは語り始める。
剣の道を極めんとしたばかりに血迷い、魔術に手を出したこと。その結果、ライクが自分の中に現れたこと。急に魔術の腕前が上がったのは、全部ライクの指導によるものだということ。
最後に、ピサラを圧倒したのはライクが自身の代わりに戦ってくれたことを伝えたフレデリカはそこで言葉を切った。
「そういう、ことだったんだよね」
フレデリカは二人から何と思われたのだろうかと、不安で仕方なかった。ルミネに対しては隠し事をしていたのが後ろめたい。マリアンに対しては最初から自分の力で魔術について語っていたわけではなかったことの罪悪感。
そう、フレデリカは二人に後ろめたさや罪悪感があったのだ。
そのためフレデリカは二人の顔を見ることが出来なかった。
「……フレデリカ」
「フレデリカさん」
そんな中、ルミネとマリアンがほぼ同時に声を掛ける。
断罪の時が来た。そう思ったフレデリカは覚悟を決め、顔を上げる――。
「ずるい。そんな面白そうな状況だっただなんて。ボクにも共有するべき」
「あの『無限の夜』から教えてもらって、それで上達したのはフレデリカさんです。だからうちは何とも思ってませんよ。むしろ、教えてくれてありがとうございました」
二人の口から出た言葉は、とても暖かくて。フレデリカの緊張を一気に解放するには、十分過ぎた。
「あ……あはは。すっごい拍子抜け。二人から怒られるものかと」
「? フレデリカの言っている意味が分からない。時々フレデリカの様子がおかしいとは思っていたけど、ボクはフレデリカのことを悪く思ったことはない」
「うちもルミネさんと同じです。様子がおかしいのは分からなかったけど、それでも怒るなんてありえません」
友達。
その二文字のありがたみを、フレデリカは改めて知るのであった。
空気が緩んだ後、ルミネは首を傾げ、フレデリカに質問した。
「ねぇフレデリカ。ライクとやらの顔を拝みたい。どうすれば話せるのだろうか」
「えっとそれは……?」
フレデリカは近くで浮いているライクへ顔を向ける。
「ライク、どうすれば良いの?」
「誰が教えるか面倒な」
この二人の前では思念による通話は不要と判断したフレデリカは、言葉を発した。
「教えてよ。というか、なんか手があるならやってよ」
「だーれーがやるか。それをやるということは、そこのガキ二人の相手をしなくてはならんのだろう? クソ面倒だ」
「出来ないの?」
「あ?」
「や、出来ないんならそれで良いんだよ? でもさぁ。ただ『出来ない』って言えば良いのに、理由こねくり回すのってダサいなぁって」
「あぁ!? 出来るわ1 でーきーまーすー! よりにもよってこの俺を挑発するとはな!」
怒りの表情を浮かべたライクは、ルミネとマリアンの方へ手を向けた。すると、二人の至近距離に光の球が生まれ、次の瞬間、それがパチパチと弾けた。
突然のことにルミネとマリアンは驚き、手で顔を覆う。少し経ち、身の安全を確認した二人の視線は一点を向いていた。
「……ふよふよ浮かんでいる。フレデリカ、あの人がライク?」
「そうだよ。あれが意地っ張りで意地悪なライクだよ」
「言ってくれるじゃあないか。この俺の姿を拝めた栄誉に感動するが良い」
「こ、声です。うち、姿だけじゃなくて声も聞けている……!」
ライクが二人の前に移動する。
フレデリカはライクの顔を見て、次の行動が手に取るように分かっていた。
――あぁ、また偉そうに名乗るんだな、と。
「改めて名乗ろうではないか。俺はライク。俺こそ魔術、魔術こそ俺。あらゆる魔術を極めし姿こそがこの俺――『無限の夜』、ライクなり!」
ライクの名乗りに二人は無言だった。
恐れているのか、固まっているのか、はたまた……。
「思った以上に偉そうだった」
「こ、この方があの神話の存在とすら呼ばれる『無限の夜』……!」
ライクはルミネを見る。続けてマリアンを見て、最後にフレデリカを見る。そして彼は大きなため息をついた。
「お前ら……いや、正確にはフレデリカと青い奴。少しはありがたいと思え? 魔術の道を歩く者が最後に辿り着くのが俺とされているのだが?」
「と言われても、そもそもライクじゃなくて違う人が来てくれたら良いって思ってたから……」
「ボク、剣士だからライクの名前は知らなかった。ごめん。罪悪感は少しある」
ライクはルミネを指さした。
「お前、もしかして俺に少しも興味ないな!? 分かるぞ、その反応で!」
「驚き。読心術でも使われたのだろうか……」
「読心術じゃなくてもその反応で分かるわ! お前もフレデリカ側か……!」
「ボクとフレデリカは一心同体。だからそれは当然」
「ルミネ!」
フレデリカは思わずルミネに抱き着いた。これをさらっと言えるから、ルミネはルミネである。
◆ ◆ ◆
しばらくして、マリアンはこの後、約束があるとのことで去っていった。
この場にいるのは、フレデリカとルミネのみになった。
「そう言えば。フレデリカはこれには出ないの?」
「ん? 何それ?」
ルミネがポケットからクシャクシャになった紙を差し出した。
それを受け取り、広げると、そこにはフレデリカの気になる単語が書かれていた。
「これって……『武術大会』?」
「そう。学年ごとの最強を決める大会」
「ルミネは当然出るよね?」
「もちろん。これを逃したら、ボクは確実に欲求不満になり、周囲の人間に戦いを仕掛けるかもしれない」
闘争心むき出しの台詞。これこそがルミネの本質とも言えた。
彼女とフレデリカは似ているようで、似ていない。違う点が明確に存在するのだ。
「あぁ……早く戦いたい。ボクの胃袋は闘争に飢えている……」
大がつくほどの戦闘好き。これこそがルミネであった。
フレデリカは即答しようとした。……が、なんと言葉が出なかった。
それにいち早く気づいたルミネ。無表情ながらも、少しだけ声のトーンが低くなった。
「まさか……出ないの?」
「い、いやいや! そんなことはない……はず」
「いいや。フレデリカの迷いは分かってる」
ルミネはじっとフレデリカの目を見た。
「フレデリカは後ろめたいんだ。剣だけじゃなくて、魔術も使えるようになったから」
それは、あまりにも正確な見立てだった。
「あはは……。流石はルミネ。大正解も大正解だよ」
剣術だけなら迷うことなく出場を選択しただろう。純粋に修行の成果を試す場として、彼女は捉えていた。そう、魔術を覚えるまでは。
「私、無意識に頭に浮かんでくるようになったんだ。剣だけじゃなくて、魔術も使った時の立ち回りとか、さ」
フレデリカは自然と考えてしまうようになった。剣の他に魔術を使うという選択肢を。
そんなことで良いのだろうか。出来れば剣だけで勝ちたい。しかし、魔術も使えるなら試してみたい。
そういう思いが彼女にはあった。
「それの何を悩んでいるのだろうか。ボクには分からない」
「え……」
ルミネは心底不思議そうな表情を浮かべていた。
「大会とはそういうもの。ルールで禁止されていない限り、自分の持てる物を全てぶつけて、相手をぶちのめす。大会とは、そういうもののはず」
「確かに……そうだけど」
「ボクから言わせれば、フレデリカのその考えは相手にとって失礼。向き合った時に全てを出し切らないのは、舐めプも良いところ」
「舐めプ、か」
「ちなみにボクが戦った時に余計なことを考えていたら、本気で怒る。フレデリカにとってのボクはその程度の存在なのかと悲しくなる」
「!」
フレデリカはようやく自分がとんでもない思い違いをしていることに気づかされた。
傲慢。
今までのフレデリカの思考は、その二文字で表すことが出来た。
何事も真剣勝負。手を抜かれて勝ち取れた勝負に、何の意味もない。
限界を超えた先の勝負にこそフレデリカの求めるモノがあるのだ。
「ごめんルミネ! 私、絶対武術大会に出る! そして、ルミネを倒すから!」
「グッド。そんなフレデリカがボクは好き」
こうしてフレデリカの武術大会参加が決まった。
ここからがフレデリカにとっての正念場。そして、始まる。
フレデリカとライクにとっての試練が……。




