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聖誕祭の魔法騎士  作者: 板山葵
ドレグニア王国革命編
33/43

夜更けのネズミ(グレーゲル視点)

「ダニエラはどこだ!」


 ワーゼル王国軍の拠点、『夜更けのネズミ』

 普段は盛況であるはずのこの店は、今は入口の扉に『本日、終了』の看板がかけられている。

 しかしそんなことをものともせず、強引に扉を開け、叫ぶ者がいた。グレーゲルだ。

 彼はずかずかと店内に入ると、「誰もいないのか!」と再び叫んだ。


「一人で何しにきた?」


 キッチンから音もなく出てきて返事をしたのはキムだった。グレーゲルは彼の言葉に顔を顰めた。


「アニェス様があの部屋にいなかった」

「そうだろうな。じゃなかったら、一人でのこのこ帰ってくるわけがない」


 グレーゲルの簡潔な説明に、キムは冷ややかに返す。


「ああ、そうだ。たしかに俺は今クソみたいに情けない立場だろう。だが、アニェス様を取り戻す手がかりはある。部屋に蜘蛛の死骸があった。恐らくティエリーが一枚噛んでいる」


 その時の部屋の状況と自身の推理をキムに話して聞かせる。


「なるほどな。だったらすぐに動いた方がいいだろう。ダニエラは二階だ」


 階段を親指で差したキムに、グレーゲルは「どうも」と手短に返して、足早に二階へと向かった。




 グレーゲルが二階に上がると、ダニエラが腕を組んで背もたれに背中を預け、どっかりと座っていた。その対面にはイヴォンが見えた。


「私はここよ。グレーゲルの声、こっちまで聞こえてきたわ」

「なら話は早い。ダニエラ、お前はさっき弾を外しただろう。何に邪魔された? 獣か?」


 逸る気持ちを抑えきれず、グレーゲルはダニエラに詰め寄る。彼女はグレーゲルを見上げ、「なに? 責めてるの?」と舌を出した。


「そういうわけじゃない。ただティエリーの飼ってる獣に襲われたんじゃないかと思っただけだ」


 グレーゲルが肩をすくめると、ダニエラは「ふうん?」と片眉を上げた。


「ご明察。あの子、あんなに可愛い顔してブラックトゥールを飼い慣らしていたわ。あんな大きさと毛艶の良さ。よっぽど熱心に育てているのね」

「ブラックトゥール……か」


 あの大型の猛禽類を飼い慣らすとは、余程の魔法神経の持ち主だ。グレーゲルは舌打ちした。見た目によらず、相当な手練らしい。


「イヴォン、ティエリーの居場所は分かるか?」


 イヴォンは肩を竦めた。


「王都にロッテンバーグの屋敷がありますが……」

「どこだ?」


 グレーゲルは前のめりになってテーブルに勢いよく手をついた。イヴォンは大きく息を吐き出して「まあ落ち着いて」と言い、椅子の背もたれに背中を預けた。


「アニェス・ヴィスコンティ嬢はロッテンバーグの姪ですから、すぐにどうこうはされないでしょう」

「少なくとも、お前がキザったらしくフルネームを言っている間にも、彼女は危険にさらされているだろう」


 グレーゲルは顔を顰めてイヴォンを睨みつけた。今は丁寧に話をしている場合ではない。一分一秒でも惜しいのだ。

 イヴォンはお手上げといった調子で両手を挙げた。


「はいはい。アニェス様は今は安全でしょう」

「だが、彼女の魔法神経はなかなかのものだ。すぐに利用されるだろう」

「そうですね。ですから利用される瞬間を狙った方が良いでしょう」


 イヴォンは意味深にグレーゲルへ目配せした。グレーゲルは顎に手を添えて「そうか……彼女が魔法を使えば、すぐに感知できるな」とぼそりと呟く。


 思い出すのは、アニェスと深く口付けを交わしたあの日。

 あの時、グレーゲルはアニェスの魔法神経に自身の魔力因子を通わせた。


 魔法神経とは、身体中を張り巡る、魔法を操作するための回路だ。これを繋ぎ変えることによって多種多様な魔法が使える。

 魔法を発現させるスイッチとなる動作も魔法神経によって千差万別。例えば、グレーゲルが手を横にスライドさせるのは、魔法神経が手に集中しているからだ。


 その魔法神経を通じ、魔法を使うための糧となるものが、魔力因子だ。使える魔法は、魔力因子の種類によって決まる。


 人によって形や量、何種類あるかも大きく異なる。重要な個人情報だ。だから、ひとたび魔法神経を繋げて魔力因子を触れ合わせ、互いのものを認識すれば、相手が魔法を使った場所や魔法の規模、種類を瞬時に感じ取れるのだ。


 アニェスの魔法神経は、白く不思議な輝きを放つ魔力因子が深く青い神経回路をゆったりと流れていた。まるで泡が海の底を揺蕩うように。繋げた瞬間、落ち着くような、何かが沸き立つような、不可思議な感覚が身体中を駆け巡った。彼女は、一体どんな魔法を使うのだろう。全く想像がつかない。


 魔力因子を流し込んだのは、ただの出来心だった。深い意味はなく、彼女への独占欲と、彼女がグレーゲルとのキスにもっと反応すればいいと思ってのことだった。

 まさか拐われるとは思ってもみなかったから、こんなところで役に立ったのが少し気まずかった。


 そんなグレーゲルの思考を読んでか、イヴォンはニヤリと笑った。


「やれやれ、やっぱり感知できるようなことをしていたんですね」


 彼は頬杖をつき、妖しげな笑みを浮かべてグレーゲルを見上げた。決まりが悪くなって、視線をあさっての方向に向ける。


「仕方ないだろう。男なんだから」


 そう言った瞬間、ダニエラが顔を真っ赤にして「えっ!?」と叫びながら、すごい勢いでグレーゲルを振り返った。


「なっ……なっ、何をしたのよ!?」

「ダニエラにはあとで私から教えてあげますよ?」


 イヴォンは妖しげな笑みを、今度はダニエラに向けた。すると彼女は別の意味で顔を真っ赤にさせ、言葉が出てこないのか、口をパクパクと開閉させた。

 その様子をグレーゲルは呆れながら眺める。


「お前は一生、女に苦労することはないだろうな」

「男には苦労するとでも?」


 そう余裕たっぷりに言い、バチンとグレーゲルにウインクをするイヴォン。それを横目で見て投げやりに「ああ、分かったよ」と吐き捨てた。


「とりあえず、アニェス様のことだが、そこの変態神父の推察通り、彼女が魔法を使えば感知できる。だが、その頃にはアニェス様は危険に晒されているはずだ。すぐに向かえるよう、当たりはつけておく」


 イヴォンはダニエラを眺めながら「承知しました」と歌うように返した。本当に分かったのか、グレーゲルは少し不安になった。

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