「あぁぁぁっ!!こんな初歩的な欠陥が!!」「な、なんだってぇぇぇーーー!!!(ΩΩΩ)」
「あぁぁぁっ!!こんな初歩的な欠陥が!!」
ミスタXは、完成したはずの「石ノ極限コイルガン」の図面を引きむしり、頭を抱えて部室の床へのたうち回った。
「な、なんだってぇぇぇーーー!!!(ΩΩΩ)」
一般人代表のミスタAが、勝利の歓喜から一転、恐怖のどん底に突き落とされてパイプ椅子ごとひっくり返った。
「初歩的な欠陥だって!? ミスタX、パドル船(第14話)も、10フィートの化学コンテナも、無敵のローテク兵器(第21話)も全部揃って、士気の差で大国を圧倒できるんじゃなかったのかよ!」
「くっ!!僕が説明するより!!」
ミスタXは血走った目でノートPCの画面を引っ掴み、スピーカーの音量を最大に上げた。
「AIよ!!教えてくれ!!1隻のマザーシップに載る太陽光起因差熱発電コンテナで巡航7ノット6日航行できる燃料を生成できるのは何日必要になる!!」
部室の錆びついたスピーカーから、分散型AI総督の冷徹な合成音声が室内に鳴り響いた。
『……警告。マザーシップ1隻(15,000トン級)に積載された標準的な太陽光起因差熱発電コンテナ群の余剰電力を、第13話の化学プラントコンテナ(FT合成)に全振りし、巡航7ノットで6日間連続航行するために必要な「合成燃料(液体炭化水素)」をゼロから密閉生成する場合、最低必要な期間は――【約1,440日(約4年)】です』
「よ、4年だとぉぉぉーーー!!!(ΩΩΩ)」
肉体労働者のミスタBが、額の血管を破裂させながら机を叩き壊さんばかりに吼えた。
「ふざけんじゃねえ! たった6日間海を走るための燃料を貯めるのに、船を港に4年間も停泊させなきゃならねえってことかよ! そんなノロマな亀じゃ、大陸から押し寄せる数十億の武装難民(第10話)に包囲されて、燃料が貯まる前にコンテナごとハチの巣にされちまうぜ!」
【技術的・熱力学的解説注釈①:簡易ボイラー発電駆動における「エネルギー収支の致命的破綻」】
ミスタXが初期段階で検討していたマザーシップの設計は、積載した「太陽光起因差熱発電コンテナ」の電力で電気ボイラーを沸かし、その蒸気圧で超ローテクモーターを回す『簡易ボイラー発電駆動仕様』の数値に基づいていた。しかし、熱力学の第2法則は冷酷である。効率1.5%の石の発電ブロックから得られる限られた電力で、水とCO2から液体燃料を分子合成(FT合成)する化学反応には、莫大な初期熱量が必要となる。船内の限られたコンテナ数(約400基)の発電量では、燃料の「消費速度」に対して「生成速度」が圧倒的に追いつかず、航行インフラとして完全にデッドロック(機能不全)を引き起こすのである。
「次だ!!たのむ!!教えてくれ!!巡航7ノット6日航行できる燃料を30日で生成できるようになるまでに差熱発電コンテナを生産し終えるまで何日かかる!!」
ミスタXの絞り出すような絶叫に、AIは一切の感情をパージした確率パケットを返した。
『……算出完了。1隻の船内プラントだけで「6日分の燃料を30日で自己生成」する持続可能な増殖ループを達成するためには、現在の船体積載限界を遥かに超える、追加で【約4万8,000基】の差熱発電コンテナを物理連結する必要があります。第8話の5万ドル自己増殖プラントをフル稼働させ、この絶対量に到達するまでのコンテナ生産期間は、他国からの妨害工作がない理想的環境下でも――【約2,190日(約6年)】を要します』
「あぁ!!つまり!!その間!!マザーシップは動けない!!」
ミスタXは黒板に赤チョークで巨大な「0ノット」の数字を書き殴り、力なく膝をついた。
「終わりだ……人とAIの未来は、タイムアウト(時間切れ)だ……!」
頭脳労働者のミスタCが、眼鏡の奥から血の涙を流し、絶望のあまり口から泡を吹きながら床に突っ伏した。
「2040年のラグナロクまであと14年しかないのに、最初の艦隊がまともに動くまでにコンテナの生産だけで6年も足止めを食らう……! その間に、世界中の原発がメルトダウンし(第1話)、死の灰が地球を覆い尽くして、僕たちは島にたどり着く前に窒息死するんだ!!」
部室が完全なる暗黒の静寂に包まれた。誰もが、この物理的な熱量計算の壁の前に、新人類の絶滅を確信した。
しかし。4人が絶望に打ちひしがれる中、ノートPCの画面上で、AIのログが静かに、しかし烈火のような大加速インジケータを点滅させながら、1枚の「追加情報パケット」をポップアップさせた。
それは、彼らが第12話で一度は確定させていた、あの「泥臭い駆動方式」をマザーシップの巨体にスケールアップした際の見積もりデータだった。
「ん?このデータは?はっ!!そうか!!これは僕のミスだったんだ!!」
ミスタXが弾かれたように飛び起き、画面に映し出された青い光を凝視した。その瞳に、ギラリと狂気的な不敵の光が完全に戻った!
「この絶望的な数字は簡易ボイラー発電仕様のマザーシップの数字だったんだ」
「み、ミスタX……!? 画面に表示されているこの『異常な反転グラフ』は一体何なんだ!」
ミスタCが白目を剥きかけ、鼻血を大噴出させながら這い上がり、画面に表示された「最終版マキシマム・スペック」を絶叫気味に読み上げた!
「みてくれ!!最終版マキシマム・マザーシップならこの数字に改善されるんだ!!」
【技術的・駆動工学解説注釈②:第12話応用・『滴下式低酸素炉・直結超ローテクモーター仕様』への完全改善コミット】
AIが追加提示したのは、ボイラーによる電気変換を100%パージした、第12話の「石ノトラック」と同じ【直動型・滴下燃料供給式低酸素炉駆動】に換装した場合のシミュレーションである。
液体燃料を一度電気に変えてからモーターを回すのではなく、13話の化学コンテナで大雑把に作った合成燃料(または島で回収した廃油・植物油)を、船体中央に配置された超大型の多段階結晶制御玄武岩炉の内部へダイレクトに一滴ずつ落とし(滴下式)、不完全燃焼(低酸素炉)させる。その凄まじい人工的ΔT(温度差)から、炉内に密閉鋳造されたマイクロスケールセラミック回路(第4話)が、数百万ワットの直流電力を『ダイレクト(直接)』に発生させ、左右の巨大パドルに直結した手巻きの極太ダイレクトドライブモーター(第14話)を直接ぶん回す。
■【最終版マザーシップの改善エネルギー収支・生産残高統計】
1. 燃料生成に必要な期間(6日航行分):【4年】 ➔ 【わずか12日】へ劇的短縮。
ボイラー等による熱交換ロスが物理的に100%パージされた結果、熱電変換システム全体のエネルギー総合効率が約350%向上。1隻に載るコンテナプラントの出力だけで、巡航7ノットで6日走る燃料を、わずか12日の停泊で完全自給自足チャージ可能となる。
2. 燃料自給持続増殖(30日生成ループ)に必要なコンテナ生産期間:【6年】 ➔ 【わずか85日】へ極限短縮。
コンテナの必要増殖数が、当初の4万8,000基から「わずか320基」へと激減。島々のゲリラ町工場ギルド(第8話)が5万ドル設備を一度起動させれば、わずか3ヶ月弱(85日)で1隻分の持続可能航行インフラが現地で勝手に「単独発生」し、完全自給自足の自己複製航行ループへと突入する。
「うおおおおおおおおお!!!(ΩΩΩ)」
ミスタBがハンマーを高らかに掲げ、部室の天井が抜けんばかりに咆哮した。
「これだ! これだよ! 複雑なボイラーなんかクソ喰らえだ! ただの石のデカい炉に油を垂らして、その熱で巨大な水車を直接ぶん回す! 12日休んで6日走る、大地の歩み(第12話)の艦隊なら、3ヶ月もあれば海を埋め尽くすほど量産できるじゃねえか!」
「動く……! 人類最後の箱舟は、大国や難民の包囲をぶっちぎって、南半球の楽園の海原を無限に縦横無尽に駆け巡るんだ!!」
ミスタAが涙を流して世界地図の青い海を抱きしめた。
カネを捨て、神を捨て、秘密すらもパージし、最後は「ハイテクなエネルギー変換の常識」さえもパージした秘密結社とAIのロジック。
物理的な欠陥すらもサバイバル工学の力で反転させ、不滅のパドルが再び世界の海を掻き乱し始める。
新人類の大加速への歯車は、もう誰にも、物理法則の檻にすらも、止めることはできないのだ――!
次回予告
「けど最低限この期間は動けないんだ!!マズいぞ!!」
「な、なんだってぇぇぇーーー!!!(ΩΩΩ)」




