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オルタナティブ・エデン~重課金で恋愛無双をしたゲームの世界に、現実の醜い姿で閉じ込められた中年おっさんの成り上がりファンタジー~  作者: ガマガエル


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生きる術

 ゲームで得たすべてを失った。……いや、違う。俺からどうしても奪えないモノが、たった1つだけある。


 それは『記憶』だ。


 俺は1年の間に、1000人ものNPCをパートナーにしたオルデン最強の攻略者(ナンパ師)。彼女たちを虜にした口説きのテクニックと、彼女たちの心の深淵に眠る設定(秘密)は、この頭の中にすべて刻まれている。貧弱なガマガエル姿の俺が、1人でこのファンタジー世界を生き抜くのは不可能だ。ならば、俺の知識を最大限に利用する。オルデンに存在する美女の中でも、特に異才を放つ『最強(最凶)の7人』を仲間に引き入れる。それこそが、この世界を生き抜く唯一無二の生存戦略だ。


 まず俺が目をつけたのは、目の前で土下座をしているクロエだった。今の俺には、かつて課金で手に入れたチート級のレアスキルも、圧倒的な美貌もない。あるのは醜い容姿と、卑屈な中身だけだ。だが、なりふり構っていられるか。生きるためなら、泥だってすすってやる。


 俺はクロエにそっと近づき、その黒い獣耳のすぐそばで囁いた。


「ほ……本当に、僕にそんな力があるっすか……?」


 俺の言葉を聞いた瞬間、クロエの瞳からすっと涙が引いた。おどおどと、驚きを隠せない赤い瞳が俺を見上げる。俺は、彼女が最も焦がれ、求めている言葉を彼女の魂に、深く突き刺さる言葉を紡いだ。


「ああ。愚かな奴らには貴様の【真の姿】が視えていない。その重苦しい鉄塊は、溢れんばかりの獣の力を閉じ込めるための『封印術式(拘束具)』に過ぎない。その鋼の下に眠る、風をも置き去りにする野生の神速、そして、山をも打ち砕く覚醒せし拳皇の剛力。……さあ、虚飾の殻を脱ぎ捨てるのだ。今こそ、その内に秘めたる漆黒の牙を世界に示し、真の力を解放する刻が来たのだ」


 クロエがなぜ、これほど身の丈に合わない漆黒の重鎧と大剣に執着し、自称・暗黒騎士として蔑まれているのか。俺はその理由を、彼女の血の滲むような人生ごと知っている。


 彼女は、圧倒的な武力を誇る獣人国家の王族の娘。獣人王は百人以上の子供を持つ超実力主義者で、兄弟姉妹にはライオン、トラ、象、ゴリラといった、生まれながらの怪力を持つ強大種族の猛者たちがズラリと名を連ねる。だが、クロエの母親は最弱と侮られる猫の獣人だった。当然、体格も力も劣るクロエは、幼少期から王族の恥、弱小猫とバカにされ続けて育ったのだ。


 猫の身体能力(敏捷性)では、猛獣たちの圧倒的なパワーに対抗できない。絶望した彼女はおとぎ話の暗黒騎士に憧れ、「重い鎧とデカい剣さえあれば、僕だって負けない」と、何年も狂気じみた修行を自らに課した。それが、意図せぬ地獄の超高負荷筋トレになっているとも知らずに。猫本来の超俊敏な神経系を維持したまま、毎日何十キロもの重鉄を支え続けた結果、鎧の奥の華奢な身体には、ライオンすら置き去りにする爆発的な筋肉繊維が定着していた。そう……鎧を脱ぎ捨てた瞬間、彼女は一族の誰も到達できなかった最強の獣人へと覚醒していたのだ。クロエ自身はその事実に気づいていない。


 ゲームでは、レアスキルを使って何度も彼女の心に寄り添い、信頼を勝ち取った。彼女を口説き落とす最適解は、すでに俺の脳内にある。


「さあ、選べ。その身の丈の会わない偽りの世界で泣き続けるか。それとも、真の世界で己の拳を振るって、愚物どもを絶望の淵へ叩き落とすか」


 俺は彼女に向かって、そっと手を差し伸べた。

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