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オルタナティブ・エデン~重課金で恋愛無双をしたゲームの世界に、現実の醜い姿で閉じ込められた中年おっさんの成り上がりファンタジー~  作者: ガマガエル


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究極の選択

 王都にゲテモノ料理店など存在するはずがない。ここは元々、最新のフルダイブ型MMORPGの世界だ。五感で本物そっくりの料理の味を堪能できるシステムにおいて、わざわざ金を出して好き好んで害虫や毒物を食べたいプレイヤーなど存在するはずもないからだ。だからこそ、俺がルビーを連れて向かったのは料理店ではない。王都の繁華街から少し外れた場所にある【ペットショップ・アルカンシエル】だ。


 この店は、可愛らしい小型犬から気味の悪い爬虫類まで幅広いペットを取り扱っている。ゲーム時代、ルビーは好んでこの店に通っていたのだ。おそらく運営側が、ルビーの好感度を上げるためのスポットとして用意した特殊な店舗なのだろう。


 目指す【ペットショップ・アルカンシエル】の表の建物は、ピンク色の可愛らしい壁に肉球型の窓、ハート型の扉、そして猫耳を模した屋根という、いかにもメルヘンな佇まいをしていた。だが、俺たちが目指すのは正面玄関ではない。建物の真裏にひっそりと隠された、真っ黒な小さなボロ小屋だ。俺は今にも崩れ落ちそうな木製の扉に手をかけ、押し開いた。ギーッと不気味な重い音が静寂に響き渡る。小屋の中は薄暗く、怪しい紫色のランタンが1つだけぽつんと照らされていた。そのランタンの灯りの下には、黒いローブを深々と被った老婆が座っていた。


 「……おや。裏の店舗へ来るとは、珍しい客もいたものじゃな……」


 プレイヤーが立ち寄ることなど皆無の隠しエリア。ゲーム時代も、ここで他のプレイヤーと出くわしたことなど一度もなかった。


 「きゃあぁぁぁーーーっ♪♪ すっごく可愛いのぉっ!!」


 小屋足を踏み入れた瞬間、ルビーは大はしゃぎで室内を駆け回った。目の前に並んだ棚の上のガラスケースには、現実世界には絶対に存在しない悪夢のような害虫たちがうごめいていた。足が50本生えたゴキブリ。頭が3つある不気味な黒ゴキブリ。背中に100個の目がついたムカデ。多種多様な凶悪害虫が蠢く地獄絵図。それらを前にして、ルビーはジュルリと大量のよだれを垂らし、目を輝かせていた。


 (うぐっ……本気で吐きそうだ……ッ)


 何回見ても絶対に慣れることのない惨状だ。だが、俺は必死で吐き気を押し殺した。ルビーがここで満足してくれれば、俺が彼女の胃袋に収まるという最悪の死期は回避できるのだから!


 「ガマガエルの親分さんっ! これ、すっごく美味しいよっ♪」


 ルビーは誰しもが叫び声を上げて逃げ出すような劇毒害虫を指でつまみ上げると、躊躇なく口の中へ放り込んだ。ガリッ、ジャリッと不快な音が響く。直後、全身をビクビクと激しく痙攣させ、口からゴボッと大量の血反吐を吐き出しながら、彼女は恍惚の表情でそれらを噛み砕いていた。何回見てもおぞましすぎる光景だ。だが、ここで引くわけにはいかない! ゲーム時代にルビーの心を開かせたように、俺はこの狂気の食卓を肯定して褒めちぎらなければならないのだ!


「ほ……本当に、すっごく美味しそうに食べるなぁ……あはは……」


 俺は顔面をひきつらせ、死にそうな引きつった笑顔で言った。


 「すっごく美味しいの♪」


 ルビーの害虫食を絶対に貶めたり、ドン引きして逃げたりしてはいけない。この子の狂気とも言える個性を包み込んでやることこそが、好感度獲得の絶対条件なのだ。そう、思っていたのだが。


 「ガマガエルの親分さんも、一緒に食べるの♪ はい、あーん♪」

 「……え?」


 ルビーが笑顔で差し出してきたのは、ウチウチと足を蠢かせる頭が3つあるゴキブリだった。俺の時間はピタリと止まり、顔面から血の気が一気に引き叩かれた。


 (……え……? 嘘だろ……っ!?)


 ゲーム時代、ルビーがプレイヤーに害虫食を勧めてくることなど一度たりともなかった。なぜなら人間にとって害虫や毒は即死の危険があり、ルビー自身も人間には無理だと理解していたからだ。だが、今の俺を目の前にしたルビーの認識は違う。俺はゲーム時代のようなイケメンの人間族ではなく、ルビーの視点ではガマガエルの化け物なのだ!


 (人間じゃなくてカエルの化け物だと思われてるから、普通に害虫を食べられると思われてる……ッ!?)


 俺は声も出ず、冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべて首を横に振ろうとした。だが、ルビーは純粋無垢な瞳でこちらを見つめてくる。


「ガマガエルの親分さんなら、問題ないの♪」


 絶対に食べたくない。口に入れた瞬間に精神が崩壊する自信がある。……だが、ここで俺は人間だから無理だと断り、彼女の機嫌を損ねたらどうなる……!?「ショックなの……」とガッカリさせて、ルビーへの好感度が下がり、 最悪の場合、「じゃあ代わりに親分さんを食べるの♪」と襲われる可能性だってある!


(食うのか……!? 俺がこれを食わなきゃダメなのか……ッ!?)


 差し出された蠢く黒い害虫を前に、俺は人生最大の決断を迫られていたのだった!

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