絶体絶命
あの豊かな胸を存分に揉みしだきたい。あの魅力的な太ももに顔を埋めたい。あのふっくらとした桃色の唇に、俺のたらこ唇を押し当てたい!
俺の頭の中で渦巻く破廉恥な妄想は、留まることを知らなかった。だが、その妄想は間もなく現実となるのだ。動画でしか見たことのなかった未知の領域へ、俺はついに足を踏み入れる。しかもその初体験の相手が、絶世の美女・サクラなのだ。元の現実世界では天地がひっくり返ってもあり得ない奇跡のシチュエーション。このゲーム世界に転移して以来、俺は初めて真の幸せを噛みしめていた。サクラと合体できるなら、今ここで死んでも悔いはない。本気でそう思えるほど、俺の血潮は激しく滾っていた。
夜の王都アモーレ。繁華街から離れた街並みは静まり返っていたが、王都警備隊が常に定期巡回を行っているため治安は良好だ。だからこそ、俺は巡回ルートの穴を完璧に熟知していた。俺がサクラを連れ込んだ人気のない裏路地は、警備兵の巡回コースから完全に外れている。ここでどれだけ大きな声を上げようと、誰にも邪魔されることはないのだ。
「ここなら……誰にも見つからないよ」
「……そうね。人が来ない場所だからって、お外でするのは……なんだか興奮しちゃうわ」
サクラは上目遣で顔をぽっと赤らめ、恥ずかしそうに俯いた。だが、その態度からは拒絶の気配など微塵も感じられない。俺は沸騰する興奮を抑えきれなくなり、サクラの豊かな身体を力任せに強く抱きしめた。
その、瞬間だった。
「きぁぁぁぁぁぁぁっ!! やめてぇっ! 誰か、誰か助けてぇぇぇっ!!」
サクラが静寂を切り裂くような悲鳴を上げた。あまりの豹変ぶりに俺はパニックに陥ったが、既に狂い咲いた己の暴走を止めることなどできない。
「や、約束だろっ!? ちゃんと身体で支払ってもらうぞっ!!」
「嫌ぁぁっ! 触らないでぇっ!」
抵抗するサクラの両腕を強引に掴み、壁際へ押し付けようとした……その時。
「貴様! そこで何をやっているッ! 離れろッ!」
怒号とともに、王都警備隊の集団が路地へと雪崩のように押し寄せた。
(……なっ……!?)
俺は脳内が真っ白になり、呆然と固まった。ここは巡回ルートから外れているはずだ。なぜ警備兵が一瞬で駆けつけてくるんだ!?
「フフ……ごめんね? 」
俺の腕の中で、サクラが嘲笑うような笑みを浮かべ、耳元で冷酷に囁いた。
嵌められたのだ。俺がサクラをハメるつもりが、俺がサクラにハメられたのだ……!
茫然自失とする俺の視界の端に、路地の影から姿を現した男が映った。冒険者ギルドで俺に絡んでいた、あのイケメン戦士だった。男は暗がりの中で、俺に向かってニタリ顔を浮かべていた。
サクラとあのイケメン戦士は手を組んで俺をハメたのだ!
俺は逃げる間もなく警備兵たちに取り押さえられ、これで3度目となる南区警備署へと連行された。だが、過去2回(軽犯罪レベル)の尋問とは待遇がまるで違っていた。今回の罪状は、現行犯での婦女暴行。言い逃れなど一切通用しない。俺は太陽の光すら届かない、氷のように冷たい地下の最深独房へと放り込まれた。両腕には重厚な鉄の手枷、足首にはずっしりと重い黒い鉄球。身動き一つ取れない屈辱的な姿で、俺は取調官からの厳しい糾弾を受けることになった。
「罪状は婦女暴行。王都アモーレの治安を乱すこの手の凶悪犯罪は、即座に極刑(死刑)と定められている。王都の平穏が保たれているのは、この厳罰があるからだ。……貴様は首を跳ねられることになる」
死刑。あまりにも容赦のない二文字が頭の上から叩きつけられた。ガクガクと震える俺に対し、取調官は無表情のまま一枚の書類を突きつけてきた。
「だが……死刑を免れる道が1つだけある。被害者側が示談金を受け取れば、事件を取り下げると言っている。どうする?」
「じ……示談金!? い、いくらですか……!?」
「5000万円だ」
ご、5000万……!そんな巨額、すぐに払うことなど不可能だ! だが、払えなければ数日後には首を切り落とされて命を落とすのだ!
「い、今すぐには払えませんっ! でも、働いて必ず払いますからっ! 死刑だけは、死刑だけは勘弁してくださいっ!!」
ゲーム知識を駆使すれば、5000万を稼ぎ出すことも不可能ではないかもしれない。今の俺にそれができるかは未知数だが、命には代えられない!
「駄目だ。1週間以内に全額を用意しろ。できなければ予定通り首を撥ねる」
取調官は冷たく吐き捨てると、鉄格子をガシャンと鳴らして去っていった。1週間で5000万円。絶対に不可能な条件。俺の死刑は完全に確定した。あまりの絶望と恐怖に、俺の脳の許容量は限界を超えた。そこからの記憶は一切ない。俺は泡を吹くようにして意識を失ったのだった。
そして。
「おい、起きろ。釈放だ」
次に目を覚ました時、俺はなぜか、警備署の外の眩しい日差しの中に放り出されていたのだった。




