クエスト達成
やっぱり、一筋縄ではいかない。イケメンの一言と、ブサメンの一言では重みが違うのだ。相手に伝わるイメージも、許容されるラインもまったく違う。それは現実世界でも痛いほど実感してきた残酷な事実だった。だから、プラタを責める気はない。彼女は美の頂点に君臨するエルフ族だ。悪気があって俺を嫌悪しているわけではないのだろう。ガマガエル顔の俺と常に一緒に行動するのが、生理的に無理なのは当然なのだ。
「必要な時だけパーティーを組む」だが、それは俺にとっても最低限の合格ラインだ。俺だって彼女をこの世界で生き抜くための手札として利用するためにここへ来たのだから。パートナーとしての信頼を得るには茨の道になるだろうが、俺は彼女が欲しがっているB級魔法のありかを知っている。彼女の力が必要な時は、その手札を利用させてもらうつもりだ。
「ふにゃ〜……っ! や、やっと脱出できたっす……」
天井からスポンッと抜け出したクロエが、俺の隣に猫のようにすり寄ってきた。
「……プラタ、君の提案(不定期のパーティー組み)で構わない。だが、俺は君のために2冊もの魔導書を見つけ、その実験台にもなった。その対価が「必要な時だけパーティーを組む」のでは、少々割に合わないとは思わないか?」
「……醜いモルモットちゃん。見た目だけでなく心まで浅ましいのね。まあいいわ、1つだけなら今すぐ協力してあげてもいいわよ」
「助かる。俺たちはこの地下倉庫の掃除依頼でここに来たんだ。プラタの魔法で、ここを元の綺麗な状態に戻してほしい」
この広大すぎる地下倉庫をクロエと2人で、手作業で片付けるには2週間は必要だ。だが、天才魔法士であるプラタの魔法なら、一瞬で片付けることが可能なのだ。
「……」
プラタは眉をひそめ、真剣な表情で考え込んだ。
「キャハハハハハ! 君は頭がおかしいのかしら!? これほどまでに完璧に整理整頓された空間を片付けろだなんて、ちゃんちゃらおかしいわ!」
プラタにとっては、足の踏み場もなく散乱した古書、倒れた本棚、灰の積もった床こそが、最も美しく心地よい至高の空間なのだ。
「よく聞くっす、残念エルフ! 誰がどう見てもこの場所は足の踏み場もない荒れ地っす! 片付いている場所なんて1箇所もないっすよ!」
クロエが呆れ果てた顔で突っ込む。
「野蛮な獣人にはこの理路整然とした空間の美的センスが理解できないようね」
「お前が残念エルフって呼ばれる理由はそこっす! 魔法のセンスといい、頭のセンスといい、本当に救いようがないっすね!」
「……余をバカにしているのかい?」
瞬間、プラタの美貌が鬼のように歪んだ。氷のように冷たく、殺気に満ちた恐ろしい表情。だが、そんな恐怖の顔ですら神々しいほど美しく思えてしまう自分に対し、(あ、俺って重度のドMなのかも……)と自覚するのは、もう少し先の話である。
「美しい……」
思わず漏れ出た俺の呟き。全身の皮膚がぞくぞくとするような快感が走る。ゲームでは、ここまで本気で怒る状況はなかった。あまりのリアリティと迫力に、俺は彼女の激怒した顔に見惚れてしまっていた。……幸いにも、2人の罵倒合戦の熱気で俺の呟きは聞こえていなかったようだが。
「ガマちゃん、助けてっす……! 助けてっすぅぅぅ……っ!」
激化するバトル。最強の格闘家・クロエと、最強の魔法使い・プラタ。勝者となったのはプラタだった。あらゆる攻撃魔法をその拳と脚で打ち消してきた拳皇クロエだったが、プラタが放ったB級魔法【モイスト・ボトム】によって崩れ去ったのだ。
【モイスト・ボトム《不快の濡れ衣》】、それは、対象が履いている靴下を『雨の日に深めの水たまりを踏んでしまった直後の、あのじっとりと濡れた最悪の不快感』へと変換する魔法である。足元の異常な不快感と気持ち悪さに耐えかねたクロエは、自慢のフットワークを完全に封じられ、涙目で悶絶して敗北したのだった。
戦闘には敗れたクロエ。しかし、二人の激戦の余波によって、散乱していた大量の雑書や朽ちかけた本棚は綺麗さっぱり灰となり、地下倉庫は一瞬で何もない綺麗な空間へと変貌を遂げていた。まさに……戦いに負けて、勝負に勝った瞬間であった。




