第8話:仮面の裏の距離と、王の間
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寮へ戻る道中、キョウノは変身魔法を展開し、その容姿を偽った。
誰にも自分の正体をつかませないためだ。
そのままラオと共に食堂に入り、並んで席につく。
二人はまるで何年も前からの親友であるかのように、自然に言葉を交わしていた。
「なあ、キョウノ……俺たち、昔から知り合いだったような気がしないか?」
ラオが不意にそう呟いた。
「ああ……僕もそう思っていたところだ、ラオ」
「じゃあ……考えていることも同じか?」
「ああ」
二人は一瞬、互いを冷ややかな目で見つめ合った。
静寂が場を支配した次の瞬間、二人は声を揃えて叫んだ。
「オムレツのおかわり、お願いします!」
照れくさそうに笑いながら、二人は再び席に腰を下ろした。
食堂を後にし、別れ道を前にした時——二人の表情から温もりが消えた。
キョウノの顔は元の冷酷なそれへと戻り、ラオの瞳にも底知れぬ冷気が宿る。
(……なぜこれほどまでに親密さを感じるのか? なぜ共にいる時だけ明るくなれるのか? そしてなぜ、別れた瞬間にこれほど胸が冷え込むのか……?)
そこには、未だ明かされぬ巨大な秘密が眠っていた。
翌朝。
キョウノは単身、国王の居城へと向かった。
学園、そして王都全体が異常な熱気に包まれていた。
数えきれないほどの魔導士が配置され、警戒警報の魔導鐘がけたたましく鳴り響く。
「ヒ、ヒノカグツチだ! 炎獄が侵入したぞーッ!」
兵士たちの悲鳴が交錯する中、キョウノはただ静かに、悠然と歩を進めた。
彼に向けられたあらゆる攻撃魔法は、その肌に触れることすら叶わず霧散していく。
やがて、重厚な扉の先——王の間へとたどり着いた。
玉座に座る国王は、冷ややかな視線でキョウノを見下ろしていた。
二人はしばらくの間、無言で視線を交わす。
突然、国王が嘲笑を浮かべた。
「見ただろう、キョウノ。我が兵も民も、どれほど臆病か。たかが15歳の少年に過ぎぬお前ひとりのために、国中を封鎖するとはな」
キョウノはそれを聞き、長く、心地よさそうにクスクスと笑った。
しかし次の瞬間、その笑みは一凍させられ、氷のように冷たい表情へと変わる。
「臆病……いいえ、彼らは賢明なのです。そして——一番の臆病者はあなただ、国王陛下。その『宇宙のエメラルド』の陰に隠れているのですから」
国王の顔が凍りついた。
(……なぜだ!? 15分間だけあらゆる絶対攻撃を防ぎ、脱出の時間を稼ぐ古代の秘宝……! まだ炎獄の力を完全に掌握していないはずの子供が、なぜこの存在に気づいている……!?)
キョウノは冷ややかに続けた。
「安心してください。僕はただ、学園への復帰の許可をいただきに来ただけです」
国王は戦慄を隠しきれないまま、しわがれた声を絞り出した。
「……好きにするがよい。ただし条件がある。国を出ることは許さん。もし外へ出るならば、他国の王たちに察知されぬよう変装せよ」
「構いませんよ。あなたの仰る通りに」
キョウノは踵を返し、歩き出した。
アンド——ふと足を止め、首だけを国王の方へと向けた。
その瞬間、キョウノの紅蓮の瞳が大きく見開かれ、眩い閃光を放つ!
——バシィィィンッ!!
一瞬にして、絶対の防御を誇る「宇宙のエメラルド」が粉々に砕け散った。
同時に、周囲を囲んでいた近衛兵たちの武器や展開されていた防衛魔法陣が、跡形もなく弾け飛ぶ。
静寂の中、キョウノは背越しに言い放った。
「その玉座、奪うことなど造作もない……ですが、僕にはそんな価値もないゴミに興味はありません」
キョウノは一度も振り返ることなく、静かに王の間を後にした。
――(つづく)――




