↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された公爵令嬢は、完璧であることをやめました  作者: 月影 すずり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/128

第9話 公開断罪

 王立学院大講堂。その敷居をまたいだ瞬間に、私は悟った。逃げ場など、最初から用意されていない。


 高い天井、整然と並ぶ座席、そして無数の視線。生徒、教師、貴族、教会の関係者。ここに集えるだけの“正しき人々”が、私一人を見下ろしていた。


 私が中央に立たされると、ざわめきが波を引くように止んだ。代わりに広がるのは、期待と好奇と、ほんの少しの正義感。それが混ざり合った、生温い熱だ。


「……アルテミシア=フォン=ルーヴェン」


 名を呼ばれ、一歩前へ出る。


「はい」


 声は、震えなかった。


 壇上には王太子レオナルト=ルミナス。その隣に学院長、さらに奥には聖教会の枢機卿。役者は、揃っている。


「本日は」


 学院長が、厳かに口を開いた。


「王太子殿下の婚約者、アルテミシア=フォン=ルーヴェンに関する数々の訴えについて、確認を行う」


 確認、という言葉に、内心で苦く笑った。確認するも何も、結論はとうに出ている。


「まず第一に、平民特待生エリナ=ミルフォードに対する、度重なる精神的圧迫」


 空気が、ざわりと揺れる。


「第二に、魔法実習における不適切な叱責。第三に、王太子殿下の名誉を損なう行為」


 名誉。その一語に、思わず奥歯を噛んだ。どれも、事実の一部だけを切り取って並べた罪状だった。


「以上について、弁明はありますか」


 その問いが形だけのものであることは、誰の目にも明らかだった。私は、ゆっくりと顔を上げる。


「弁明は、ありません」


 どよめきが走った。ほら、やっぱり――そんな声が、あちこちで漏れる。私は構わず続けた。


「私の行動は、すべて規則に基づいたものです。結果として不快に感じた方がいたのなら、それは否定しません」


 視線が、いっそう鋭くなる。


「けれど、それが罪だとは思いません」


 一瞬、講堂が静まり返った。


「アルテミシア」


 レオナルト殿下が、名を呼ぶ。その声には迷いと決意と、そしてわずかな逃げが滲んでいた。


「君は……もう少し、柔らかくなれたはずだ」


 私は、まっすぐ彼を見た。


「殿下。柔らかさで、事故は防げません」


 息を呑む音が、方々から上がる。


「柔らかさで、規則は守れません。私は殿下の婚約者として、正しい選択をしました。……それが、あなたに嫌われる道であっても」


 殿下の顔が、かすかに歪んだ。沈黙が落ちる。そして。


「……よって」


 学院長が、宣告した。


「王太子殿下は、本日をもって、アルテミシア=フォン=ルーヴェンとの婚約を破棄する」


 講堂がどよめく。私はそれを、静かに受け止めた。


「また、公爵家への処分として、彼女は学院を去り、一定期間、王都から離れるものとする」


 追放。その言葉が、たしかに告げられた。


 私はゆっくりと頭を下げる。


「承知しました」


 涙は出なかった。叫びもしなかった。ただ、腹の底で、火のように静かなものが灯った。


 ――ずっと、この役をいつまで演じ続けるのだろうと問うてきた。答えは、今日、彼らの口から出た。もう、演じなくていい。「完璧な悪役令嬢」は、彼らが私に着せた衣装だ。その衣装を、たった今、彼ら自身が剥ぎ取った。


 ならば、拾い直す義理はない。


 私は今日、完璧であることをやめる。他人が決めた“正しさ”の型に、自分を合わせ続けるのを、やめる。ここから先の私は、誰かに与えられた役ではなく、私が選んだ私だ。


 私は悪役令嬢として断罪された。けれどこの場で間違っていたのは、私だけではない。


 講堂を出るとき、誰一人、私に声をかけなかった。ただ一人を除いて。


「……すまない」


 レオナルト殿下の声。私は、振り返らなかった。


「謝罪は、不要です」


 それだけ告げて、歩き出す。背に張りついていた無数の視線が、扉一枚を隔てて、ふっと軽くなった。


 これは終わりではない。断罪された悪役令嬢が、ようやく自分の物語を始める――その、ただの序章にすぎない。

とうとう断罪の場です。

「柔らかさで、事故は防げません」――この一言を書けた瞬間、私はガッツポーズしてしまいました。


追放されてなお背筋の伸びた彼女が、私はどうしようもなく好きです。

衣装を剥がされて、さあ素顔から。


ここまで見届けてくださったあなたに、そっと★を一つ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。