第87話 選べない夜
七日目の朝は、やけに静かだった。
誰も大声を出さない。
誰も走らない。
決定を待つ空気は、
町の動きを鈍らせる。
---
昼を過ぎても、クラウスは現れない。
「来ないのか」
誰かが言う。
---
「来る」
まとめ役の男は短く答える。
その声に、根拠はない。
---
夕刻。
遠くに馬の影が見える。
広場に緊張が走る。
---
クラウスは一人だった。
随員はいない。
巻物だけを持っている。
---
「結論を」
彼は言う。
---
広場に全員が集まる。
息を詰める音が聞こえそうだ。
---
「町単位責任は、前例がありません」
クラウスは淡々と述べる。
---
ざわめき。
---
「ですが」
一拍。
「試験的に、三か月限定で認めます」
---
空気が揺れる。
---
「条件があります」
---
「何だ」
まとめ役が問う。
---
「緊急時の即断権限は、実質代表とみなす」
---
視線が集まる。
---
「その期間中、
連合はあなたを代表として扱う」
---
「三か月後は」
---
「再協議」
---
完全ではない。
だが、拒絶でもない。
---
「そして」
クラウスは続ける。
「防衛要請が出た場合、
即時応答が義務です」
---
「拒否は」
---
「可能」
一拍。
「ただし、連合内での立場は弱くなります」
---
現実的な取引だ。
---
沈黙。
七日間の議論が、
今、一つの形を取る。
---
「受けるか」
誰かが呟く。
---
マルタが言う。
「三か月なら」
一拍。
「守れる」
---
まとめ役の男は、深く息を吸う。
「……受ける」
---
その瞬間、
何かが決まる。
---
クラウスは頷き、巻物を差し出す。
「三か月です」
---
炭が紙を擦る音。
名が書かれる。
---
広場に、安堵と不安が同時に広がる。
---
「これで守られる」
誰かが言う。
---
「これで集中だ」
別の声。
---
私は火のない空を見上げる。
集中は、期間限定。
だが、形はできた。
---
レオンが小さく言う。
「戻らなかったな」
---
「ええ」
---
「だが、借りた」
---
「ええ」
---
三か月。
守るための集中。
壊れないための分散。
両立は、まだ試されていない。
---
夜。
焚き火が灯る。
町はまだ壊れていない。
だが、
三か月後の形は、
誰にも見えていなかった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




