表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された公爵令嬢は、完璧であることをやめました  作者: 月影 すずり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/68

第54話 決断の偏り

 レオンは、

 朝から同じ場所に立っていた。


 広場と水路の分かれ目。

 人が必ず通る場所。


 彼がそこにいる理由は、

 単純だ。


 誰かに呼ばれるからだ。


「……これ、

 どう思いますか」


 声をかけられる。


 住居の配置図。

 少し歪んでいる。


「今は、

 そのままでいい」


 レオンは、

 短く答えた。


 理由は言わない。


 言わなくても、

 相手は納得する。


 次の人。


「炊き出しの量、

 増やした方がいいでしょうか」


「今日は、

 昨日と同じで」


 次。


「水路、

 手を入れます?」


「……様子を見よう」


 声は、

 いつも通り穏やかだ。


 判断も、

 いつも通りだ。


 だが、

 レオンの目は

 少しだけ

 疲れていた。


 それを、

 誰も指摘しない。


 指摘する理由が、

 ないからだ。


 彼は、

 間違っていない。


 昼。


 簡単な食事を取りながら、

 彼は一人になる。


 本当は、

 一人になれる時間は

 ほとんどない。


 だが、

 誰も見ていない隙を

 見つける。


(……多いな)


 頭に浮かんだのは、

 人の顔だ。


 頼られた顔。

 安心した顔。

 待つ顔。


 拒めない。


 拒む理由が、

 見つからない。


「……大丈夫ですか」


 声をかけたのは、

 若い男だった。


 最近来た者。


「顔色、

 少し悪いですよ」


「そうか?」


 レオンは、

 軽く笑う。


「寝不足なだけだ」


 それも、

 嘘ではない。


「無理は、

 しないでください」


「していない」


 即答だった。


 彼の中で、

 これは“無理”ではない。


 役割だ。


 午後。


 小さな判断が、

 積み重なる。


 どれも、

 些細だ。


 だが――

 量が多い。


 判断の数が、

 彼の肩に

 確実に積もっている。


 私は、

 少し離れた場所から

 それを見ていた。


 彼は、

 中心に立つことを

 望んでいない。


 だが、

 立たされている。


 そして――

 降りる理由を

 誰も与えていない。


「……今日は、

 これ以上は

 決めない方がいい」


 夕方、

 彼はそう言った。


 初めて聞く言葉だった。


 一瞬、

 空気が止まる。


「じゃあ……

 どうします?」


 すぐに、

 問いが返る。


 レオンは、

 言葉を探す。


「……今日は、

 そのままで」


 結局、

 いつもの答えに戻る。


 空気は、

 安堵する。


 だが――

 彼の表情だけが、

 硬い。


 夜。


 焚き火のそばで、

 彼は

 しばらく座っていた。


 誰も話しかけない。


 疲れていると

 分かっているからだ。


 それが、

 また一つ

 彼に判断を

 集めている。


(……引き受けすぎている)


 私は、

 そう思った。


 だが、

 彼を責める理由は

 どこにもない。


 彼は、

 逃げていない。


 放棄もしていない。


 ただ――

 一人で受け止めすぎている。


 町は、

 今日も壊れない。


 だが、

 回り方が

 少し歪んでいる。


 決断の偏り。


 それは、

 独裁ではない。


 善意の集中だ。


 レオンは、

 火を見つめながら

 目を閉じた。


 誰かが、

 代わってくれればいい。


 だが――

 その「誰か」が

 誰なのかを

 決めるのも、

 彼になってしまう。


 その矛盾に、

 彼はまだ

 言葉を与えていない。


 私は、

 その場を離れた。


 次に必要なのは、

 対立ではない。


 問いを引き受ける人間が、

 一人でなくなることだ。


 だが、

 それは

 誰かが前に立てば

 解決する話ではない。


 世界は今、

 そこに差しかかっている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ