第41話 正しさは、手放される
連合拠点の朝は、
もう私を中心に回っていない。
会議の予定は、
私の机には届かない。
報告書も、
必要な時だけ共有される。
それで、
何も困らなかった。
中庭を歩く。
以前より人は少ない。
だが、足取りは軽い。
「その案、
急がなくていい」
「失敗したら、
戻せばいい」
そんな言葉が、
自然に交わされている。
正解を急がない空気。
かつて、
最も欠けていたものだ。
私は、
立ち止まらずに歩いた。
誰かに声をかけられることもない。
引き止められることもない。
それが、
少しだけ寂しくて、
とても安心だった。
昼。
簡素な食事を取りながら、
マリアンヌと向かい合う。
「……本当に、
行くのですね」
「ええ」
それ以上、
説明はいらない。
「連合は?」
「回ります」
即答だった。
回らないなら、
そもそも意味がない。
「あなたは」
マリアンヌが、
少し迷ってから聞く。
「これから、
何をするのですか」
私は、
少し考えた。
「……決めていません」
それが、
本当の答えだ。
「必要な場所に行き、
必要なことだけをします」
肩書きも、
役職も、
持たずに。
午後。
拠点の外れで、
最後に地図を見る。
連合の範囲。
離脱した領。
それぞれの色。
どれも、
正しい。
どれも、
不完全だ。
だから、
並び立っている。
門の前。
振り返る。
誰も、
見送っていない。
それでいい。
英雄の退場ではない。
象徴の引退でもない。
ただ――
役割が終わっただけだ。
私は、
一歩外へ踏み出した。
世界は、
何事もなかったように
動いている。
正しさを、
誰かに預けることはない。
だが、
正しさを考えることを、
やめてもいない。
それでいい。
かつて、
完璧であることを
求められた令嬢は、
その役を降りた。
悪役でも、
英雄でもなく。
ただ、
考え続ける人間として。
正しさは、
もう誰のものでもない。
だからこそ、
この世界は、
今日も続いていく。
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