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断罪された公爵令嬢は、完璧であることをやめました  作者: 月影 すずり


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第40話 引き継がれる思想

 連合拠点に、

 以前ほどの人の出入りはない。


 だが、

 動きが止まったわけでもなかった。


 むしろ――

 少し不格好なまま、

 前よりよく動いている。


 朝。


 作業室の前を通りかかると、

 聞き覚えのある声がした。


「その判断は、

 “効率”ではなく

 “回復余地”を優先すべきだ」


「でも、それだと

 数値が下がります」


「下がってもいい」


 若い技術者たちの議論。


 私は、

 足を止めた。


 中を覗くと、

 数人が地図を囲んでいる。


 私の姿に気づいても、

 誰も言葉を止めない。


 それが、

 少しだけ新鮮だった。


「……その考え方、

 誰に教わったの?」


 私は、

 自然に問いかけた。


 一人が、

 首をかしげる。


「教わった……

 というより」


 別の者が、

 続けた。


「記録を読んで」


「連合初期の、

 設計思想です」


 私は、

 思わず息を吐いた。


 “私の考え”ではない。


 “記録に残った思想”だ。


「でも」


 若い技術者が言う。


「正直、

 よく分かりません」


 正直な言葉だった。


「万能じゃないですし、

 正解も書いてない」


「それでも」


 別の者が、

 少し笑う。


「決めつけない、

 という点だけは

 信用できます」


 私は、

 何も言えなかった。


 それで、

 十分だった。


 昼。


 中庭で、

 マリアンヌと話す。


「最近、

 あなたの名前が

 出なくなりましたね」


「ええ」


 私は、

 頷いた。


「質問は、

 設計思想に向けられています」


「人ではなく」


 彼女は、

 少し驚いたように言う。


「……それは」


「理想的です」


 私は、

 はっきり答えた。


 午後。


 連合の簡易会合。


 私は、

 呼ばれていない。


 それでも、

 議論は進む。


 時に迷い、

 時に止まり、

 時に回り道をする。


 だが――

 誰も、

 「アルテミシアなら

 どう言うか」と

 口にしない。


 それが、

 何よりの証明だった。


 夕方。


 一人の若い領主が、

 私を見つけて言った。


「……ありがとうございます」


「何に対して?」


 そう返すと、

 彼は少し困った顔をする。


「……考え方を

 残してくれたことに」


 私は、

 静かに首を振った。


「残したのではありません」


「置いていっただけです」


 使うかどうかは、

 彼らが決める。


 夜。


 部屋で、

 荷物を整理していた。


 古い資料。

 使わなくなった地図。


 その多くを、

 箱に入れる。


 持ち出すつもりはない。


 ここに、

 置いていく。


 思想は、

 所有できない。


 だからこそ、

 引き継がれる。


 私は、

 窓の外を見た。


 灯りは、

 まばらだ。


 だが――

 それぞれの場所で、

 ちゃんと灯っている。


 完璧ではない。


 統一もされていない。


 それでも、

 回っている。


 それなら、

 もう、

 私が前に立つ必要はない。


 正しさは、

 誰かのものではなくなった。


 そして今、

 静かに、手放されている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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