表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された公爵令嬢は、完璧であることをやめました  作者: 月影 すずり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/61

第35話 裁定を求める声

 要請は、

 静かに、しかし確実に増えていった。


 最初は、

 個別の相談だった。


「この判断は、

 連合の思想に沿っていますか?」


「我々の対応は、

 正しかったのでしょうか?」


 どれも、

 “確認”という形をしている。


 だが――

 その本質は、

 同じだった。


 決めてほしい。


 書類の束が、

 机の上に積まれていく。


 私は、

 一つ一つ目を通した。


 判断の経緯。

 数値。

 代替案。


 どれも、

 論理としては破綻していない。


 だからこそ、

 否定できない。


 否定できないから、

 答えも出せない。


「……アルテミシア様」


 マリアンヌが、

 言いにくそうに口を開く。


「最近、

 皆の視線が……」


「分かっています」


 私は、

 視線を上げずに答えた。


 視線は、

 期待だ。


 不安を引き受けてくれる誰かを、

 皆が探している。


 そして――

 都合のいいことに、

 私は“正しかった人間”だ。


 午後。


 臨時の集会が開かれた。


 議題は、

 北部第七領の件。


 再発防止策について。


「今後、

 夜間医療供給を

 どの程度確保すべきか」


 議長が、

 そう切り出す。


 数字が示される。

 効率と安定性のバランス。


 議論は、

 煮詰まっていた。


 そして――

 視線が、

 一斉に私へ向く。


「……あなたは、

 どう思いますか」


 その問いに、

 場が静まり返る。


 私は、

 ゆっくりと息を吸った。


 この瞬間が、

 来ることは分かっていた。


「私は、

 判断しません」


 はっきりと言った。


 ざわめき。


「ですが」


 続ける。


「判断の材料は、

 すべて共有します」


 資料を、

 机の中央に置く。


「夜間対応を維持した場合の負荷」

「縮小した場合のリスク」

「第三の案」


「選ぶのは、

 各領です」


 それは、

 逃げではない。


 私が選び続けてきた、

 一貫した立場だ。


「……それでは、

 責任が分散しすぎます」


 誰かが言った。


「誰も、

 決めきれなくなる」


「ええ」


 私は、

 否定しない。


「だから、

 決める人間が必要だと

 皆さんは思っている」


 視線が、

 さらに集まる。


「ですが」


 私は、

 一歩だけ前に出た。


「それを私が引き受けた瞬間、

 連合は終わります」


 重い沈黙。


「正しさは、

 一人の人間に集めてはいけない」


「集めた瞬間、

 誰かは

 “考えなくてよくなる”」


 それは、

 王都で起きたことだった。


「……では、

 どうすればいいのです」


 疲れ切った声。


 私は、

 その問いを受け止めた。


「悩み続けてください」


 それが、

 唯一の答えだった。


「迷うことを、

 やめないでください」


 完璧な判断はない。


 だからこそ、

 判断を誰かに預けてはいけない。


 集会は、

 重い空気のまま終わった。


 納得は、

 されていない。


 だが――

 反論もなかった。


 それが、

 一番危険だった。


 夜。


 私は、

 一人で廊下を歩いていた。


 背後から、

 小さな声が聞こえる。


「……やはり、

 彼女しかいないのでは」


「でも、

 断られた」


「それでも……」


 私は、

 足を止めなかった。


 振り返らなかった。


 振り返った瞬間、

 私は“裁定者”になる。


 部屋に戻り、

 椅子に腰を下ろす。


 疲労が、

 一気に押し寄せた。


(……次は)


 拒否するだけでは、

 足りない。


 いずれ、

 私はもっとはっきりと

 “拒絶”しなければならない。


 その時、

 連合は分裂する。


 分かっている。


 それでも――

 選ぶしかない。


 誰かの代わりに、

 決めないという選択を。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ