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断罪された公爵令嬢は、完璧であることをやめました  作者: 月影 すずり


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第31話 正しいから、止められない

 連合に、南部第三領の報告が共有されたのは、

 改革開始から一月後だった。


「効率改善、十二パーセント」

「供給安定率、向上」

「住民満足度、変化なし」


 数字は、

 どれも申し分ない。


「素晴らしい成果ですね」


 会議の席で、

 誰かがそう言った。


 否定できる者はいなかった。


 問題は、

 その翌週から始まった。


 北部第七領。

 西部第二領。

 沿岸部の小領。


 次々と、

 似た内容の照会が届く。


「南部第三領と同様の改革を検討している」

「連合の設計思想に沿っているか確認したい」

「効率改善の目安を教えてほしい」


 誰も、

 命令を求めてはいない。


 ただ、

 基準を欲しがっている。


「……流れが、早すぎます」


 マリアンヌが、

 書類の束を見ながら言った。


「ええ」


 私は、

 それを否定しなかった。


「成功例が出ると、

 皆、真似をしたくなる」


「それは、

 悪いことでは……」


「ありません」


 私は、即答する。


「ただし」


 言葉を切り、

 続けた。


「“なぜそうしたか”より、

 “結果がどうだったか”だけが

 共有され始めています」


 会議室に、

 短い沈黙が落ちた。


 数日後。


 西部第二領の代表が訪れた。


「我々も、

 補助役の再編を進めました」


 彼は、

 悪びれずに言う。


「南部の成功例を、

 参考に」


「どの部分を?」


 私が尋ねると、

 彼は、少し考えてから答えた。


「……効率の部分を」


 それが、

 すべてだった。


 背景。

 条件。

 土地柄。


 そうしたものは、

 削ぎ落とされていた。


 会議後。


 私は、

 廊下で立ち止まった。


(……空気になっている)


 連合の思想が。


 誰も強制していない。

 誰も命令していない。


 だが――

 「そうするのが正しい」という

 雰囲気だけが、

 広がっている。


 かつての王都と、

 よく似た現象。


 違うのは、

 誰が中心にいるか、ではない。


 中心が“見えない”ことだ。


 夜。


 作業室で、

 私は地図を広げていた。


 各領の改革状況を示す印が、

 少しずつ増えている。


 赤でも、

 青でもない。


 中間色。


 判断が、

 似通い始めている証拠。


「……止めるべきか」


 誰に聞くでもなく、

 呟く。


 だが、

 止める理由がない。


 数字は、

 悪くない。


 住民も、

 今のところ困っていない。


 正しい。


 だからこそ、

 止められない。


 翌日。


 連合の掲示板に、

 一枚の紙が貼られていた。


『連合推奨:循環効率改善モデル』


 誰が貼ったのかは、

 分からない。


 公式文書でもない。


 だが、

 その言葉は、

 強かった。


「……推奨?」


 マリアンヌが、

 小さく声を落とす。


「誰が、

 そんな言葉を……」


「誰でも、です」


 私は、静かに答えた。


「“正しい”と

 信じた人間なら」


 紙を、

 剥がすことはできる。


 だが――

 剥がしても、

 空気は残る。


 むしろ、

 剥がした瞬間から、

 「なぜ剥がしたのか」が

 問われ始める。


 それこそが、

 空気の力だった。


 私は、

 紙をそのままにした。


 そして、

 思った。


(……次に来るのは)


 事故か。

 対立か。

 それとも、

 沈黙か。


 いずれにせよ、

 この流れは、

 もう止まらない。


 正しいから。

 皆、善意だから。


 だからこそ――

 誰も、止め役になれない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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