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断罪された公爵令嬢は、完璧であることをやめました  作者: 月影 すずり


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第29話 善意の再現実験

 南部第三領は、穏やかな土地だった。


 肥沃な土壌。

 過不足のない魔力循環。

 住民の数も、管理しやすい。


「理想的な実験場です」


 領主代理の言葉に、

 私は曖昧に頷いた。


 実験場。


 その表現自体が、

 すでに歪みの兆しだった。


 改革は、静かに始まった。


 循環網の再配分。

 供給時間の最適化。

 補助役の再編。


 すべて、

 連合の設計思想に基づいている。


 無理は、ない。

 数字も、正しい。


「魔力効率、

 前年比で十二パーセント改善です」


 報告書を差し出す若者は、

 誇らしげだった。


「灯りの停止は?」


「ありません」


「医療供給は?」


「安定しています」


 完璧に見えた。


 誰も困っていない。

 少なくとも、

 表向きは。


 私は、

 領内を歩いた。


 市場。

 工房。

 水路。


 以前と、

 何も変わらない。


「改革の影響は?」


 商人に尋ねると、

 彼は笑った。


「むしろ、楽になりましたよ」


「無駄が減った」


「仕事が早くなった」


 不満は、聞こえない。


 それが、

 一番不安だった。


 領主館に戻ると、

 小さな会議が開かれた。


「補助役の数を減らした件ですが」


 私は、話を切り出す。


「再配置ではなく、

 “整理”を選んだ理由は?」


 領主代理は、

 迷いなく答えた。


「効率です」


 即答だった。


「彼らの仕事は、

 重複が多かった」


「一部は、

 なくても回ります」


 その通りだ。


 数字上は。


「再教育や、

 別職への斡旋は?」


「希望者のみです」


 つまり――

 選ばれなかった者は、

 自然に外れる。


 強制ではない。

 だから、問題にならない。


「……不満は出ていませんか」


 私は、もう一度確認した。


「今のところは」


 領主代理は、

 自信を持って言った。


 夕方。


 郊外の道を歩いていると、

 一人の女性が、

 川辺に座っていた。


 作業着。

 年齢は、三十代半ば。


「……失礼」


 声をかけると、

 彼女は驚いたように顔を上げた。


「補助役を、

 されていた方ですか」


 一瞬の沈黙。


 それが、

 答えだった。


「……ええ」


 彼女は、

 視線を川に戻す。


「改革で、

 仕事が減ったんです」


 減った。

 なくなった、ではない。


「今は?」


「手伝いを、少し」


 曖昧な言葉。


「生活は?」


 少しだけ、

 間を置いてから。


「……なんとかなります」


 そう言って、

 彼女は笑った。


 その笑みは、

 どこか薄かった。


 夜。


 宿で、

 報告書をまとめる。


 成果。

 改善。

 問題なし。


 書類上は、

 完璧だ。


(……王都の時も)


 最初は、

 同じだった。


 誰も、

 声を上げなかった。


 上げる理由が、

 なかったから。


 私は、

 ペンを止めた。


 この改革を、

 止める理由はない。


 だが――

 正しいと、

 言い切ることもできない。


 連合の思想は、

 再現された。


 善意によって。

 合理性によって。


 そして今、

 誰も悪くないまま、

 誰かが外れ始めている。


 私は、窓の外を見た。


 灯りは、

 今日も安定している。


 だが。


 その下で、

 何が削られたのかは、

 数字には出ない。


 正しさは、

 静かに広がる。


 そして、

 静かに、

 誰かを置いていく。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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