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断罪された公爵令嬢は、完璧であることをやめました  作者: 月影 すずり


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第26話 新しい役割

 朝の光が、連合拠点の中庭を満たしていた。


 王都のそれとは違い、

 どこか柔らかく、

 人の生活に寄り添う光。


 私は、その光の中を歩いていた。


「……おはようございます」


 控えめな声に、足を止める。


 振り返ると、

 エリナ=ミルフォードが立っていた。


 顔色は、まだ万全ではない。

 だが――

 あの頃の、張り詰めた雰囲気はない。


「おはよう」


 私は、そう返した。


 それだけで、

 彼女は、ほっとしたように息を吐いた。


 沈黙が落ちる。


 気まずさではない。

 どう言葉を選ぶべきか、

 互いに分かっているからこその間。


「……助けていただいて、

 ありがとうございました」


 エリナは、深く頭を下げた。


 私は、すぐに言った。


「いいえ」


 そして、はっきりと続ける。


「あなたは、

 自分で助けを求めました」


 その事実は、

 何よりも重要だった。


 エリナは、驚いたように目を見開き、

 やがて、小さく頷いた。


「……はい」


 その声は、

 もう“聖女”のものではない。


「これからは」


 彼女は、少しだけ視線を落とす。


「どう生きれば、

 いいのでしょうか」


 私は、少し考えてから答えた。


「選びながら、です」


 答えとしては、

 あまりに簡単だ。


 けれど。


「力を使うか、使わないか。

 留まるか、去るか」


「誰かのために生きるか、

 自分のために生きるか」


 エリナを見て、

 静かに言った。


「それを、

 他人に決めさせない」


 彼女の目に、

 涙が浮かぶ。


 だが、

 それは崩れる涙ではなかった。


「……はい」


 その返事に、

 私は微笑んだ。


 それで、十分だ。


 午後。


 連合の定例会議。


 議題は、

 次期運営体制について。


「代表を立てるべきでは?」


 誰かが言う。


「対外的な窓口が必要だ」


 視線が、

 自然と私に集まる。


 ――予想していた。


 私は、首を横に振った。


「私は、

 表に立ちません」


 ざわめきが起きる。


「理由は?」


 私は、即答した。


「誰かが正しいことを言った時、

 それが“その人の力”ではなく

 “私の権威”で通るようになるからです」


 静まり返る。


「それは、

 同じ構造を、

 別の形で作るだけ」


 連合は、

 そういう場所ではない。


「私は、

 設計と調整をします」


「判断は、

 各領が行う」


 それが、

 最初に掲げた理念だった。


 しばらくの沈黙の後、

 誰かが言った。


「……分かりました」


 納得ではなく、

 理解。


 それでいい。


 夕方。


 私は、一人で作業室にいた。


 地図。

 数式。

 循環図。


 誰もが見れば、

 退屈な紙の束。


 だが――

 これが、世界を壊さずに支える方法だ。


(……やっと)


 私は、椅子にもたれた。


(役目を、降りられた)


 王太子の婚約者。

 完璧な公爵令嬢。

 悪役令嬢。


 どれも、

 私が選んだ役ではない。


 今、私は――

 ただの、

 判断する人間だ。


 窓の外で、

 人々が行き交う。


 誰も、

 私の名を呼ばない。


 それで、いい。


 それこそが、

 私の選んだ居場所。


 完璧であることをやめた令嬢は、

 もう、

 物語の中心には立たない。


 だが――

 世界は、

 確かに、

 回り始めている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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