第24話 王都の崩壊
異変は、朝の鐘が鳴る前に始まった。
王都中央区。
魔力灯の光が、一斉に揺らぐ。
「……消えた?」
誰かの声。
次の瞬間、
街路を照らしていた灯りが、
音もなく落ちた。
闇。
それは、
王都ではありえないものだった。
「結界の出力が、下がっています!」
観測塔から、
慌ただしい報告が飛ぶ。
「主流路が……逆流しています!」
王城内でも、
騒然とした空気が広がっていた。
魔力供給室。
本来なら安定して脈打つはずの結晶が、
不規則に明滅している。
「聖女は?」
誰かが叫ぶ。
「……不在です」
その一言で、
すべてが理解された。
――支えが、消えた。
王都は、
聖女を前提とした構造だった。
それ以外の可能性を、
切り捨て続けてきた。
「応急措置を!」
「代替供給は!?」
「……ありません!」
声が、重なる。
だが、
どれも遅すぎた。
主流魔力路は、
聖女の存在を前提に最適化されている。
抜けた瞬間、
全体が歪む。
――止められない。
街では、
次々と問題が起きていた。
水路が止まり、
昇降魔法陣が沈黙する。
治癒施設では、
術式が不安定化し、
治療が中断された。
「どうして……」
民衆の声に、
怒りはなかった。
あるのは、
戸惑いと恐怖だけ。
奇跡が、
当たり前だったから。
王城・執務室。
レオナルト=ルミナスは、
机に手をつき、
報告を聞いていた。
「結界、第三層まで低下」
「主流路、再構築不能」
「聖女の行方、依然不明」
一つ一つが、
致命的だった。
だが、
彼は理解している。
(……これは)
事故ではない。
反乱でもない。
ただの、
構造の破綻。
選び続けた結果。
「……民への告知を」
低く、命じる。
「奇跡は、
永遠ではないと」
側近が、
息を呑んだ。
それは、
王都が初めて、
自らの嘘を認める行為だった。
だが――
もう、隠しきれない。
レオナルトは、
窓の外を見た。
かつて誇った街並みが、
闇に沈んでいる。
(アルテミシア)
名を呼んでも、
答えはない。
彼女は、
この崩壊を望んだわけではない。
ただ、
見て見ぬふりをしなかった。
それだけだ。
(……私は)
選ばなかった。
正しさを、
選ばなかった。
その代償が、
今、街全体に現れている。
一方、辺境。
連合拠点では、
循環網が静かに稼働していた。
灯りは落ちない。
水も止まらない。
完璧ではないが、
壊れない。
「……王都、崩れ始めました」
報告を受け、
私は目を閉じた。
(……来たか)
胸に浮かんだのは、
勝利感ではない。
哀しみでもない。
ただ、
当然の帰結。
「救済準備を」
静かに、指示する。
「ただし、
王都主導ではありません」
それだけは、
絶対に譲らない。
誰かが、
小さく頷いた。
連合は、
王都を滅ぼすためにあるのではない。
壊れる構造に、
加担しないためにある。
夜明け。
王都の空に、
不安定な光が揺れた。
かつての奇跡は、
もう、戻らない。
だが――
世界は、終わらない。
壊れたのは、
王都ではない。
壊れていた構造が、
ようやく形を現しただけだった。
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