第21話 条件付きの救済
連合会議は、夜明け前に始まった。
石造りの簡素な会議室。
豪奢な調度品も、格式ばった装飾もない。
あるのは、地図と、数字と、
そして――覚悟だけ。
「王都から、正式な要請は?」
私の問いに、
カイル=ヴァルディスが首を横に振った。
「ない」
短い答え。
「だが、聖女が限界だという情報は、
間違いなく王都にも届いている」
空気が、重くなる。
誰も、
聖女を見捨てたいわけではない。
だが同時に、
王都のやり方に戻る気もない。
「……助ける方法はある」
私は、はっきりと言った。
視線が集まる。
「ただし、無条件ではありません」
誰も驚かなかった。
それが、
ここに集まっている者たちの共通認識だったからだ。
「第一条件」
私は、指を一本立てる。
「聖女を、
国家資源として扱う制度を廃止すること」
誰かが、息を呑む。
「彼女は、人です。
装置ではありません」
沈黙。
反論は、出なかった。
「第二条件」
指を、もう一本。
「王都主導の主流魔力路を、
即時縮小・再編すること」
「それは……」
誰かが言いかけて、
言葉を飲み込んだ。
「分かっています」
私は、先に言う。
「王都は、不安定になります」
だが――
「すでに、
安定している“ふり”をしているだけです」
数字を、机に並べる。
観測値。
限界値。
歪みの累積。
「第三条件」
最後の指を立てる。
「聖女本人の意思を、
最優先とすること」
その瞬間、
空気が、はっきりと変わった。
「それは……」
「最も、受け入れがたい条件でしょう」
私は、静かに言った。
「だからこそ、
必要です」
王都は、
これまで一度も、
彼女に選ばせなかった。
その沈黙の上に、
今の歪みがある。
「……もし、王都が拒否したら?」
誰かが、問いかける。
私は、即答した。
「救済は行いません」
冷たい言葉。
だが、
誰もそれを非難しなかった。
それは、
復讐ではない。
線引きだ。
「私たちは、
誰かを壊す仕組みに、
手を貸さない」
カイルが、低く言った。
「それが、
連合の方針だ」
全員が、頷いた。
その時。
「……王都から、
非公式の伝令です」
伝令役が、
息を切らして入ってくる。
「聖女の状態が、
さらに悪化していると」
胸の奥が、静かに軋んだ。
(……時間がない)
だが。
だからといって、
条件を曲げることはない。
「返答は?」
私が尋ねる。
伝令は、首を振った。
「……ありません」
私は、目を閉じた。
そして、
はっきりと言った。
「では、
こちらからは動きません」
それは、
冷酷な判断に見えるだろう。
だが。
ここで折れれば、
また同じことが繰り返される。
誰かが壊れ、
誰かが守った“ふり”をして、
何も変わらない。
会議が終わり、
皆が席を立つ。
最後に、
カイルが私に言った。
「……覚悟はいいか」
私は、窓の外を見た。
夜明けの光が、
地平線を染め始めている。
「はい」
静かに、答える。
「救うために、
見捨てる覚悟なら」
その言葉に、
誰も何も言わなかった。
それでいい。
悪役令嬢と呼ばれた私は、
今もなお、
嫌われる選択をする役目を引き受けている。
だが、違う。
今度は――
誰かに押しつけられた役ではない。
私自身が、選んだ役だ。
王都は、
これから決断する。
人を救うために、
仕組みを壊すか。
それとも、
仕組みを守るために、
人を壊すか。
その答え次第で、
世界は、
本当に変わる。
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