表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された公爵令嬢は、完璧であることをやめました  作者: 月影 すずり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/61

第20話 助けを求める手

 王城の夜は、静かすぎた。


 昼間の混乱が嘘のように、

 回廊には人影もなく、

 灯りだけが規則正しく並んでいる。


 エリナ=ミルフォードは、

 寝台の上で天井を見つめていた。


 医師の言葉が、

 何度も頭の中で反響する。


――次は、身体が持たない可能性が高い。


(……それでも)


 王都は、止まらない。


 止まれない。


 聖女がいるから。

 聖女が、すべてを背負っているから。


 シーツを握る指先が、震えた。


(……私は)


 このまま、

 壊れるまで使われる。


 悪意はない。

 誰も「壊せ」とは言っていない。


 ただ、

 止める人がいないだけだ。


 ――あの人なら。


 アルテミシア=フォン=ルーヴェン。


 あの冷静な声。

 あの迷いのない判断。


 守られていると、

 ずっと勘違いしていた。


 実際には、

 止められていたのだと、

 今になって分かる。


 エリナは、

 ゆっくりと上半身を起こした。


 部屋の隅に置かれた、小さな机。


 その引き出しを開けると、

 一枚の紙が出てきた。


 王立学院で使っていた、

 何の変哲もない便箋。


 だが、

 これだけは、

 誰の管理下にもなかった。


 ペンを取る手が、震える。


 何を書けばいいのか、

 分からない。


(……助けて)


 その一言で、

 十分だった。


 だが――

 それを、

 王都に出してはいけない。


 エリナは、

 紙を折りたたみ、

 封をした。


 宛名は、書かない。


 代わりに、

 小さな印をつけた。


 学院時代、

 アルテミシアがよく使っていた

 簡略記号。


 ――規則番号の略。


 それだけで、

 誰に向けたものか、

 分かる人には分かる。


 深夜。


 エリナは、

 信頼できる唯一の人物を呼んだ。


「……これを」


 侍女は、驚いた顔で紙を受け取る。


「聖女様、

 これは……」


「王都の外へ」


 エリナは、はっきりと言った。


「王都の管理網を、

 通さずに」


 侍女は、息を呑んだ。


 それが、

 どれほど危険なことか、

 理解している。


 だが――

 彼女は、頷いた。


「……承知しました」


 扉が閉まる。


 エリナは、

 力が抜けたように、

 再び寝台に倒れ込んだ。


(……選んだ)


 初めて、

 自分で選んだ。


 守られる側ではなく、

 助けを求める側として。


 一方、辺境。


 連合の仮設拠点では、

 夜遅くまで灯りが消えていなかった。


 私は、

 循環網の数値を確認していた。


 安定している。

 予想以上に。


(……これなら)


 王都がなくても、

 地方は生きられる。


 その確信が、

 数字として現れていた。


 その時。


「アルテミシア様」


 マリアンヌが、

 静かに声をかける。


「至急の連絡です」


 差し出されたのは、

 小さな封書。


 王都の正式な印章はない。

 だが――


 私は、一目で分かった。


(……これは)


 封を切る。


 中には、

 短い文。


 たった、一行。


『――助けて』


 それだけ。


 けれど。


 紙の端に描かれた、

 あの簡略記号。


 ――規則番号。


 胸の奥が、

 静かに、

 だが確実に熱を帯びた。


(……ようやく)


 私は、

 目を閉じた。


 怒りはない。

 驚きもない。


 ただ――

 来るべきものが、来た。


「マリアンヌ」


 私は、顔を上げる。


「連合会議を招集してください」


「聖女が、

 限界です」


 それは、

 救済の始まりであり、

 同時に――

 王都の支配が、

 決定的に崩れる合図でもあった。


 私は、

 静かに言った。


「……もう、

 誰も壊させない」


 悪役令嬢と呼ばれた女は、

 今度は――

 助ける側として、

 世界の前に立つ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ