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断罪された公爵令嬢は、完璧であることをやめました  作者: 月影 すずり


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第19話 聖女の限界

 祈りの言葉を、エリナは途中で忘れた。


 聖堂に集められた光。

 王都中から引き寄せられる魔力。

 それらが、一斉に彼女の中へ流れ込む。


(……多すぎる)


 身体が、悲鳴を上げていた。


 これまで感じたことのない圧迫感。

 胸の奥が、ぎしぎしと軋む。


「聖女様、集中を」


 司祭の声が遠い。


「もう少しです。

 王都の安定のために」


 ――また、その言葉。


 王都のため。

 皆のため。

 希望のため。


(……私は)


 自分の呼吸が、分からなくなる。


 光が、揺らいだ。


「……っ!」


 膝が、崩れ落ちる。


 次の瞬間、

 聖堂に張り巡らされていた魔法陣が、

 一斉に歪んだ。


「なっ……!」


「制御値が、限界を超えています!」


 慌てる声。

 ざわめき。


 エリナの視界が、白く染まる。


 ――暴走。


 その言葉が、はっきりと浮かんだ。


(やだ……)


 やめて。

 止めて。


 誰か――


 その瞬間、

 ある声が、はっきりと蘇った。


『事前申告をしなかったのは、重大な規則違反です』


 冷たい。

 けれど、迷いのない声。


『あなたは、周囲を危険に晒しました』


(……違う)


 違わない。


 あの人は、

 私を止めようとしていた。


 光が、弾けた。


 聖堂の柱に、亀裂が走る。


「結界を!」


「聖女様から、距離を取れ!」


 誰も、彼女に近づけない。


 守っているつもりで、

 誰も、手を伸ばさない。


(……助けて)


 初めて、

 心からそう思った。


 だが。


 その言葉を、

 口に出すことはできなかった。


 聖女は、

 弱音を吐いてはいけないから。


 次の瞬間。


 ――光が、途切れた。


 すべての魔法陣が、沈黙する。


 エリナは、その場に倒れ伏した。


 聖堂に、重い静寂が落ちる。


「……聖女様?」


 司祭が、恐る恐る近づく。


 返事はない。


 王城中に、緊急の鐘が鳴り響いた。


 目を覚ましたとき、

 天井が見えた。


 見慣れない、

 けれど、やけに無機質な天井。


「……ここは……」


 声が、掠れる。


「医務室です」


 低く、落ち着いた声。


 視線を動かすと、

 王都の医師が立っていた。


「聖女様は、

 魔力過負荷による失神状態でした」


 失神。


 その言葉に、

 胸が冷える。


「……また、できますか」


 無意識に、

 そう聞いていた。


 医師は、少しだけ沈黙し、

 そして答えた。


「可能です」


 エリナの心が、沈む。


「ですが――」


 医師は、はっきりと言った。


「次は、

 身体が持たない可能性が高い」


 その言葉が、

 刃のように胸に刺さる。


(……壊れる)


 私、壊れる。


 それでも。


「……王都は……?」


 震える声で、尋ねる。


「聖女様が止まれば、

 魔力供給は不安定になります」


 医師は、視線を逸らした。


「代替は……ありません」


 代替はない。


 つまり――

 私しかいない。


 エリナは、目を閉じた。


 胸の奥に、

 恐怖と、後悔が渦巻く。


(……あの人がいたら)


 アルテミシアが、ここにいたら。


 きっと、

 止めただろう。


 誰が何と言おうと、

 規則を盾に。


 結果を盾に。


 ――壊れる前に。


 涙が、頬を伝った。


 初めて流す、

 誰にも見せない涙。


 その夜。


 王都の魔力観測値が、

 大きく揺れた。


 そして同時に。


 辺境連合の循環網が、

 初めて“王都不在”の状態で、

 安定稼働を記録した。


 皮肉なほど、

 はっきりとした対比。


 エリナは、震える手で、

 シーツを握りしめた。


(……助けて)


 今度は、

 心の中で、

 はっきりと名前を呼んだ。


(アルテミシア様)


 だが。


 その声が届くかどうかは、

 王都ではなく、

 彼女自身が選ぶ番だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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