表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された公爵令嬢は、完璧であることをやめました  作者: 月影 すずり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/62

第15話 王太子の後悔

 書類に目を落としているはずなのに、

 文字が、まったく頭に入ってこなかった。


 ――まただ。


 レオナルト=ルミナスは、静かに息を吐いた。


 王太子としての執務は、何一つ滞っていない。

 判断も、命令も、処理も、すべて順調だ。


 それなのに。


(なぜだ……)


 胸の奥に、重いものが沈んだまま、動かない。


「殿下」


 側近の声に、顔を上げる。


「辺境伯領の件ですが……」


 その言葉を聞いた瞬間、

 胸が、はっきりと痛んだ。


「……アルテミシアの件か」


 側近は、わずかに言葉を詰まらせた。


「はい」


 返答を待たず、レオナルトは立ち上がった。


 窓辺に立つ。

 王都の街が、眼下に広がっている。


 ――完璧だった。


 彼女は、いつも。


 規則を覚え、

 先を読み、

 感情よりも結果を選んだ。


(それが、嫌だった)


 自覚した瞬間、

 レオナルトは目を閉じた。


 アルテミシアは、

 正しかった。


 それを、彼はずっと分かっていた。


 だが――

 彼女が正しいほど、

 自分が選ばなければならない場面が増える。


 誰かを不快にさせる決断。

 誰かを守らない選択。


 それを、

 彼女がすべて引き受けていた。


(私は……)


 楽な方を選んだ。


 場を和ませ、

 誰も泣かせず、

 「優しい王太子」でいることを。


 その結果、

 彼女一人が、悪役になった。


 断罪の日の光景が、脳裏に蘇る。


 彼女は、泣かなかった。

 叫ばなかった。

 言い訳もしなかった。


 ただ、

 一歩も引かなかった。


(あれが……)


 あれが、

 支えるべき人間だった。


 側近が、静かに言った。


「殿下。

 辺境伯領の魔力循環は、

 アルテミシア様の調整によるものだと」


 レオナルトは、苦く笑った。


「そうだろうな」


 王都が、

 彼女を切り捨てた理由。


 ――気づいてしまったからだ。


 歪みに。

 都合の悪い真実に。


(私は……)


 彼女を守れたはずだった。


 あの時、

 学院で。

 実習場で。

 講堂で。


 一言でも、

 彼女の隣に立てばよかった。


「殿下」


 側近が、ためらいがちに言う。


「もし……

 もし、今からでも、

 正式に謝罪と復権を――」


「無理だ」


 レオナルトは、即座に否定した。


 それは、

 自分が一番分かっている。


「彼女は、

 もう戻らない」


 王都に。

 私の隣に。


 彼女は、

 “選ばなかった側”にいる。


 沈黙が落ちる。


 やがて、レオナルトは静かに言った。


「私は、

 彼女を失って、

 ようやく理解した」


 正しさは、

 優しさよりも先に必要だ。


 だが。


「……遅すぎた」


 その言葉は、

 誰に向けたものでもない。


 ただの、事実だ。


 王太子は、

 選ばなかった。


 そして、

 選ばなかった者は、

 二度と選ばれない。


 レオナルトは、窓の外を見つめた。


 遠く、

 辺境の方角に、雲が流れていく。


(アルテミシア)


 呼んでも、

 届かない名。


 それでも。


 彼は、

 王太子として立ち続けなければならない。


 ――彼女のいない世界で。


 それが、

 彼が支払う代償だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ