一足幅
朝。実技室。床に白テープが二本、黒円の外周から一足分だけ離れて走っている。
掲示にはALT-02:1.0と評価カード1.0。
その下に、小さく**『部屋版退避=壁沿いテープ(一足幅)』と書かれた紙。
今日は線そのもの**を体で覚える回だ。
志水がメジャーと足型ゲージ(紙の中敷きみたいなやつ)を配る。ルナは白板に三行を書いた。
『最後で数える』
『前後半拍』
『走者のみ白点/非走者=退避線』
(胃評議会は“朝は炭水化物を希望”と主張。今日は動くから、許可)
—扉が開き、黒鐘イツキが入る。監督者へ会釈だけ。見学席に楓。
ミレイユ教官が白板の端でペンを回す。三ノ宮は判子を置いて腕を組む。
◆口頭要約(30秒)
三ノ宮が顎でコツ。「短く」
「目的:退避線=一足幅を誤差±一目盛りで体に入れる」
「手順:前後半拍→合図(1→A/2→B/3→C)→最後→二拍。
走者のみ白点、非走者=退避線内で床白線。足型ゲージで初期校正→感覚運用」
「評価:逸脱<5%/R-10継続/『一足幅ズレ』が**±1目盛り以内80%以上**。EP-1=各自1回」
「例外:E-12b(外部音)/名目干渉−2/支援は休憩帯のみ+1」
ミレイユが付け足す。「視線干渉を防ぐため、非走者は白点を見ないを再強調」
◆ドリル1:初期校正(ゲージで測る)
前後半拍。ピッ。A=俺が黒円の外へ一歩。志水が足型ゲージを床に置く。
踵を合わせ、一足幅テープの内側に指一本分の余白。合図。二拍静止。白点は見ない。
交代。ピッピでB=イツキ。0%の顔で、同じ位置にすっと立つ。誤差なし。ピッピッピでC=楓。
+半目盛りズレ(広め)。
「広い」俺が三語で言う。
楓は二拍の間に足幅−半目盛りで修正。肩は沈む。
ログ(初期校正)
一足幅ズレ:A=±0/B=±0/C=+0.5目盛り→修正
退避線:遵守(非走者=床白線)
EP-1:未使用(温存)
ルナが一言。「数字→体の順で入れる。最初だけゲージ、次からは感覚」
◆ドリル2:感覚運用(目を使わない)
目安のテープを布で隠す。足元だけ。合図は机ノックに切り替え。前後半拍→コツ。
A=俺。白線だけを端視で捉え、一歩=一足幅を感覚で置く。二拍静止。
B=イツキ。±0。
C=楓。−一目盛り(ちょい狭い)。
胸の中にポコン……。
A:言葉で指摘する / B:EP-1でルールを置く
「B。EP-1」
短く置く。「退避=一足」——合図後、一回。
楓は二拍の間に足幅+一目盛りで修正。
ログ(感覚運用)
ズレ:A=±0/B=±0/C=−1→修正
EP-1:A=「退避=一足」
ミレイユが頷く。「言葉を短く→体が追う、の順。良い」
◆ミニ事件1:視線のクセ(“見ちゃった”)
交代の二拍、見学の真白が白点をちらっと見てしまう。イツキの肩が一瞬だけ揺れた。
胸の中にポコン……。
A:流す / B:干渉−1で記録→言い換え
「B。記録→言い換え」
ルナが即座に言う。「白点禁止→床白線」
真白はうなずいて、次の二拍は床白線を見る。揺れは消えた。
ログ(クセ)
干渉:−1(記録)→次ターン修正
誤読:0
◆ドリル3:遠近の穴(広く見える床)
午後。輪っかライトの角度を変える。床目のパースで、遠側が広く見える仕掛けだ。
コツコツ(2)。B=イツキが入る。±0で置く。さすが。
コツ(1)。A=俺は**+一目盛り広く置いてしまう。肩が浮きかけ**。
胸の中にポコン……。
A:速度を落とす / B:呼吸前倒し / C:基準点を白線→退避テープ端に切替
「B→C」——二吸で沈めつつ、基準点を退避テープ端に切り替え。パースの騙しを無効化。
コツコツコツ(3)。C=楓は最初からテープ端基準で**±0**。
ログ(遠近)
ズレ:A=+1→修正/B=±0/C=±0
SY-肩:浮きかけ→呼吸✔
メモ:『遠近穴→基準=テープ端(臨時)』
◆ドリル4:割込み処理(音に負けない)
セットを回していると、廊下の巡回チャイムがチンと鳴る。前静の0.4秒後。
胸の中にポコン……。
A:通常継続 / B:E-12bで二拍静止
「B。二拍」
——最後の音の終わりから二拍静止。まとまり内なので吸収。延長不要。退避線は一足幅を維持。
ログ(割込み)
E-12b:成立(延長不要)
誤読:0
◆休憩帯(胃の測量)
麦茶とおにぎり。楓が三語。「一足、覚えた」
俺が三語。「遠近、無効化」
イツキは……親指を上げないで、会釈だけ。十分。
(胃評議会も“±一目盛り以内で満腹”と可決)
◆仕上げ:三人一本(整流+一足)
最後の一本だけ、1→2→3で回す。前後半拍→最後→二拍。
A=俺:EP-1を二拍末尾で「時間の穴→静止」。ズレ±0。
B=イツキ:±0継続。合図後は無言。
C=楓:交代の二拍で「交代=白点」。ズレ−0.5→修正。
集計(本日)
R-6(ALT-02通算)
一足幅ズレ:±1目盛り以内=88%(目標超え)
逸脱:A=最大0.7%/B=0%/C=最大0.6%
EP-1:A・C達成(被りなし)
干渉:−1(見ちゃった)→修正
メモ:『遠近穴→テープ端』を掲示の下に追記
三ノ宮がスタンプを押す。「一足幅:基準化。部屋版退避と実技で線の意味を揃える」
ミレイユが二行で締める。
『数字→体→言葉』
『線=距離=余白』
イツキは白板を一度だけ見て、監督者へ会釈。
退避線に視線を落としたときだけ、たぶん同じ幅を見ていた。
◆廊下(二択)
掲示板に**『一足幅:基準化』**の小紙が増える。
胸の中にポコン……。
A:この学園で静かに暮らす / B:全力で勝ちにいく
「保留」——一足は線で、線は余白。今日の余白は、ちょうど一足分。
—輪っかライトが床に丸。足音は二人分、少し遅れて一人分。テンポはたん、たん、たん。




