夕刻小競り合い
夕方。実技室。輪っかライトは弱、白点はくっきり、影の輪も細い。掲示には評価カード1.0とE-12b。
今日の最後の交互枠、俺と黒鐘イツキで一本ずつ回して終わる予定。
「言葉は短く、手順は同じ」ルナが確認する。
「EP-1=一人一回」
「支援は休憩帯。干渉は−1」
志水が短音器を置き、ミレイユ教官が記録カード1.0を配る。見学席に楓。
廊下には、初等の同級生二人が顔を出している。手には自作のノート。名前は長谷と真白。
◆セットK(静かな一本)
合図。ピッ。
胸の中にポコン……。
A:反応→当て / B:当て→反応
「A。反応から」
——赤、右。白、前。黄、左後ろ。腰だけ切ってタッチ。戻る。呼吸は四吸・二止・四吐。
肩は浮かない。
三分で当て(軽い)へ。×の左上から入り、三回目で中心。合図。二拍静止。視線は白点。交代。
俺は短く置く。
「交代=白点」——EP-1、済。
イツキは姿勢→反応→当て。終端前に一言。
「合図→止まる」。
ログ(K)
正確度:逸脱0%(両者)
再現性:R-7(1.0通算)
EP-1:達成(両者)
SY-肩:発生なし
協調:該当なし
(静か。いい手触り)
◆きっかけ(“支援”の声)
次の枠は初等用の自由練。長谷と真白が黒円の外に立つ。
真白がメトロノームを手に、長谷がフォーム棒。
「始める?」
「始める」
合図のピッが鳴る直前、真白が小声で言った。
「今」
長谷の足が反射で動く。短音器のピッが重なって——動きがちぐはぐになる。
「いまの、支援のつもり」真白が言う。
「干渉だと思う」長谷が眉を寄せる。
空気が固くなった。小さな沈黙。
胸の中にポコン……。
A:口を出さない / B:四問から質問する / C:三ノ宮を呼ぶ
「B。四問から」
俺は二人に近づき、声を落とす。
「対象は誰? 場所は黒円上? 主体は? 時間はいつ?」
真白が少し考えた。
「対象=長谷。場所=黒円上。主体=わたし。時間=合図の前」
「合図の前」ルナが短く補う。
「主体が二重になってる。監督者とあなた。その時点で干渉寄り」
真白がむっとする。
「支援のつもりだった」
ミレイユが一歩進む。声は柔らかい。
「名目が支援でも、作用が干渉なら−2。ただし、初回は注意で運用できる」
長谷は視線を落として言う。
「次は、自分で合図を待つ」
真白が頷き、少しだけ肩を落とす。
「ごめん。休憩帯で言う」
◆小競り合い(線の上で)
二本目。今度は真白が黙ると宣言し、長谷が黒円に入る。合図。ピッ。動きは整う。
だが交代時、真白が指で空中に丸を描いてしまう。無言の合図。長谷が一瞬それを目で追う。
胸の中にポコン……。
A:見逃す / B:EP-1で言語化して線を置く
「B。言語化」
交代の二拍のあいだに、短く置く。
「合図=音。視線=白点」
ミレイユがうなずく。
「EP-1で線を共有。良い」
真白が自分の指を見て、丸をほどく。
「……これも干渉?」
ルナが整理して言う。
「視覚合図は上書きになりやすい。支援は休憩帯で。干渉の例として記録するけど、今回は注意」
長谷が小さく笑う。
「声より指の方がクセになる」
「クセは名付けると直る」ルナがペンを走らせる。
「丸描き干渉」
「名前、直球」楓が肩を震わせる。
◆共同処理(小さな修正)
三本目。二人の交代時、廊下の反射音がかすかにチン。E-12bの範囲だ。
胸の中にポコン……。
A:続ける / B:二拍静止を足す
長谷が「B」。真白も「B」。
二人は最後の音の終わりから二拍静止し、白点を見る。呼吸が合う。再開は滑らか。
さっきまでの固さが解ける。
ミレイユが小声でまとめる。
「時間の穴→静止。作用が支援に変わった」
真白が小さくガッツポーズ。
「支援は休憩帯/静止は運用中。分かった」
◆カードの端(追記)
志水が評価カード1.0の協調欄に小さく追記する。
支援+1(休憩帯):水渡し/タオル/合図の確認のみ
干渉−1:運用中の声掛け・視覚合図
名目干渉−2:支援を名目に上書き
三ノ宮が遅れて現れ、追記を確認。
「今日は注意扱い。明日からは減点運用」
真白が素直に頭を下げる。
「次は帯の中でやる」
長谷が笑って言う。
「休憩に全力」
「方向は正しい」
◆最後の一本(静かに締め)
最後にもう一度、俺とイツキで一本。合図。ピッ。反応→当て。
交代の二拍で、俺は短く「交代=白点」。イツキは終端で「時間の穴→静止」。数字は安定。
声は少ない。
ログ(夕刻まとめ)
正確度:カイ0.3%/イツキ0%
再現性:R-8(1.0通算)
EP-1:達成(両者)
協調:注意1件(運用中の視覚合図)→説明で転換
ミレイユが短く言う。
「線が引けた。今日はここまで」
—扉の外、夕方の風。廊下に薄い影。真白がメモに『休憩帯/運用中』と二本線を引いている。
長谷は棒をしまいながら「次は声を飲み込む」と笑った。
胸の中にポコン……。
A:この学園で静かに暮らす / B:全力で勝ちにいく
「保留」
——線が見えれば、歩ける。今日の速度は、それでちょうどいい。




