君とダンス、あなたとダンス
華やかな装飾が施されたターシャ一押しのドレスを身にまとい、広間の中央でくるりくるりと踊りまわる二人。
多少身長に差がありすぎるものの、ひときわ小柄な女性がステップを踏みやすいよう男性がうまくリードしている。男性の方は、波打つ濃い金色の髪に優し気な瞳、黒に近い紺のジュストコールが引き締まった体躯によく似合っている。
女性の方はと言えば、蜂蜜色の波打つ豊かな髪を背中にたらして、わずかにピンクがかった上品なアイボリーのドレスを身に着けている。まだ子どもらしい体つきといえなくもないが、すっと伸びた背筋と凛とした大きな瞳が意志の強さを感じさせ、気品が漂う。
この二人が優雅に躍るのを、そこにいた全員がほぅ、と感嘆の息を漏らして見つめていた。
デアルタ国の次期女王マチアルド王女と、隣国リスデール国の第三王子ラルフィル。
傍から見れば絵に描いたような美しい取り合わせだが、実のところ二人の心の内はまったく気品のかけらもなかった。二人の胸にあったのはただひとつ。
――早く音楽終わって!ワルツだけは嫌!思い出しちゃう。
――別の曲に変えてくれるとありがたいんだが。
ふと目線を上げると、二人の思いがかち合う。目に同意の色を浮かべて、早くワルツが奏で終わるのをひたすらに待つ。ようやく楽器の音が止み、安堵する二人。
が――。
再び流れ出すワルツ。
たらりらりら、たらりらりら、たららったったーん。
たらりらりら、たらりらりら、たららったったーん。
たらりらりら、たらりらりら、たららったったーん。
たらりらりら、たらりらりら、たららったったーん。
もう耐えられないとばかりに、二人手を取って広間から離れ、バルコニーへと歩き出す。
どうせ今度は、他の列席者が躍るためのワルツ演奏だ。もうあのメロディを聞いている必要はない。ぐったりと疲れた心持ちで、バルコニーに出る。
ひんやりとした夜の風が、上気した頬に気持ちがいい。二人は戻ってきてからというもの、共にでかける機会も多かったせいか、いつしか気心のしれた相手となっていた。もちろん仲間としてではあったけれど。
「すっかりワルツ苦手になっちゃったよ、俺」
誰かに聞かれでもしたら目を丸くされそうな砕けた口調で、マチアルドに話しかけるラルフィル。
「ほんと。なんか戦闘態勢入っちゃうよね。もはや踊るための曲じゃなくて、バトル曲だわ」
顔を見合わせて笑う二人。
このバルコニーからは、空があまり見えない。高い王宮の建物と鬱蒼と生い茂る木々が邪魔をするからだ。
それでも伸びあがって、星のきらめく上空を見ようとするマチアルド。
「ここからじゃやっぱり見えないね、リリーちゃん」
「あぁ。昼間はよく見えるのに、夜はなぜかあまり見かけないんだよな。寝てんのかな」
言われてみれば、リリーちゃんが睡眠を必要とするのか聞いた覚えがない。もしかしたら夜は人と同じく眠っているのかもしれない。空の上ですやすやと風に漂いながら気持ちよさそうに眠るリリーちゃんを想像して、マチアルドはふふ、と笑う。
「つい一週間前くらいのことなのに、ずいぶん時間がたったみたい。リリーちゃんも見えるから不思議と離れている感じはしないけど、もうリリーちゃんに乗って旅をするなんてことはないんだろうな……。楽しかったね、みんな一緒に戦ったり、騒いだり、泣いたりもして」
しみじみとあの奇妙な旅を思い返しながら話すマチアルドに、ラルフィルが優しい声で返す。
「そうだな。ティリアとマルセルも、時々はしんみりしてるのかな。まぁ、師匠がいるから騒がしそうだけど」
「そうかもね。でも驚いたな、リガルド様があそこに残るっていったの。結婚、ってことになるのかな?でも、幸せならそれでいいよね。ティリアが幸せでいてくれたら嬉しい。親友だしね」
「俺にとっても、一応剣の師匠だからな。うまくやってくれるといいと思うよ。マルセルも安心するだろうし」
二人の間に沈黙が落ちる。
どこか決まずい空気を漂わせながら、ラルフィルがコホッと咳ばらいをしつつそっとマチアルドの手を取る。
「あのな、マチアルド。……今すぐではないにしろ、俺と婚約する気はあるか?別に今決める必要はないし、微塵もその気がないのなら、もうこの話はないものとして俺からはっきりと言っておく。でももしわずかでもその余地があるのなら、考えてみないか」
「……私がラルフィルと結婚?」
まさかの婚約の申し入れに、動揺するマチアルド。
もちろんここへ帰ってきて以来、まったく意識しないわけではなかったけれど。本人から直接言われるとなると、大いに困惑してしまう。
「えぇと、う―ん……。ラルフィルと、結婚……ええと」
思わぬ展開に、ここが王女としての社交の場ということも忘れ、思わず腕組をして考え込むマチアルドであった。




