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冒険終わって空の上


 ふよふよとリリーちゃんに乗って、デアルタへと戻る道中。

 リリーちゃんはようやくそのスピードを緩め、低速で漂っていた。


 実はここに来るまで若干スピードを上げて飛行してきたのだが、マチアルドにはバレていないようである。

 思ったよりもリスデールの森で時間を食ってしまったため、地上ではマチアルドたちが行方をくらましてから三日が過ぎてしまっていた。

 そのため、途中少しスピードを上げてここまで戻ってきたというわけだ。


 下界を見下ろさない限りは、いたって快適な空の旅である。

 マチアルドは途中なかなかのスピードでリリーちゃんが飛んでいたことにもまったく気づかず、快適な空の旅を満喫していた。

 ようやく精霊の力を取り戻したティリアとリスデールの森からそのままついてきたリガルド、マチアルドたち三人とマルセルは、力が抜けたように束の間の休息を堪能していた。


「デアルタまであとどれくらい?もう湖を超えた辺りかしら?」

「あと小一時間ほどで、デアルタの西の端に着きますよ」


 全員がリリーちゃんのふかふかの床にごろんと寝転んで、傘から透けて見える青い空を見上げていた。どこまでも澄み渡った、雲一つない青空である。太陽の光は傘でちょうどよくさえぎられて、まぶしすぎずほどよく差し込んで、ウトウトと心地よい眠気に襲われる。


「あっという間だったわねぇ。ついさっきここに運ばれたような気もするし、もうずっとここにいる気もするわ。このふかふかとも、もうすぐお別れなんて……」

「俺ずっとリリーちゃんの上で暮らしたいなぁ……。マルセルとももっと話したいしさ」


 すっかりマルセルとシュタルトは長年の友といった空気感である。性格も考え方もまったく違う者同士、そもそも人間と陶器人形の組み合わせであるのだが、何か引き合うものがあるらしい。縁とは不思議なものだ。


「ティリアの力もすっかり戻ったどころかさらにパワーアップしたし、リスデールもデアルタも他の国ももう何の問題もないしな。地上ではきっと大騒ぎだろうし、帰らないわけにもいかないしな。しかしなぁ……。また王子に戻るのか」

「本当ねぇ……。また勉強漬けの日々とコルセット地獄に戻るのねぇ。王女家業ももちろん大事だけれど、もうこんなふうにゴロ寝もできないし、果物にかぶりつくなんてお行儀の悪いこともできないなんて……」


 王女、王子コンビは、その生まれならではの苦しみをここぞとばかりに分かち合う。


「私も、ずっとここに皆さんがいてくださったらと思うわ。ここがこんなににぎやかなの、初めてですもの。皆さんが帰られたら、きっと静かで耐えられません」

「私も寂しくなります。もちろんティリア様もリリーちゃんもおりますし、これまでだって幸せに過ごしてきましたが、こんなに色んな方とお会いしたのは初めてです。……もちろん、友だちができたのも」


 マルセルはその目をきらり、と潤ませてシュタルトを見る。


「ねぇ!ちょっと俺、提案があるんだけど。打ち上げしようよ、皆でさ」


 がばり、と勢いよく起き上がったシュタルトがにやりと笑って皆を見る。


「打ち上げって、パーティー?でも、ここには食べ物も飲み物もないし、そもそもその必要もないし、何をするの?」

「食べ物ならあるじゃんか、いっぱいさ!」


 そう言って、シュタルトは床を指さす。正確には床の下、つまり地上のことである。


「地上に降りて食べ物を探すってこと?あの川で魚とかキノコを採ったみたいに?……いいかも!それ、楽しそうね」


 シュタルトの提案とあって、一瞬ろくでもないことを考えついたのではないかといぶかしんだマチアルドであったが、あの川での楽しかったひと時を思い出し、賛成の声を上げる。


「俺も賛成だ。今度はおかしなものに追いかけられる心配もないし、獣だったら俺と師匠が対処するから心配はいらない。もっとも今は狩猟の解禁次期じゃないから、獣は逃がしてやるけどな」

「じゃあ俺が先導してやろう。これでも山歩きには慣れてるからな。俺にどんと任せろ」


 リガルドのまさかの申し出に、全員が間髪おかずに却下したのは言うまでもない。全員で迷子など、絶対にごめんだ。


「私たちは食べたり飲んだりはできませんけれど、皆さんとまた山を散策するのはとっても楽しみですわ。ね?マルセル」

「はい!今度は私もたくさん採りますよ。この間は大きくて真っ赤なキノコを採ろうとしたんですが、シュタルトがそれはダメだって止められてしまったんですよ。だから今回はもっと大きくて、うんときれいな色のキノコをたくさん採りますとも!」


 嬉々とした表情で先日のキノコの美しさについて語りだすマルセルだったが、ティリアを除く全員が思った。


 ――それは間違いなく、毒キノコだ。しかもとびきりやばいやつ。食べたら絶対後悔するキノコだ。マルセルの動向には気を付けよう……。


 とにもかくにも、お食事クエスト再びである。


 リリーちゃんの傘の下、もはや思い悩む必要もなくなった冒険者たち一行は和やかにわいわいと、どこの山から降りる?とか、なんなら海釣りをして魚を採ろうとか、思い思いに声を上げる。

 二回目のお食事クエストは、豪華なメニューになりそうだ。


「あ!でも皆大事な仕事が残っているのを忘れないでよ。肝心なあそこを片付けないことには私たち、帰るわけにはいかないわ」


 そう言って、マチアルドが打ち上げについてわいわい盛り上がる皆をたしなめる。


「分かってるよ。あんなもの放っておくわけにはいかないもんな」

「ありがとうございます!ぜひお願いします。リリーちゃんのためにも!」

「お!また戦いか?俺も力添えするぞ。最近体がなまってしょうがないからな。どんと任せろ」


 リリーちゃんのするすると伸びてきた触手をにぎにぎと握り締めながら、懇願するマルセル。シュタルトは、任せろ!とばかりにマルセルの肩を叩く。

 

 戦うのはほぼラルフィルとリガルドの二人だと思うんだけど、とあきれ顔でその様子を眺めるマチアルドたちである。



 穏やかに時は過ぎていく。

 デアルタに到着するのはまもなく――。






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