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大精霊ティリア

 


「これで、リスデールはすべて浄化できましたわ。もう植物が暴れだすこともないでしょう。それに大地がとても清浄になりましたから、来年の農作物はきっと豊作ですよ」


 うふふふ、と満足気に微笑んで、ティリアはラルフィルにウインクして見せる。


「リスデール全部って、国土全部か?そんなことが……」


 これほど広範囲の大地を一時に浄化するなど、マルセルも初めて目にする光景であった。


「ティリア様……。ついに大精霊様にまで成長なされたのですね。私はもう胸がいっぱいで」


 そう言って、シュタルトに支えられるようにしてむせび泣くマルセル。


「それで、大精霊……って、何?さっきマルセルが成長したとか、進化したとかいってたけど」


 聞いたことのない大精霊という言葉に、一同は首を傾げる。

 ぐすぐすとむせび泣きを続けるマルセルに向き直り、ようやく光を放出し終えたティリアが声をかける。


「ええ、それについては私から説明するわ。マルセル、今まで心配かけてごめんなさい。やっと力を取り戻せたわ。もう今の私なら、触手なしでも浄化できるわ。眠っていた力が目覚めたみたい。あなたのおかげよ、マルセル。ありがとう」


 そして今度は、マチアルドたちのほうを向くティリア。


 その姿をみてマチアルドは驚いた。先ほどまでのティリアと、明らかに外見が変わっている。


「何それ?つやっつやのうるっうるな顔になってる。しかもその髪!」


 シュタルトがティリアを指さして叫ぶ。

 ラルフィルもあんぐりと口を開けて、その変貌ぶりに言葉を失う。

 リガルドといえば、無言で目を輝かせてティリアを熱く見つめている。


 そしてマチアルドは。


「私よりぴちっぴちでうるっうるのお肌。十四歳の私よりぴかぴかなんて……」


 光を放ち終えたティリアは、文字通り輝いていた。浄化の力を完全に取り戻しただけでなく、新たな大精霊としての力もその手にして、中からも外からも輝いていた。


 肌はこれ以上ないくらい赤子のようにみずみずしく、それでいてぴんと張りがあり、内から光り輝いている。

 瞳もうるうると美しくきらめいて、そして何よりその髪である。元から美しい銀髪であったが、いまやそれが光を反射するような淡く美しい金色へと変わっていた。毛先までつやつやと潤いのあるその髪は、豊かに波打っており、ティリアが少し動くたびにふわりふわり、と揺れるのだ。


 なぜだか猛烈に敗北感を感じるマチアルドであった。





◇◇◇◇◇◇




「ではティリア様は、もうただの精霊ではないのですか?大精霊様は、精霊と何が違うんです?」


 ラルフィルが驚きの声を上げる。


 マルセルによるとこれまでのティリアはただの精霊であり、あくまでリリーちゃんの助けを得て大地から悪い気を吸い上げて浄化の力を発揮していたにすぎないのだという。つまりはリリーちゃんあっての浄化作業だったのである。


 それが、大地を守るという使命を思い出し自分の存在意義を受け入れたティリアの中で、さらなる大精霊としての力が覚醒したのだという。精霊の中でも大精霊になれるものはごく限られているため、この上なく栄誉なことらしい。

 マルセルはそう言って、感慨深そうに主であるティリアを見つめた。


「じゃあティリアは、本当に唯一無二の存在になっちゃったんだね。それってますます孤独ってことなんじゃ……むぎゅ」


 余計なことをいうなとばかりに、シュタルトの口をふさぐマチアルド。本当にデリカシーがないんだから、と腹を立てるマチアルドに、ティリアがふふふとおかしそうに笑う。


「大丈夫ですよ。大精霊になると時空も何もかも、すべてを飛び越えるのです。会いたい方とは実体がなくても会えますし、話すこともできるようになるんです。ですから逆に寂しくないのですわ。私もまさか、大精霊になれるなんて思ってもみませんでしたけど、これで皆さんといつでもつながっていられますわ」


 きらっきらの笑顔でにっこりと笑うティリアは、この上なく光り輝いている。


 容易には分かち合えない孤独を抱えた、重い責任とともに生きていくことを運命づけられた者同士。互いにやわらかく微笑みながら目配せをするティリアとマチアルドである。

 孤独であることに変わりはないかもしれないが、それは決して不幸などではないのだ。重くはあるが、それが誰かの幸せに役立つのだと思えば、やりがいだってある。


「もしかしてティリアが力をうまく制御できなくなったのって、大精霊に成長するためのちょっとした誤作動みたいなものだったのかな?結局なんで力をうまく使えなくなったのか、原因わかんないんだろ?」


 シュタルトが首を傾げながら、問いかける。


「それもあるかもしれないけど、ティリアにしかわからない悩みとか苦しみがあって、そのせいで少し疲れてしまっていたんじゃないかしら。誰にだってあるでしょ、そういう時って」

「じゃああながちスランプっていうのも、間違いじゃないってこと、か……うぅむ」


 なにかぶつぶつと苦い顔でつぶやくラルフィルと、涼しい顔をして笑うリガルドの姿は対照的である。

 マチアルドはティリアに向き直り、にっこりと笑いかける。


「良かったね、ティリア様。もうこれで迷わないわね。なんといっても大精霊なんだもの。私もティリアに負けないように、頑張るわ。きっといつか立派な女王になって、デアルタを今以上にもっともっと良い国にして見せる」


 すがすがしい顔で見つめ合い微笑む二人の姿に、男性陣は少し不思議そうな表情を浮かべつつ顔を見合わせている。


「皆さんの手助けのおかげです。皆さんがいてくださらなかったら、決して力を取り戻せませんでしたわ。皆さんにお会いできたこと、心から感謝しています。本当にありがとうございました。……そして何より、マチアルド」


 一度言葉を切って、マチアルドを潤んだ目で見つめるティリア。


「あなたの言葉を聞いて、忘れかけていた大切な使命と大地を思う気持ちとを思い出すことができました。感謝してもしきれません。……大好きよ、マチアルド」


 そういって、マチアルドに抱き着く。


 光り輝くティリアに励まされるように、マチアルドも決意を新たにする。

 大好きなデアルタ。大切な人たちが暮らす、大切な国だ。女王の座に就くのはまだまだ先だが、それまでに勉強することも、経験することもまだまだたくさんある。この出会いだってきっとそうだ。これからの私にきっと大きな力を与えてくれるはず。


 ぐるりと一行を見回すマチアルド。


「さあ、戻りましょうか。デアルタへ。まだし残したことがあるわ。最後のお片付け、いたしましょう!」



 そしてリスデールを後にする一行。

 なぜかティリアと同じく、さらに輝きを増したうるつやのリリーちゃんに乗って、デアルタへと旅立つマチアルドたちであった。





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