リリーちゃんだって仲間なの
巨大なラスボスを前に、思い思いの武器で臨む一同。
ティリアが紡ぎだす言葉には、まだところどころ不安定な部分が残っているようで、光が強くなったり弱くなったりを繰り返している。だが、その強さと量は先ほどの戦いの時とは桁違いである。
隙を見て拘束を解き暴れだそうとしている巨大暴れつたは、時折しめつけられた体から薄緑の液体をぶしゅっ!と吐き出しながら暴れまわる。
浄化の力は確実に効いているようだ。
「よし!ラルフィル。あとは俺たちで仕留めるぞ」
「はい!」
力強く頷き、視線を交わし合う師弟コンビ。
敵は浄化の光に動きを封じられつつも、驚異的な力でその黒く太いつたをしならせながら地面を強く叩きつける。その度に周囲に地響きとともの土埃が舞い上がる。それに視界を邪魔されながらも、師弟はその黒い体に剣で鋭く切りつけていく。
が、その胴回りは人間の数倍はあるのだ。木よりは柔らかいとはいっても、固い繊維質であるためなかなか刃が入らない。
じりじりとじっくり何回にも分けて、ダメージを与えていく師弟コンビ。
その合間にその傷にとげのある枝や石ころを投げつけて、地味に痛みを与えていくシュタルトとマルセルの友情コンビ。マチアルドは、友情コンビが投げつけられそうな枝や石を周囲から拾い集めてくる、お手伝い班である。
持久戦の様相を呈してきた戦いに、一同が焦りを感じ始めた頃。
マルセルの耳がピンと立ち上がり、何かを探るように向きを変える。
「どうしたの、マルセル?」
人形なのに急にウサギらしい動きをし始めたマルセルに、マチアルドが問いかける。
「いや、多分そろそろ来るはずなんですが」
何が?と言いかけて、マチアルドは自分の影に大きくかぶさるように何かが頭上に影を作っているのに気づく。上を見上げて、マチアルドは口をあんぐりと開けた。
そこには乳白色をベースにピンクやブルー、パープルと色を変えながらゆらゆらと輝く球体があった。
「リリーちゃんっ!?」
触手がふわんふわんと空中をご機嫌な様子で漂っていて、アンカーもしっかりとマチアルドたちがいる場所に下ろされている。
「先ほど呼んでおいたんです、リリーちゃんも。一人で待たせておくのもかわいそうなので」
マルセルの言葉に反応したのか、傘の部分が嬉しそうにぱぁぁっと桃色に染まる。寂しかったらしい。
「でも今はそれどころじゃ……。離れていたほうがいいんじゃない?危ないし」
心配そうにリリーちゃんを見上げるマチアルドに、マルセルがガラス玉でできたその瞳をきらん、ときらめかせる。ご心配なく、とでも言いたいのだろうか。自信ありげに笑みを浮かべている。
「リリーちゃん、きてくれたのね!嬉しいわ。さっそく好きに暴れてくれていいのよ?さぁ、どうぞ」
ティリアもリリーちゃんの姿を目にすると、とても精霊の言葉とは到底思えない物騒な言葉を口にする。
一体何をするつもりかと見守るマチアルドたちの目の前に、リリーちゃんの身体から無数の光るひものようなものがひゅるひゅると下りてくる。それらがうねうねと動きながら地上に向けて伸びてくる様は、正直に言えば実に気持ちが悪い。
「何がはじまるの?なんか、怖い」
「俺たちも逃げた方がいい?リリーちゃんに食べられそうな気がするの、俺だけ?」
思わずつぶやいたマチアルドの声に、シュタルトもごくりと唾をのむ。
気づけばそれらの光るひもは無数に増殖し、暴れつたに向かってゆっくりと下りていく。そして、その金色に光るやわらかなふにふにとしたひもが撫でるようにつたの周囲を伝っていき、黒い体をすっぽりと覆い尽くしていく。まるでそこには黒い暴れつたなど存在しないかのように、その体は飲み込まれ、次第に力を失っていく。
ぴくぴくと痙攣するようにうごめく黒い体。リリーちゃんの輝くひもの下で一体何が起きているのか、こちらからはまったくうかがい知ることができない。
「おい、これ何してるんだ?なんか怖いんだが……」
「う~む……実に気味が悪いな」
ラルフィルとリガルドも剣を振るう手を一時休めて、その変化を見守る。
「さすがリリーちゃん!戦う姿も神々しくてかわいいでしょう?ね?ね?ね?」
「いやぁ、これはかわいいっていうかなんていうか……ねぇ?」
マルセルはうっとりと目を細めてかわいさを主張するが、シュタルトの顔は激しく引きつっている。その隣のマチアルドもまた、同じ表情でリリーちゃんを見つめていた。
「これがリリーちゃんの攻撃……。クラゲって見た目に反して怖い生き物なのね」
皆がしんと静まり返りそれを見つめるなか、最初こそじたばたとひもの下で暴れていた巨大な暴れつたは次第にその動きを止め、しなーっと体を折るようにしならせていく。
じわじわと地面に広がる薄緑の液体と、びくびくと震え始めるその体。
言葉を失うラルフィルと、見てはいけないものをみたかのように、口元を覆うシュタルト。
「ありがとう、リリーちゃん。もういいわ。あとは任せて」
ティリアの声かけで、リリーちゃんはするするとその光る無数のものたちを引っ込めていく。次第に見えてくるつた暴れつたの姿。
一同はその変貌ぶりに、愕然とした。
「干からびてる……?というかなんかさっきより一回り小さくなった気がするんだけど、もしかしてしぼんだ?」
シュタルトがぽつりとつぶやく。
そう、あれほど大きかった植物は、今や最初に遭遇した個体レベルにまで縮んでしまっていた。リリーちゃんがあの光るひもで生気を吸い上げたのだろうか。普段触手を通して大地の汚れた気を吸い上げているリリーちゃんであるからして、悪いものを吸い上げる能力に特化しているのかもしれない。
リリーちゃんはもう自分の出番は済んだとばかりに、あとは高みの見物をすることに決めたようだ。ふよふよといつものように気持ちよさそうに空中を漂っている。
もはや恐れるような敵ではなかった。何しろ最初の個体は、ラルフィル一人でも倒せたのだから。
それが今や、戦闘要員は剣使い二名に浄化者一名、あとはその辺のものを投げつける人員二名と拾ってくる人員一名と、六人態勢なのだ。まぁ、最後の三名は置いておくとしても、この程度のザコ植物にやられるような弱小パーティーではない。
びくびくと最後の力を振り絞って暴れるつたを一つ、また一つと切り離す。そして最後に地面を苦しそうにのたうちまわるその胴体に、繊維質の流れに沿うように刃をまっすぐに差し入れて、ついにこの森のラスボスは絶命したのであった。




