最終バトル、いたしましょう
さきほどまでとは打って変わりすっきりした明るい顔で、仲良く並んで出口へと向かうマチアルドとティリア。
「マチアルド様、私お願いがありますの」
「何かしら?」とにこにこと笑いあいつつ、先ほどとは打って変わって和やかに歩く二人の足取りは軽い。
二人とも心に重くのしかかっていた目に見えない重荷をようやく下ろして、自分のあるべき場所へと進む覚悟ができたのだ。自分が大切に思うもののために果たせる役目なら喜んで担おうと、そう思えることがなんとも嬉しく、すがすがしい。
「私、マチアルド様に友だちになってほしいの。人間のお友だちなんて、きっとこの先他にはできないと思うんですもの」
マチアルドだって、こんな奇妙な偶然がなければきっとリリーちゃんの存在にも永遠に気づかないままだったろうし、ティリアの存在も空想上の女神としてしか考えなかっただろう。
「もちろんよ!というかもうお友だちよ、私たち。私だって、私を大切に思ってくれる人や幼馴染みはいても純粋なお友だちはいないの。だから、私にとってもはじめてのお友だちよ!」
「まぁ!嬉しいわ。じゃあ今からマチアルドって呼んでいい?」
「当然よ。私もティリアって呼ぶことにする。あらためてよろしくね、ティリア!」
うふふ、と頬をゆるませて微笑み合う乙女たち。
初めての友だちが大地の精霊というなんともイレギュラーな相手ではあるが、この先もきっと友だちなんてできないであろうとあきらめていたマチアルドにとってもこの申し出はとても心躍るものだ。
友情は、やはりすべてを超越したこの上なくあたたかなものである。
ほんわりとあたたかい思いを胸に、出口へと向かう二人。
しかしその背後で、暗い影の中でずるり、とうごめく謎の黒い物体があった。
音もなくじりじりと二人の背中に忍び寄る、その謎の物体。
――きっとみんな心配して待っているはずだ。早く戻って、ティリアが元気を取り戻したことを伝えてあげなきゃ。
その時であった。それがティリアの首筋に触れたのは。
ぴとん。
ひんやりとした湿った感触に、ティリアは全身を凍り付かせて隣を歩くマチアルドの腕にぎゅっとしがみつく。
「今何か私の首にっ!ぴとんって!ぴとんって、何かが触れたんですの!」
「えっ?まさか、こんな日の光も届かないところにいるわけ……」
まさかと思いながらも、おそるおそる背後を振り返った二人の視界に飛び込んできたもの。それは――。
◇◇◇◇
洞窟の中から、乙女の声とは思えないような地に響くような絶叫がこだまして聞こえてくる。そのただならぬ声に、洞窟の外にいた男たちは一斉に振り向いた。
洞窟の奥からこちらに向かってくる二つの小さな影。と、何かうごめく黒い大きな影――。
「ぎぃやぁ―っ!いやぁ―っ!助けてぇ、リガルド様ぁっ」
「出たーっ!すっごいの出たぁ!ラルフィル、シュタルト、マルセル、リガルド様!皆ーっ!」
そこにいたのは、限りなく大型のつる植物であった。暗がりのため全体ははっきり見えないが、そのうごめく影の大きさからみて、これまでに遭遇したものより特段に巨大な植物であることは間違いない。
恐怖で足がすくんでうまく先へ進めないティリアの腕をマチアルドが引っ張って、光へと目指して猛ダッシュする。今にもその肩や足にからみつきそうな場所まで、それは追いかけてくる。
ようやく光が見えてくる。そしてそこに浮かび上がる四つのシルエット。
「後ろっ、後ろにでっかいのがいる!みんな助けてーっ!」
「リガルド様、特大のがいますっ!どうか退治してくださいませっ」
四人の男たちは、洞窟からこけつまろびつ出てきたマチアルドとティリアの姿に、ではなく、その背後の大きな黒い塊に言葉を失う。
男たちが目にしたのは、洞窟の入り口一杯にその巨体を苦しそうに詰め込んだ、黒いつた植物の姿であった。びちびちとその巨体には小さいだろうその入り口からなんとか体を出そうとあがいているそれは、黒く長いしなやかなつたをびたん、びたん、と大地に振り下ろしながら、ようやくそこから這い出てくる。
「こ、これは……植物か?」
「巨大すぎて、てっぺんがみえないぞ?」
「俺は食事担当だし、ちょっと無理かも」
「えと、私は陶器製で壊れやすいのでちょっと……」
シュタルトとマルセルは、その大きさにじりじりと後退し始める。確かに、まともな武器もない状態で近づけるような相手ではなさそうである。
剣を持つ二人とて、その剣の腕をもってしても果たして退治できるのかどうか、と背中に汗がたらりと流れる。
「私が浄化して力を弱めます!少し下がっていてくださいませ」
ティリアが大きな声で叫ぶ。
その口から言葉が流れ出して、辺り一帯の空気を静かに振るわせる。その言葉は空気に乗り、風に舞い上がって見えない渦を巻く。その渦がいくつも大きく成長して巨大なつた植物を包み込んでいく。
黒く長い何本ものつたがその体に巻き付くように制御を失って、ぐしゅっという嫌な音を立ててつぶれていく。
苦しんでいるようで、その根元が暴れて地面を叩きつけている。その振動は離れた所に避難しているマチアルドとマルセルのもとにも伝わってくるほどだ。
明らかに先ほどの弱々しい光とはまったく別物の大きな力が、一同にも伝わる。
「ティリア……すごい!まるで大地も空気も震えているみたい!」
ティリアはなおも合わせた両の手のひらから、まぶしいほどの白い光をあふれさせて叫ぶ。
「今の私では、完全に自由を奪うことができません!どうか剣でご助力を!」
素早くリガルドが動く。ラルフィルも師の動きに合わせて、協力攻撃の体勢をとる。
ティリアの浄化の力により動きを封じられたそれは、杭を打たれたようにその場から身動きができずにいる。が、そのあらがおうとする力はとても強く、今にも黒いつたがこちらへと届きそうだ。
マチアルドは、ティリアに続かんとばかりに奮起して歩み出る。
「きっとこれが森のラスボスよ!みんなでこいつを倒して、ここをもとの森に戻すわよっ」
木の枝を握り締めるシュタルトと、それを真似て腰があきらかに引けつつもその辺に落ちていた木の枝を同様に構えるマルセル。
マチアルドは、ずっしりと重いのある石をすぐに投げつけられるようにその手に持っている。
戦闘力はともかくとして、戦う意思だけは全員心一つであった。
が、みな忘れていた。
一行にはもうひとり、いや。一体というべきか。
頼もしい味方がいたことを――。




