休息も必要です
「まずはどこかでその液体をきれいにしましょうか。気持ち悪そうだし」
「小川か泉か、この辺にないのかな?あったら俺水飲みたいよ」
言われてみれば、リリーちゃんから離れた今喉も乾くし腹もすくのだ。
「ではひとまず水場を探して、一休みとしましょうか」
リガルド探しは一時中断して、まずは水辺を探しにいくことになった一同はその場を立ち去ろうとする。が、シュタルトはその場から動こうとはせずにしばし暴れつたを見下ろしている。
「……これ、食べれないかなぁ?」
ぽつり、とつぶやくシュタルト。
「は?」
一同は一斉に、シュタルトを驚愕の目で見つめた。シュタルトは、今まさに倒れたばかりのみずみずしい植物のつたを持ち上げて、しげしげと眺めているところであった。
「だってさ、なんか俺さっきから腹が減っっちゃって。なんか食べたくない?」
そういわれてみれば、とマチアルドとラルフィルはお腹を撫でる。
目の前のものを食べるかどうかは別として、空腹感と渇きを感じる。とはいえ、今まさに倒したばかりの暴れつたを食べようというのか。新鮮であることは間違いないだろうが、新鮮かそうでないかはこの際問題ではないのだ。
「きっと水辺が見つかれば魚もいるかもしれないし、水だって飲み放題よ!だからそんなものは放っておいて、さっさと水辺を探しに行きましょ!シュタルト!ね?」
シュタルトがつたを持ち出さないうちに、なんとかその場から離れようとぐいぐいとその首根っこをつかんで引きずっていくマチアルドである。
とりあえずは目指していた洞窟の左側にある獣道を下っていく。しばらく草むらをかき分けながら進むと、かすかに耳に聞こえる音。
「おっ!川かなんかありそうだぞ。行ってみよう。ところどころぬかるんでるから、足元に気をつけろよ」
ここでも先陣を切って安全を確かめつつ先へ進むのは、ラルフィルである。
その後に続きながら、木の枝や岩などにつかまりつつ、水音を目指して進む。滑りやすくなっている個所もあるが、つまりは近くに水辺があるということである。のどの渇きを強く覚えながら、マチアルドも一歩一歩しっかりと足元を確認しながら歩く。
「あった!川だ。魚もいるぞ。食料だーっ!」
シュタルトの歓喜の声に、マチアルドもつた植物との連戦で疲れ切っていたラルフィルも破願する。
目の前に突如開けた川。そこには、日の光を反射してきらきらときらめく水面が広がっていた。
流れはさほど急ではなく、深さも膝下くらいである。ところどころに岩が付きだしていて、めいめいその岩に腰かけて汚れた手足を水で流す。水は驚くほどに冷たく、少し歩き疲れて熱を持った肌にとても気持ちがいい。
「気持ちいいわね!思ったほど冷たすぎなくて良かったわ。日が良く当たるせいね」
マチアルドは裸足のままできらきらと日の光を反射してきらめく川の水を跳ね上げながら、歓声を上げる。こんな水遊びなど生まれて初めての体験だ。
ティリアも、その長い髪を腕に抱え込むように持ちながら、水の感触にはしゃいでいる。
もちろんラルフィルは身体や剣に着いた液体を落とすのに必死である。
「おーい、見ろよ。魚採ったぞ」
呼びかける声に振り返ると、そこには手づかみでひょいと魚を持ち上げたシュタルトがいた。
当然先ほどまで川の中を生き生きと泳いでいたのだから、手の中でびちびちと暴れているが、それをものともせずがっちりと掴んでいる。
「すごいね、手づかみで簡単に採れるもんなの?私もやってみる!」
マチアルドの明るい声に、皆がそれに続く。
川の中に腕を突っ込み、ばしゃばしゃと水しぶきを上げながら魚を追い回すものだから、当然のことながら魚はみんな岩場に隠れてしまい、一匹も姿をみせなくなってしまった。
「いなくなっちゃったよ。シュタルト」
しょうがないなぁ、とあきれ顔で一同を見渡すと全員に物音を立てず動かないように指示すると、しばらくしてまた魚が頭をのぞかせる。その隙をついてすばやく岩場の陰に腕をつっこむと、次の瞬間にはシュタルトの手に一匹の魚が握られていた。
その早業に、拍手と歓声が起こる。思わぬところで思わぬ能力を開花させたシュタルトである。
その後もひょいひょいと魚を捕獲していくシュタルトに、一同は魚獲りを一任して火を起こすための枯れ木や大き目の石、その他の食材を探しに行く。
魚の皮が焼けるパチパチという音と、染み出た油が火に落ちて香ばしい匂いがあたりに漂う。
シュタルトが獲った魚は、全部で六匹。
それに大きなキノコが三本に、リコルの木の実が三つ。
それらの食材を前に、手慣れた様子でシュタルトが調理していく。
魚を木の枝を削った串にさして火の中に立て、キノコを手で適当に裂いて、近くに生えていた食用の香草を入れてぐつぐつと煮込む。その間に、リコルを川の水に浸して冷やしておくのも忘れない。
さすがに調味料はないため素材そのものの味ではあるが、そのどれもが久しぶりに味わうものとしてはとても美味だ。魚の身はふっくらで、臭みもない。きっと川が澄んでいてきれいだからだろう。
スープも味の濃いキノコのうま味が存分にスープに染み出して、香草の香りがまた食欲をそそる。食後のリコルはさっぱりとした甘さで、川の水でひんやりと冷えた果汁としゃくっというみずみずしい食感が、疲れを癒してくれる。
一同は十分に膨れたお腹をさすりながら、地面に足を投げ出す。
食べ物を食べられないティリアとマルセルまでもが、満足げな表情をしている。下手に加工していない自然の良さを引き出したこの料理の匂いは、精霊や人形にとってもかぐわしいものだったらしい。
すっかりこれまでの苦労や恐怖も忘れて、自然の恵みに感謝を捧げる一行である。
頭上からはさんさんとあたたかな日差しが降り注ぎ、川のせせらぎは耳に優しい。時折吹き抜けるそよ風も爽やかだ。まるで初夏のようなあたたかさに、思わず眠気を感じるマチアルド。
まわりを見ると、同じく心地よい眠りに誘われているようだ。このままほんのちょっと眠ってしまおうか、とうとうとし始めた頃。
「お?いい匂いさせてるじゃないか。こんな山深くに人がいるなんて珍しいな」
上から降ってくる聞きなれない声。さきほどまで目をつぶっていたため光がまぶしくよく見えないが、誰かがそばに立っているようだ。
飛び起きる一同の前で、その者はにこやかな顔で笑った。
「久しぶりだなぁ、ラルフィル。それにティリアにマルセルまで。こんなところでピクニックか?」
それは、予想外の再会であった。




