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お師匠様を探せ!

 

 マチアルドの申し出に、ティリアは少し驚いた表情で「でも……いいのかしら。その……」とぶつぶつとつぶやいて困惑しているようである。

 マルセルが間に入り、マチアルドたちがここに運ばれた経緯を聞いたティリアは、申し訳なさそうに深くうなだれた。

 

「それはきっと私のせいね。私がきちんと役目を果たしていないから、おかしなつながり方をしてしまったのだわ。すぐに元の神殿にお返しいたしますわ、もちろん。……ところであの、そちらの方」


 ティリアがマチアルドの隣に立つラルフィルに目を向ける。


「先ほどリスデールの方とおっしゃいましたわね。もしや、リガルド様の行方をご存じではありませんか?」


 その時ティリアの銀髪の一束が、ラルフィルの視界に入った。


「やはり、お相手はあの人だったか……」


 銀髪を一部束ねて、細い赤い紐でくくってある。それは紛れもなく師匠が着けていたものと同じであった。


 ――まさかラルフィルのお師匠様が精霊の恋のお相手なんて、そんなことってあるのねぇ。剣に秀でた方はやっぱり、普通の人間とは違う何かを持っているのかもしれないわね。もっともそのおかげでこちらはとんだとばっちりなんだけど。


「ええ……。もう長いこと、あの方にお会いできずにいるのです。もしやあの方の身に何かあったのではと、心配で心配で」

「心配のあまり、お部屋に引きこもられてしまった、というわけですか」


 ティリアの目から美しい涙が一筋流れ落ちる。絵面的には非常に儚げで、幻想的で美しい。


 が、ようは恋わずらいで引きこもって果たすべき役割を果たせなくなり、あまつさえ大地は危機的状況に陥り、マチアルドたちは巨大クラゲに飛ばされておかしなガラクタと戦う羽目になったというわけである。


 ――微妙ね。精霊だって恋は自由だけど、その結果があまりにも被害が甚大すぎる。しかもなぜよりにもよって私たちを飛ばしたのよ。せめてラルフィルは止めて欲しかったわ。一歩間違えば、国と国とを巻き込む外交問題なんだけれど。


 マチアルドは、相手が大地の精霊ということもあり口をつぐんではいたが、内心突っ込みたい気持ちでいっぱいであった。


「力が弱まったというのは、精神が不安定になったからということなのでしょうか?その、私たちとしても元の世界に一刻も早く戻らなければなりませんし、大地が荒廃するのもなんとか止めたいとは思うのですが、解決方法がわからないことには……」


「わからないのです。精霊の力が弱まるなんて 本来はあり得ないのです。なのに、リガルド様にお会いできなくなった途端に力をうまく制御できなくなってしまって。あの狂暴化したガラクタたちも神殿との道も、そのせいですわ」


 ティリアにも原因がよく分からないようである。どうしたものか、と思案するマチアルドたち。


「とにかくさ、そのお師匠さんを探しに行こうよ。リスデールのどっかにはいるんじゃないの?せっかくクラゲに乗ってるんだしさ、びゅーんと飛んで、探しに行ってみようよ。な?」


 シュタルトの目的が、ただ単にリリーちゃんに乗って冒険がしたいというファンタジー脳であることは明らかだが、それが今できる唯一の方法かもしれない。


「そうだな。あの人のことだから、多分森の中でも徘徊してるんだろう。あの人は超絶方向音痴でな。おそらくはどこかで迷子になってると思うんだよな……」


 ため息交じりでそう話すラルフィルは、これまでに体験したリガルドの方向音痴列伝を披露してくれた。


 ラルフィルがリガルドに弟子入りしたのは、七歳の時。兄たちは別の師のもとで剣術を習っていたのだが、ラルフィル自らが赴いてリガルドに弟子入り志願したのだという。


「兄たちの出来が良くてさ、比較されるのが嫌だったんだよな。違う師のもとで訓練するなら、比較されにくいだろ。でも師匠には、良くない噂もあってなぁ。王族に剣を教える師には、ふさわしくないと反対する向きもあったんだが」

「良くない噂って?」


 シュタルトが尋ねると、ラルフィルは頭をぽりぽりとかきながら小声でつぶやいた。


「放浪癖があるんだよ、あの人。自由気ままな性格で、ふらっとどっかに出かけてはしばらく戻ってこないことも多くてさ。でも稽古には熱心だったし、稽古の度に俺は強くなっていったから周りも反対しなくなったけどな」


 それでもラルフィルの剣術の腕が各国に聞こえるほど上がったのは、きっと教える側も教わる側も、優秀だったからなのだろう。


「じゃあティリア様のもとからいなくなったのも、放浪癖のせいかしら?気が済んだら帰ってくるつもり、とか」

「いや、それが放浪とはいっても実のところ迷ってるだけでな。十九歳の時に最終指南だと言われて二人で山に修業に入ったことがあったんだが、その時に……」


 ラルフィルの話してくれた話は、一同をげんなりとさせるものだった。剣の修業、というよりは迷子探しの修業と言った方がいいかもしれない。


 水を汲みに行っては森の中をさ迷い、戻ってこない師匠をラルフィルが探し回る。そのまたある時は、南に進もうといっては自信満々に西へ行き、山を下ろうと言いながら山頂に到着するという有様で、ほぼ剣の稽古などする暇がなかったらしい。


「もっともそのおかげで山歩きには慣れたし、遭遇した獣相手に戦っていたからな。それが剣の実戦稽古だと言えなくもないんだが。正直それまでは気ままに放浪するのが好きなんだろうと思っていたんだが、それは大きな勘違いだと悟ったよ。あれはただ単に、迷子になって帰れなくなっているだけだ。気ままなのは本当だけどな」


 聞いているだけで、どっと疲れた一同である。大地の精霊ティリアは、どうやら大分変わり者の迷子に恋をしてしまったようだ。


「それは見つけるのが骨が折れそうね……。でも仕方がないわ。こうなったらなんとしてでも迷子のリガルド様を見つけて、ティリア様と再会させましょう!帰るのはそれからよ。なにせ、この世界の未来がかかってるんだから!」 




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