一方その頃②
「いませんね」
「西地区の宿を聞き込みしましたが、こちらもいませんでした」
リセルとフレイヤはお互いの戦果を報告し合う。
彼女らはグラムに距離を置くよう言われたが、一晩考えた末にやっぱり彼を探すことにした。
「どこへ行ったんでしょうか...」
二人が頭をつき合わせて悩んでいると。
「ここにいたか」
「グラムさん!」
「やっぱり探しているのか」
「一晩悩みましたけど、やっぱり一度会って話をしたいです」
「フレイヤちゃんもか?」
「はい。自分が人殺しかもしれないなんて問題は早く解決したいんです」
グラムはため息を吐く。
「分かったよ。二人が覚悟を決めてるならオレも協力するよ。本音は嫌だけどな」
このまま一生会わない方が幸せなんじゃないかとグラムは思う。
「はは...すみません」
「謝るな。で、今は聞き込みか?」
「はい。でも手がかりが掴めなくて」
「そうか。オレは昨日城門に詰めていた騎士から話を聞いておいた」
「え? なんだかんだでグラムさんも心配しているんですね」
ニヤニヤとリセルが肘でわき腹を小突く。
「まぁな。それでアストの人相を伝えたら覚えている奴がいた。あと街道であいつを見た商人もいた。証言を合わせると森に入ったそうだ。しかも一人で、だ」
苦虫を噛んだ様な表情で報告する。
「無茶はするなって言っておいたんだけどなぁ」
まさか初日から出て行くとは思わなかった。
ましてや一人で。
この世界の常識ではありえない行動だ。
(まぁ確かに異世界人だって言ってたから常識なんて通用しないんだろうけど、いくらなんでも異常だろ...。普通、危険な森に単独で入るかよ)
グラムはため息をつく。
せっかく名前の使用許可を出して冒険者ギルドを勧めたのに無駄になってしまった。
「それって危ないじゃないですかっ!」
「確かヘルバウンドが出没しているはず!?」
「ああ。だから今からあいつを探しに行くつもりだったんだ」
リセルとフレイヤは一度目を合わせて意見の一致を確認する。
「「私たちも行きます」」
こうしてグラム、リセル、フレイヤの街一番のパーティーがヘルバウンド討伐の依頼を受けることになった。
.........。
......。
...。
「おい! これを見てみろ」
グラムの声に周囲を警戒していた二人は近寄る。
彼らは商人が見た場所から森に侵入していた。
「血、ですね」
大木の横に赤黒く汚れた地面を見つけた。
「どう思う?」
「あの人の可能性が高いと思います」
「同意見です」
「真新しい足跡をみると、やっぱりアストぐらいなんだよなぁ」
グラムが論拠を追加する。
方針は決まる。
「すぐに行きましょう」
「そうだな。ここから周囲の警戒を多少緩めて、速度を重視するぞ」
「「はい」」
.........。
......。
...。
「おいおい...ふざけんなよっ!!」
リーダーはどんな時でも冷静であるべきだ。
だというのに、グラムは怒鳴り散らした。
彼の背後からリセルとフレイヤの息を呑む音が聞こえる。
視線の先にはヘルバウンドの死体が二つ、焼死体が一つ。
そして―――腕があった。
見覚えのある腕だった。
「あたりを探せっ!」
「「は、はい!」」
二人が返事をするとともに散開する。
残ったグラムは死体を検証する。
「まだ...暖かい」
ハイエナ共が死肉を漁っていないことからも、時間は経っていないはず。
黒く燃えた地面に、剣で裂かれた死体が二つ。
そして焼死体が一つ。
三十年のキャリアを持つグラムは戦闘をシミュレーションする。
「いや、そんな、馬鹿な」
状況から推測したシミュレーションは、歴戦の猛者であるグラムをしても信じられないようなものだった。
「あいつはLv1だったんだぞ。ありえん」
グラムは正確に、起きた戦闘を推測していた。
ヘルバウンドの見方を利用した不意打ちから、アストが火の魔法を浴びて、さらにやり返したことまで。
「信じ、られん...」
だからこそ驚愕する。
ヘルバウンドの【火の魔法】は地面を真っ黒に焦がすほどに強い。
それを受けて、火の理解を深めるなんて。
ましてや即座に習得して攻撃に転じるなんて。
「何もありません!」
「こちらも同じく!」
北側からリセル、南側からフレイヤの報告が届く。
「分かった。急ぐぞ」
「「はい」」
.........。
......。
...。
「どういうことだ、こりゃあ?」
森を駆け抜けた先で、彼らは四頭のヘルバウンドに遭遇した。
周囲に人の気配はなかった。
同時にヘルバウンドの口元に血や肉の跡もなかった。
「まさか!」
犬達の先は谷となっている。
(落ちたのか!?)
追い詰められ、決死の覚悟で落ちたに違いない。
グラムに遅れること数瞬、背後の二人も理解する。
「下流を捜索する前にこいつらを処理するぞ」
「「はい」」
グラムは武装魔法を唱える。
アストの生死がかかっているために、冷静でいられず武器名を唱える。
「《オルクスの破槌》」
かつて災厄を撒き散らし、最後には勇者の命を代償にして討伐した魔龍オルクスの素材を使った伝説の武器。
鋼よりも硬い鱗で固められたハンマーの重量は男十人分にも匹敵する。
それをまるで羽でも振るような軽やかさで肩に担ぐ。
グラムに続いて二人も唱える。
「《イフリトの剣》」
「《嵐精の杖》」
大陸東部は夏季に台風と呼ばれる渦巻く風が猛威をふるう。
その原因である精霊の髪を編みこんで作られたのが《嵐精の杖》。
持ち主に嵐の加護を与え、天変地異を起こすとまで言われる。
「さっさと片付けるぞ」
《オルクスの破槌》を上段に振りかぶる。
「ふんっ―――!!!」
掛け声とともに地面を叩く。いや、砕く。
粉砕された地点からヘルバウンドたちがいる崖まで亀裂が走る。
幾重にも走る亀裂はまるであみだくじだ。
当たりの無い、全部死というはずれくじ。
ヘルバウンド達は慌てる。
グラムの力を見誤った。
すぐに逃げるべきだった。
地面が崩壊して谷底へと落ちていく。
その中でリセルが動き出す。
「はぁぁああ!!」
落ちる岩と岩を飛び跳ねて、異常な速度で接敵する。
「【イフリト】!」
《イフリトの剣》の刀身が真っ赤に染まり、周囲の景色を歪ませる。
【炎の魔法】と《イフリトの剣》の複合魔法。
詠唱の一秒後には全てを溶解する獄炎となり、それを剣に纏わせる魔法だ。
ジュワ、と一番前にいたヘルバウンドがバターのように溶かす。
奥で見ていたボスは敵わないと肌で理解した。
しかし撤退しようにも、状況は最悪だった。
それでも諦めなかった。
数分前に獲物が川に向かって飛び込んだのを、今度はボスが倣って敢行する。
「逃がしませんっ! 【嵐の魔法】【嵐旋】!」
フレイヤが魔法を唱え、《嵐精の杖》が呼応する。
杖の先に付けられた魔石が緑色に発光し、全てを掻き飛ばす暴風が発現する。
それは指向性を持った小型の竜巻。
逃げようとするヘルバウンドに向かい、ボスを吹き飛ばす直前。
「なっ!」
残った二頭がボスの前に出て守った。
二頭は刹那で、無数の骨まで至る切傷を受けて吹き飛ぶ。
しかし刹那は堪えた。
その間にボスは川へと飛び込んでしまう。
流れが早いため、その姿は彼方へと移る。
「逃がすかよ―――【煤の魔法】【震衝】」
《オルクスの破槌》が茶色に輝く。
グラムは谷に向かって跳び、着地の瞬間。
破槌を振り下ろす。
もたらした破壊は圧巻であった。
大地が割れた。
深さ十メートルの谷を、倍の深さの地割れが襲う。
まるで奈落だ。
谷底を流れていた水は落っこちる。
「【合掌】」
轟音を立てて奈落は閉じられる。
さきほどの地割れが幻だったように元通りとなる。
「さすがですグラムさん」
「ちっ、すまん。どうやら間に合わなかったようだ」
舌打ちする。
彼の想定以上に流れが速かった。
「追いかけますね」
「待てフレイヤちゃん。この先には確か崖がある。足だと大きく迂回することになるはずだ」
「ではどうしますか?」
「街に戻ってギルドに報告。あと捜索依頼も出せ。金はオレが全額出すから大盤振る舞いで数を揃えろ」
「は、はい!」
「オレとリセルちゃんはこのままギルドに戻らず追跡を続行する」
「分かりました!」
フレイヤは指示を聞き終わると、来た道を戻る。
「オレ達もいくぞ」
「はい」
☆ステータス
グラム・ヒュースター
称号『帝』 役割:槌使い
職業:冒険者 階級:一級
Lv84
HP 798/798 MP 641/641
物攻 830 物防 854
魔攻 475 魔防 555
俊敏 523 耐久 781
武装魔法
壱 《オルクスの破槌》 弐 《如意棒》 参 《ベリオスの堅盾》
支援魔法
○【物理上昇Lv54】【魔法上昇Lv20】【俊敏上昇Lv20】【耐久上昇Lv47】
→【身体強化Lv62】
○【HP回復Lv32】【MP自動回復頻度Lv21】【異常回復Lv23】
→【HP自動回復上昇Lv41】【MP自動回復上昇Lv25】【異常自動回復Lv22】
○【土の魔法Lv50】
→【地の魔法Lv99】
→【煤の魔法Lv2】
○【毒の魔法Lv12】【痺の魔法Lv19】【乱の魔法Lv14】
→【物理低下Lv25】【魔法低下Lv5】【俊敏低下Lv19】【耐久低下Lv30】
○【火の耐性上昇Lv10】【水の耐性上昇Lv10】【木の耐性上昇Lv10】【土の耐性上昇Lv10】【金の耐性上昇Lv10】
→【全耐性Lv18】
○【察知Lv35】【探査Lv28】【把握Lv27】【精査Lv18】【隠匿Lv17】【霧消Lv24】【剥取Lv50】【伝達Lv50】【指示Lv50】
→【探知Lv16】【地図Lv14】【隠蔽Lv6】【鑑定Lv3】【解体Lv34】【教育Lv47】
○【縮小Lv10】【拡大Lv10】
→【収納Lv5】
○【切の技術支援Lv50】【打の技術支援Lv50】【刺の技術支援Lv50】
→【斬の技術支援Lv26】【衝の技術支援Lv99】【穿の技術支援Lv14】
→【面の技術支援Lv3】
○【規模拡大Lv10】
生産魔法
〔水〕〔生活水〕〔食肉〕〔家〕〔家(簡易)〕〔テント〕〔飲み水〕〔布〕〔綿〕〔HPポーション〕〔MPポーション〕〔毒薬〕〔痺薬〕〔乱薬〕〔皮〕〔紙〕〔ナイフ〕〔包丁〕〔鍋〕〔椅子〕〔テーブル〕〔木皿〕〔ナイフ〕〔フォーク〕〔マットレス〕〔シーツ〕〔魔除け香〕〔銅剣〕〔鉄剣〕〔木槌〕〔銅槌〕〔鉄槌〕〔木棒〕〔鉄棒〕〔木盾〕〔鉄盾〕〔銅盾〕〔青銅盾〕〔皮靴〕〔針〕〔コップ〕〔櫛〕〔袋〕etc




